第三十六話 漂流艦隊
ルナツー司令部
松井元帥「・・・それで、第一独立艦隊との通信はまだ取れないのか」
元山少将「はい、未だに、現在位置はつかめておりません」
松井元帥「・・・エバンス大佐、コスナー君の今までの戦歴は知っておるな?」
エバンス大佐「はっ、確かCQ暦241年の9月だったと思います。ウルタンク帝国軍のプロトン合衆国上陸作戦の際でしたね」
松井元帥「ウルタンク帝国の上陸作戦か・・・」
エバンス大佐「その時期に帝国軍将校を射殺したのがクラシス・コスナー大佐だったと思います」
松井元帥「そして後にプロトン合衆国空軍第六航空団第427航空隊に入隊。CQ暦350年以降の第七次キュワール大戦において多数の戦果を挙げる。といったところだな」
エバンス大佐「しかし彼の経歴に関しては全く以って不明であるそうです」
松井元帥「・・・噂ではどこかの施設で研究されていた、とかさまざまな説があるな」
第一独立艦隊消失から数時間が経過した
突如出現したシルグノーム級戦艦「シルヴァートン」の亜空間ドライブに巻き込まれ消失したとされるが、だとすれば帰還は不可能である
エバンス大佐「しかし、既に第一独立艦隊は亡失認定がされているではありませんか」
松井元帥「第一独立艦隊司令はあのコスナー君だ。そう簡単に、彼が死ぬと思うか?」
エバンス大佐「・・・・・・」
大鳳中将「いずれにせよ、いたとしてもラファリエス近辺ですからね・・・」
ふと、松井元帥はエレミア星系図を眺めた
さまざまな色の惑星が描かれている
そしてそれら惑星の周辺には多数の衛星が書かれている。その中のいくつかは基地であろう
松井元帥「・・・確認されているだけで、こんなに基地があるのか・・・」
そしてその中の一つに、紫色の惑星があった・・・
一方、第一独立艦隊。戦艦「シルヴァートン」の姿は見えず、艦隊だけが停止していた
第一独立艦隊 重巡「フィンバック」
艦橋の内部ではほとんどのチョロQが倒れている。たった1台、クラシスはようやく気がついた
クラシス「・・・こちら、第一独立艦隊。状況不明。謎の宙域に置いて孤立・・・おい、みんな大丈夫か?」
周りを見回すが、艦橋員の大半は倒れている
結局、起こすこととなった
周りの艦橋員のみで済ませることにしたのだが、各部署から報告が入っている
数分ほどで全員を起こすことに成功した
カイト大尉「・・・しかし、司令。負傷車もいる模様ですね」
クラシス「そうだな・・・しばらく医務室は大変だろうな・・・」
しばらくすると僚艦からも報告が入った
僚艦乗組員A(通信)「こちら『フォーレイ』、異常はありません」
僚艦乗組員B(通信)「こちら『カルボーネロ』、異常ありません」
クラシス「・・・全艦、無事なようだな・・・」
しかし全く以って謎だ。ルナツー司令部からの通信も無い
そのルナツー司令部にも、第一独立艦隊からの通信が全く来ないのである
ルナツー司令部
元山少将「・・・司令、未だに見つかりません」
松井元帥「京城、どう思う?」
京城大佐「自分は、通信距離の問題かと思われます」
松井元帥「つまり、どういうことかね?」
京城大佐「通信機に関しては通信可能距離にある程度の限界が存在したはずです」
松井元帥「ああ、確かそうだったな」
京城大佐「その限界を超えた位置に、いると思うんです」
松井元帥「・・・ラファリエス、か?」
京城大佐「分かりませんが、その可能性は高そうですね」
一方で、連合軍の艦隊の追撃を振り切った、戦艦「シルヴァートン」は・・・
戦艦「シルヴァートン」
艦長「まずいな・・・駆逐艦四隻を失って、これから、我々はどうしろというんだ?」
副長「艦長!本部より通信!」
基地司令官(通信)「・・・今回の件に関しては、まあいいだろう。敵の艦隊をわざわざこっちまで持ってきてくれるとは」
艦長「あ、あれは事故でありまして・・・」
基地司令官(通信)「いや、別に悪い意味ではない。敵の艦隊はもう既に帰還できない。弾薬の無駄だ、攻撃はしない」
艦長「そ、それで、我々はどうすれば?」
基地司令官(通信)「演習を終了し、帰還せよ。よくやった」
そこで、基地司令官からの通信は途絶えた
どうやら、処分は避けられたようだ
ルナツー司令部
松井元帥「・・・・通信はまだかね?」
元山少将「・・・まだです。報告は無し・・・司令!妙な通信を傍受しました!」
第一独立艦隊が数時間前に打電した通信であった
松井元帥「内容は?」
元山少将「・・・・ちら・・一・立・隊・・・不明。謎の・・・・孤立」
松井元帥「・・・・・・・・第一独立艦隊だな」
元山少将「えっ!?」
松井元帥「おそらく、こちら、第一独立艦隊、状況は不明。謎の宙域にて孤立。だな」
京城大佐「一体、何故分かったんですか?」
松井元帥「立と隊の2文字があるのは独立艦隊のみ。一があるから第一独立艦隊だろうと思ってな。状況は不明だが、現状かもしれんな・・・」
ドニゲッテル少将「やはり生きていましたか!」
ユゴス少佐「あの程度で全滅しては困りますからね」
エバンス大佐「しかし、消失してから既に半日近く経過しています」
松井元帥「・・・通信がここまで飛んでくるのに時間があったんだろう、そうだな?京城」
京城大佐「はっ、通信距離の限界を超えた場合、瞬時にではなくある一定の時間を経てから通信が届く、そういう風になっているはずです」
ようやく、第一独立艦隊の現存を確認した
だが、本当にそうであるかは不明だ
一方、第一独立艦隊・・・
第一独立艦隊 重巡「フィンバック」
クラシス「ところで、現在の宙域だが・・・」
カイト大尉「周りを調べれば、何かあるはずです」
とりあえず、手分けして艦隊の周辺の状況を探ることにした
すると、巨大な紫色の惑星を確認した
プロトン兵士A「艦長!巨大な惑星です!紫色の奴です!」
カイト大尉「・・・確かに惑星だ!一体あれは・・・」
ふと、クラシスはセイロン基地に置かれていたアマティス軍の資料を思い出した
確かラファリエス星の色は紫色だったはず・・・
クラシス「急げ!全速前進であの惑星から離れるんだ!」
プロトン兵士B「ええっ!?一体どういうことですか!?」
クラシス「あれはラファリエス星だ!敵艦隊に捕捉される前に離脱するぞ!」
カイト大尉「全速前進!」
10隻の艦艇は全速でラファリエスを離脱した
ラファリエス司令部
ラファリエス兵士「敵艦、前進しました」
基地司令官「どうやら、気づかれたようだな。艦隊を出航させろ」
ラファリエス兵士「了解しました」
いくつかの艦艇がラファリエスを発進していく
ほとんどが旧式の艦艇であったが、追撃には向くのかは不明であった
これは、第一独立艦隊にとっては好都合であった
全速で離脱し、ようやくレーダー圏内からの脱出に成功したのであった
ラファリエス兵士「司令、敵艦隊、レーダーより消失!」
基地司令官「・・・逃げられたか・・・旧式艦では追いかけられん。全艦、帰還せよ!」
ルナツー司令部
松井元帥「・・・ラファリエス近辺か。やはり漂流だな」
元山少将「司令、またも妙な内容を傍受。第一独立艦隊の各艦の艦名が出ております」
松井元帥「全艦、無事だったのか」
京城大佐「おそらく、艦隊通信でしょうな」
松井元帥「しかし、帰って来れるかどうか・・・」
ドニゲッテル少将「確かにあの辺は敵地ですからね」
ユゴス少佐「生きて帰れるかどうか・・・」
松井元帥「とりあえず、生存は確認されたな。後はどうなるか・・・」
エバンス大佐「しばらくは亡失認定としておきますが」
松井元帥「ああ、とりあえずはな」
第一独立艦隊 重巡「フィンバック」
クラシス「やはり本部からの通信は来ないな」
カイト大尉「この位置じゃあ時間がかかるでしょうな」
クラシス「そうだな。とりあえず針路上に問題は無いな・・・」
プロトン兵士A「敵艦隊、撤退していきます」
カイト大尉「よし、このまま前進するぞ」
第一独立艦隊は敵地からの脱出に成功した
だが、その先に何があるかは不明である。念のために戦闘準備を取ることにしたのだった・・・
第三十六話 終わり

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