第五十八話 地底戦車炎上す
連合軍は、ベータ空襲は迎撃に成功するも、ベータ沖での戦闘に敗退し、遂に上陸されてしまった
ベータ基地に上陸したグンナ帝国軍は、第五八連隊を駆逐しつつ、入り口近辺へと近づいてきた
しかし、突如出現した第231特科分隊の新兵器「六三式地底戦車」の攻撃を受け、右翼進行中のBT戦車が次々と破壊されていった
反撃の始まりであった
第257大隊司令、テイラー少将は、地底戦車への攻撃を敢行し生き残った四両の兵士から、話を聞いていた
その傍らではT−34が多数、地底戦車へと向かって行った
テイラー少将「あのドリル戦車は何とかならんのか!」
グンナ兵士A「我々の兵器では太刀打ちできません!」
グンナ兵士B「レーザー砲二門のほかにも機関砲多数とミサイルが搭載されております!」
グンナ兵士C「レーザー砲の威力は凄まじく、一発で軽戦車を・・・」
直後、果敢に突撃していったT−34の内の五両ほどが、凄まじい爆発と共に消失していった・・・
グンナ兵士C「訂正します。一発で中戦車を破壊する威力を持っています!」
テイラー少将「一撃で中戦車を破壊、だと・・・」
第244大隊のウォレス准将も、会話に参加する
ウォレス准将「完全にバケモンじゃないか!」
まだ、戦車隊による無謀な突撃は続いていた
遂に重戦車、JSが動き出した
ゆっくりと地底戦車へと接近していくJS−2
しかし、再び90mmレーザー砲が動き出した
一撃では破壊されなかったが、さすがに第二射には耐えられなかった
ほんの数発で破壊されていくJS−2。JS−3もそれに続いていく
その勢いは、次々とM4シャーマンを破壊していく、ティーガーTのようであった
テイラー少将「・・・一旦、後退する」
ウォレス少将「総員退却!退却だ!退却!」
一斉に、多数の戦車が後退を開始した
ベータ司令部
ドニゲッテル少将「これはいけるぞ、一気に殲滅できる!」
ユゴス少佐「ようやく、反撃が出来ますね」
松井元帥(通信)「・・・念のため、現在ライトウォーターで予備車を三両ほど用意しておいた。現在一両を『蒼空改』に搭載している」
ドニゲッテル少将「予備?一体どういうことですか?」
松井元帥(通信)「・・・何かありそうな予感がする・・・」
松井元帥の発言は、常に意味深である
先を見通したかのような、妙な発言。幾度も従軍し、上にまで裏切られた「経験」があるからなのだろうか
言い方を変えれば「革命家」になる彼だが、おそらく彼が革命を起こしたら、グリシネ陸軍は対抗できないであろう
実際、ドニゲッテル少将も、クーデターの際には皇帝一派を圧倒的に追い詰めていたのだ
松井元帥(通信)「・・・敵も、何か新兵器を持っている可能性がある・・・」
フェラーリ中将(通信)「・・・提案があるのですが」
ドニゲッテル少将「どうした?フェラーリ中将」
フェラーリ中将(通信)「・・・一旦、追撃を中止し、入り口周辺で防備を固めたほうが良いと思うのですが」
アコース中佐(通信)「自分も、中将の意見に賛同します」
ドニゲッテル少将「・・・言おうとしたことを言いやがって。俺もそれを考えていたところだ」
松井元帥(通信)「・・・どうやら、みんな分かっていたようだな」
ドニゲッテル少将「・・・松井元帥、例のもの頼みますよ」
松井元帥(通信)「了解。西田に連絡しておく」
西田、すなわち、第189小隊司令、西田大佐である
機動戦法を得意としており、明らかに要塞表面部での戦闘に長けていたが、後詰めとして要塞内部の防衛を担当していたのだ
ドニゲッテル少将「表面に彼らを出せば、機動戦法で敵を翻弄できるはずだ」
計300両の戦車が一斉に要塞入り口から出現、敵部隊の攻撃にかかった
ベータ基地
アコース中佐「・・・敵軍、再び進撃を開始!」
フェラーリ中将「・・・あれはグンナじゃないぞ!」
西田大佐(第189小隊司令。車種:61式戦車)「・・・あいつは・・・まずいぞ!」
フェラーリ中将「な、何がまずいんだ?!」
西田大佐「あれは上陸してきた敵軍の中でもっとも恐ろしい、カルオス陸軍第240大隊!」
フェラーリ中将「第240大隊・・・あいつか!」
地底戦車や90式戦車、ルクレールが次々とカルオス陸軍の突破阻止にかかる
しかし、突如現れた航空攻撃に苦戦する一方であった
おびただしい数の敵機は、地底戦車の対空ミサイルでも落としきれない規模であった
ベータ司令部
ドニゲッテル少将「航空機だと!?」
ユゴス少佐「しかもこれほどの量!?」
ドニゲッテル少将「基地航空隊が巻き返したか!?」
藤田上等兵「各基地に現状を報告!増援の準備を!」
ライトウォーター司令部
コピック中佐「一体、どこからこれほどの航空機が!?」
マグス中佐「我が軍の砲撃を妨害するかのようですね・・・」
松井元帥「・・・やつら・・・まさか・・・」
川島兵長「・・・司令・・・」
ティーガー元帥「カルオス陸軍となると・・・」
松井元帥「確か、上陸直後、第240大隊は不可解な停止を行っていた・・・どうやら支援射撃部隊に何かを配っていたようだが・・・」
コピック中佐「・・・新兵器ですかね?」
松井元帥「だろうな。おそらく、以前の空襲時に地底戦車の存在を知り、新たに作ったか・・・」
パレンバン司令部
ガランタン大尉「司令!聞きましたか!?」
ボルナソス大佐「ああ、ベータ基地、敵部隊上陸の件だろ」
ガランタン大尉「はい、厄介なことになりましたね・・・」
ボルナソス大佐「どうやら、日戦軍団の地底戦車が活躍しているそうだが・・・」
ガランタン大尉「ああいうのって、長くは持ちませんからね・・・」
Qシュタイン連邦 海軍司令部
フルト元帥「・・・サウラー君、どうやら、えらいことになったようだな」
サウラー中将「はっ、特務艦隊を派遣しなかった自分に責任があると心得ます」
フルト元帥「ははっ、そこまでせんでよい。『ビスマルク』をあの場に派遣しても、敗北は見えていた」
サウラー中将「・・・どういうことですか?」
フルト元帥「『紀伊』と『ビスマルク』で、戦闘艦隊の撃破は出来ても、輸送船団の阻止は難しいだろう。あれほどの隻数では・・・」
パラオ大佐「しかし・・・」
フルト元帥「・・・松井元帥のことだ。何か手を打ってくれるはず」
パラオ大佐「現在、地底戦車なる新兵器が展開しているようですが」
フルト元帥「そうか。あのドリルのついたデカブツだな。今度、陸軍本部のナルマルガムにでも、陸上戦艦派遣について打診しておこう」
Qシュタイン兵士「閣下!ベータ基地に対する空襲が激しくなったようです!」
フルト元帥「何っ!?」
サウラー中将「地底戦車は戦車なので対空戦闘は苦手なはず・・・」
ルナツー司令部
チョロンネル中佐(ルナツー基地司令。車種:38(t)駆逐戦車 ヘッツァー)「地底戦車?」
スコダ大尉(ルナツー基地副司令。車種:35(t)戦車)「はっ、ベータ基地に持ち込まれた新兵器のようです」
チョロンネル中佐「そういえばナルマルガム中将からそれらしき兵器の話を聞いたな。『地中深く掘り進むドリルを搭載した新型戦車』らしいが・・・」
スコダ大尉「現在、グンナ陸軍の二個大隊を駆逐、カルオス陸軍第240大隊と交戦中です。しかし、敵の攻撃が激しく、近づけないようです」
Qシュタイン通信兵「敵、砲撃を開始!」
六三式地底戦車 車内
村山大尉「可能な限り回避するぞ!」
島村兵長「了解!」
相手はヘッツァーやカノーネだ。カノーネの90mm砲は厄介だが、この地底戦車にはほとんど効果はないだろう
高田上等兵「ライトウォーター司令部より入電。『予備は用意した。もしもの時は搬送する』以上です」
村山大尉「予備・・・?」
島村兵長「まさか、この戦車が破壊されるはずがありませんよ!」
高田上等兵「・・・戦車長!あれは!?」
ベータ基地
ハットン少将「装備換装始め!」
カルオス将校「装備換装始め!」
第240大隊の各車両が兵装を変更しているようだ
そして、それら車両郡から一斉に攻撃が繰り出された
六三式地底戦車 車内
村山大尉「まずい、潜行開始!」
島村兵長「潜行開始!」
地底戦車は車体を傾斜させ、潜行を開始した
辺り一体に土煙が上がる
ベータ基地
大塚中尉「退避!」
十数両ほどの支援部隊も一斉に退避、全弾をかわしつくした
だが、大塚は砲台を目撃したのだ
地上用のものとは思えない、大規模な砲台だった
大塚中尉「・・・あれは!?」
日戦軍団兵士「・・・大塚中尉?」
大塚中尉「急げ!村山隊長に連絡だ!」
突如、その砲台から、奇妙な砲弾が発射された
大塚中尉「・・・地底貫通弾!?」
「地底貫通弾」。一般的には「ドリルショット」と呼ばれる代物だ
その名の通り先端部にドリルの付いた砲弾である
日戦軍団でも開発されていた代物だが・・・
直後、物凄い爆発と、地震が起こった
大塚中尉「隊長!」
直後、地底戦車からの通信が途絶えた
大塚中尉「隊長!隊長!村山大尉!応答してください!」
日戦軍団兵士「・・・地底戦車が・・・やられた?!」
ライトウォーター司令部
松井元帥「村山!村山!応答しろ!村山!」
コピック中佐「新兵器・・・ですか?」
松井元帥「地底戦車なんてバケモン作った頃から、既に企画されていた代物なんだがな・・・やはり敵のほうが早かったか・・・」
マグス中佐「地底貫通弾・・・プロトン合衆国では『ドリルショット』と呼ばれていた戦車用新型徹甲弾・・・」
松井元帥「『地底貫通弾』なんてたいそうな名前がついているが、ドリルショットをでかくしたようなもんだからな。誰も地底戦車のような地下の目標に叩き込んだ事はない・・・」
ベータ司令部
ドニゲッテル少将「村山!呼ばれたら返事をしろ!」
ユゴス少佐「司令!通信機がやられたようです!」
ドニゲッテル少将「地底戦車がそう簡単にやられるわけないだろ!」
平岡上等兵「しかし、地底戦車からの通信が途絶えたのは事実です」
ドニゲッテル少将「おい、確かさっき、砲台から新型砲弾が打ち出されたって話を聞いたが・・・まさかそいつが地底戦車を破壊したとでも言うのか?!」
藤田上等兵「それ以外、考えられません!」
平岡上等兵「司令!地底戦車は健在です!しかし、もう持たないでしょう」
ドニゲッテル少将「健在だがもう持たないだぁ!?そんな馬鹿な話があるか!」
ベータ基地
大塚中尉「隊長!」
日戦軍団兵士「大塚中尉!まだ危険です!」
辛うじて浮上に成功した地底戦車だが、既に煙を噴出していた
そして、自走砲からの砲撃が始まった
大塚中尉「畜生!もうやられたというのに、あいつらは何を考えてやがるんだ!本来なら我々を叩くべきだろう!」
大塚は怒鳴り散らし、部下を連れて砲撃に参加した
地底戦車の機関砲が響く
残る機銃は二丁。もはや次の砲撃には耐えられないだろう
六三式地底戦車 車内
村山大尉「大塚!本車はもう持たない!退避するんだ!」
大塚中尉(通信)「隊長を守らずして、何が士官ですか!?」
村山大尉「逆だ!隊長の責務が、貴様ら部下を守ることなんだ!」
敵戦車が使用した砲弾は特殊なものであった。特殊徹甲榴弾というべきであろう
島村、高田による機銃射撃は続いていたが、もはや間に合わないだろう
次々と響く爆発音。もはや無理だ
村山大尉「島村!高田!急げ、脱出だ!」
島村兵長「了解!」
高田上等兵「隊長は!?」
村山大尉「お前らが出てからだ!隊長は最後に脱出するものだ!」
高田上等兵「了解!」
三両の戦車が、地底戦車から脱出していった
ベータ基地
村山大尉「大塚!この場は一旦引くぞ!」
大塚中尉「了解!」
直後、地底戦車は爆発を起こした
第240大隊はそれを見て後退を開始した
大塚中尉「野郎、地底戦車を破壊するためだけにやってきたのか?!」
村山大尉「だろうな・・・」
大塚中尉「しかし、既に行動不能になっていた地底戦車を叩くなんて、あいつらやりすぎじゃないか?」
日戦軍団兵士「下手すりゃ集団リンチの類ですよ」
村山大尉「・・・再使用はできるだろうな。機関部はやられたが、日戦軍団はそれだけで放棄するようなものではない」
ベータ司令部
平岡上等兵「地底戦車はやられたようです」
ドニゲッテル少将「追撃は、無理なようだな」
藤田上等兵「ウルタンク軍が進撃を開始しています。残りの部隊で迎撃できるか・・・」
ユゴス少佐「陥落は時間の問題かもしれませんね・・・」
ドニゲッテル少将「・・・・ユゴス、いざという時の為、装備の点検をしておけ」
ユゴス少佐「・・・司令?」
ドニゲッテル少将「もし司令部に敵が突入したら、俺達が戦うんだ」
ユゴス少佐「我々が、ですか?」
ドニゲッテル少将「ああ、そうでなければ、散っていった部下に申し訳が立たん。今まで散々、逃げ回ってきたんだからな」
ロケットランチャーの作動試験をしながら、ドニゲッテルは言った
ユゴス少佐「・・・散っていった・・・部下・・・」
彼らが考えていたのは、第五次キュワール大戦のQトルック上陸戦であった
日戦軍団陸軍機動艦隊の援護を受け、上陸したはいいが、多数の兵士が海岸で倒れた。そこから一番近い大都市、バーミメアンにたどり着くまで、部隊の半数の兵士が、敵地で散ったのだ
ライトウォーター司令部
松井元帥「・・・やはりな・・・」
コピック中佐「・・・まずいですね・・・」
ティーガー元帥「・・・こうなることは、分かっていたようですね、司令?」
松井元帥「ああ、敵も新兵器を開発しているだろうと思った。これほどの威力だとは思わなかったが」
村山の操縦する地底戦車は遂に炎上した。そして後退したグンナ軍に代わって、ウルタンク軍が進撃を開始した
連合軍は、再び劣勢となったのであった
第五十八話 終わり