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舞台はキュワール南南西の島に移る。
その国の名をグリーン民主共和国という。国際的な略称はGI。
発展途上国だったこの国を第五次大戦中プロトン軍が発見、一気に先進国へと上り詰めた。
遠い昔旧Qグリーン帝国の植民地であったが、現在は立派な連合勢力である。
首都エイジアムシティ。国土の南半分を締める大都市。首都の東部には軍事施設が点在。
元々鉄鉱が豊富なこの国では、兵器の生産が活発で連合各国に輸出している。
そんな勝ち組国の大空にTU-160が接近してきたのは、キノコロード爆撃の一週間後だった。
前線のチョロQ王国とはあまりにも離れすぎた所に攻撃を仕掛けられた為、
GI本国の防衛能力は乏しく、TU-160に軍事施設を爆撃されるのは時間の問題だ。
そこでいち早く対応を始めたのが『クラシス精鋭部隊』と『軍団』だった。
軍団はチョロQ王国に駐留していた艦隊を緊急出航させ、
クラシス精鋭部隊も空母エンタープライズに多数の艦上機を積み込み、GI近海に向け出航。
クラシスはF/A-22から各機に指令を送る。
「こちらクルセイダーリーダー。各機応答せよ。」
多種多様な声紋が通信機を通してクラシスのスピーカーに入る。
「ブリーティングを先ほど行ったが、改めて確認しておく。現在グンナ爆撃機編隊が連合加盟国のGIへと向かっている。
GI軍AWACSの報告によると、TU-160が三機、MIG-27が三機、グラスト級艦船が二隻確認されている。
敵の目的はGI首都エイジアムシティ東部軍事施設への大規模空爆かと思われる。
グラスト級からは対地ミサイルの発射が予想される。残念ながらGI本土に迎撃施設は無い。
一応GI本国からも友軍部隊が向かっているが、我々が敵の後方より攻撃を仕掛ける。
敵艦船の攻撃は軍団の艦隊に任せておけばいい。尚、ミッション内容が更新される場合もあるので、
AWACSからの情報を聞き逃すな。以上だ。」
『了解!』
という勇ましい、だが緊張しているとも取れるクラシス隊の兵士達が声を揃える。
それとはあまりにもギャップが激しいオペレーターの落ち着いた黒い声がクラシスのスピーカーを突く。
『クルセイダーリーダー、発艦せよ。」
空母エンタープライズから発艦したのは、合計10機のF/A-22だった。
クラシスは肉眼でうっすらと見える埋立地を確認した。
「敵艦船確認。」
『こちらクルセイダー3、ロックオンされている!」
『了解、援護する!』
「とにかく、今は爆撃機編隊を片付ける事が最優先事項だ。艦船はあまり相手にするな。」
『了解!』
「敵機を射程内に捕捉。」
『ミグだ!』
「ファイアッ!」
ミサイルリリース。
白い矢は曲線の雲を立てながら、確実にミグへと近づく。
ミグは回避行動を取ろうとするが、胴体部分にてミサイルは爆発。
ミグは紅の塊なって爆散。被弾部位から真っ二つに裂け、紺色の海へひたすら堕ちていく。
「よし!」
『流石はクラシス隊長!』
『こちらクルセイダー2、別方面より不明機を確認!ロックオンされています!』
「何っ・・?」
次の瞬間、タイミングがいいのか悪いのか、AWACSからの通信が入った。
『ミッション更新!敵航空部隊確認!Su-47が四機!Yak-38が五機!いずれも空母からだ!』
クラシスは流石に気が滅入った。
「空母の位置は確認できないか!?」
『確認した!グンナ級空母二隻!護衛艦がいるぞ!』
「軍団艦隊!グラスト級が片付いたら、北東のグンナ級空母を叩け!」
『こちら武蔵。クルセイダー、了解!』
『ミサイルだ!逃げろ・・』
ブツッという音と共に通信が途絶えた。
『クルセイダー3、撃墜!』
『こちらヴァイパー(GI迎撃部隊)リーダー、爆撃機編隊は半減!』
『敵機針路変更、補給へ向かう模様です!』
『当たれやぁっ!』
『駄目だ、計器が壊れた!操舵が効かない!脱出する!』
『下は海だ、サメに気をつけろよ』
苦しみを分け合うかのように様々な通信が響き渡る。
クラシスは機関砲でグラスト級を砲撃。見事管制塔に被弾した。
その直後、隣のもう一隻のグラスト級が波を立てながら爆発したのを目にした。
『こちら軍団艦隊、敵艦船停止!これより一時の方向に針路を変更、敵空母を攻撃する!』
『ターゲット捕捉。ベルクートだ!』
『クルセイダー9がやられた!』
『ミス!ミス!』
緊張を拭うように各機のパイロットは声を上げた。
クラシスは落ち着いていた。そうでもしないとここまで生きていない。
レッドアウトを承知で急降下。
クラシスは人間で云う食道が逆流しそうになった。
「敵空母を射程内に捕捉。」
対艦ミサイルは積んでいなかったので、機関砲で攻撃した。
ドリルで穴を開けるような機関砲の音と黄色の光が、敵空母を貫通した。
勿論空母からはAAM(艦対空ミサイル)が発射され、クラシスのF/A-22の機内では警告音が鳴り響いた。
敵空母は機関砲を浴び、爆砕した。
ターゲットを破壊したは良いが、問題はその後だった。
発射されたAAMを避ける為に急旋回。海面スレスレで飛行。
「やり切れっ」
願いは届いた。AAMはやがて力尽き、水飛沫を立てて海に呑まれた。
「こちらクルセイダーリーダー、敵空母停止。」
『よくやった』
たった一言だが、それはオペレーターの家族、戦友全ての感謝の気持ちが詰まっていた。
「これで敵の援軍は少なくなりそうだ・・」
爆撃機編隊は壊滅状態。残ったTU-160は最後の作戦に出た。
『こちらヴァイパー2、生き残った爆撃機が軍団の艦隊に向かっている!』
AWACSは即座に応答した。
『確認した。どうやら爆弾を友軍艦隊に向け投下するようだ。クルセイダー、阻止せよ。』
「了解。」
クラシスはそろそろ補給に戻りたかったが、あいにくその補給箇所である空母が狙われているのだ。冗談じゃない。
「爆撃機2機を確認。ロックオン完了。」
ディスプレイの中心に「SHOT」の文字が浮かび上がる。
「くたばれ」
機体が軽く揺れ、ミサイルが発射された。SIDE WINDER(中距離)だった為、当ったか否かはキャノピー超しに確認できた。
もう一機は友軍機が片付けていた。
『こちら武蔵。敵空母及び護衛艦の航行不能を確認。』
艦長のどすをきかせた声が全機、そしてAWACSにも伝わった。
『了解、残るは敵航空隊のみだ。』
『やつら、ヤケになりやがったぞ!』
『ぐあああぁぁああぁぁ!』
『おい!しっかりしろ!』
『畜生、熱い!』
罵声が飛び交った。
クラシスは敵航空隊の最後の一機を相手した。
彼はどんな気持ちでこの大空を飛んでいるのだろう。
祖国を離れ、仲間を堕とされ、帰る所さえも消えてしまった、孤独なSu-47。
しかし容赦は無用、これは人殺しではなく戦争なのだ、そう言い聞かせて遠距離ミサイルを発射した。
「俺にしてはなかなか初心者っぽい同情心を抱いたな・・」
Su-47のコクピットにミサイルは直撃、破片が赤みを帯びながら空へ散っていった・・
オペレーターがようやく落ち着きを取り戻した。
『後続機はいない模様。よくやった。全機帰還せよ。』
了解!
『こちらエンタープライズ。クルセイダーリーダー、着艦を許可する。ギア確認後、指示に従って着艦せよ。』
「了解。」
戦闘の緊張が解け、クラシスは笑みを浮かべる事すらできた。
尤も、チョロQに表情はない。
160ノットまで減速、着艦。フックが働き、強制的に機体は停止した。
停止した時にGが掛かったが、クラシスは何より無事に帰還できた事が嬉しかった。
『タッチダウン。』
キャノピーのロックを解除し、開放。潮風の臭いが鼻を突いた。
画像はGI戦の初期配置
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