第六十四話 奇襲戦車隊
前回の戦闘において、第三弾薬庫および第一飛行場に陣取る部隊と交戦していた敵部隊が、突如撤退した理由。それは、数時間前にさかのぼる・・・
岩陰に退避していた、ドニゲッテル少将以下300両
ドニゲッテル少将、ユゴス少佐を筆頭に、アコース中佐率いる第253小隊、村山大尉以下第231特科分隊、そしてニビリア第58連隊の精鋭20両、これだけであった
一方で、敵を挟んで逆側には、第189小隊、第58連隊が布陣していた
いずれも、遠くに見える敵を監視しつつ、第五滑走路近辺にある臨時司令部からの通信を待っていたのだ
ドニゲッテル少将「・・・松井元帥の派遣部隊が、臨時で指揮を執るそうだ。俺たちが滑走路にたどり着くまで、米沢大将が総指揮官だ。以上!」
一応、米沢のほうが階級は上だ。司令部が崩壊した今、彼が総指揮官になるのも当然であろう
ようやく、臨時司令部からの指示が下った
米沢大将(通信)「米沢より表面部隊。敵の先発隊が要塞内部に侵入、外部の敵は減っている模様」
ドニゲッテル少将「つまり、これが好機、ということか?」
米沢大将(通信)「その通り、増援を回すため、彼らと共に敵表面部隊に奇襲を仕掛けてくれ。健闘を祈る!」
ドニゲッテル少将「本部からの通信は以上のようだ。総員、敵部隊に対し突撃を敢行せよ!」
そう言うと、ドニゲッテルは、敵めがけて動き出した
アコース中佐「司令に続け!全軍突撃!」
第253小隊、それに続く
村山大尉「ここで敵を撃破し、内部の敵を撤退に追い込む!」
第231特科分隊も続く
フェラーリ中将「後から続く友軍のため、命がけで突き進め!」
第58連隊の精鋭たちも続く

報告は、本部にもしっかり届いている
リゾニアの小都市、ザスレイクに駐留する、第七八航空隊の隊長、ガトー少将は、報告を聞いて驚いた
ガトー少将「まだこんなに友軍がいたのか!?」
副飛行隊長、クエゼリン大佐も、状況に驚いていた
クエゼリン大佐「連隊がたくさんいるって話だからな。総本部の話では、どうやら、輸送機編隊と輸送船団で援軍を運び込んだらしい」
レイテ大佐「でも『紀伊』の出航報告はないって話ですが・・・」
クエゼリン大佐「連合軍に同規模の戦艦はいくらでもいる。それらを利用してるんだ」
ガトー少将「そういえば第二八航空隊の本郷大佐からの報告は?」
第二八航空隊、パレンバン基地に所属する航空隊である
主戦力は四四式戦闘爆撃機。無論、第七八航空隊からの転属組で構成されている
攻撃機隊は飛行隊長が、戦闘機隊は副飛行隊長が指揮を執るのが、四四式戦闘爆撃機で編成された航空隊の特徴である
なお、艦隊通し番号の「二八」
が基地所属航空隊に用いられているのは、艦隊通し番号は宇宙基地にも適用されるからである
クエゼリン大佐「まだパレンバンに異状は無いらしい。稲荷からも特に来てないからな」
稲荷、すなわち、副飛行隊長の稲荷坂中佐の通称である
いずれも、元々はグリシネのある企業に勤務する、すなわち「民間車」であった
日戦軍団は民間組織であるため、年齢制限を除いては基本的に条件もなしに入隊が可能である
お堅い組織、つまり本国軍部とは違うのだ
ガトー少将「考えてみれば、あいつら北川線の電車の中でたまたま相席で、話し合っているうちに意気投合したそうだからな」
クエゼリン大佐「さらに偶然にも松井元帥の隣が俺だったわけだからな」
レイテ大佐「偶然って重なるもんですねぇ・・・」
松井元帥は、普段はグリシネの郊外から、15m程度の、小さな四両編成の電車に乗って、本部に出向するのだ
なぜ本部のある中心街に住まないかというと、松井元帥は都会が嫌いだからである
シブヤン中佐「しかし、採用基準がよく分かりませんよね」
ガトー少将「それが民間組織の特徴だよ。履歴とか家柄とかにとらわれない、自由な採用基準、ってところか。結局基準なんてないんじゃないのかな?」
シブヤン中佐「そ、そういうものなんですか?」
クエゼリン大佐「一度国家に刃向かった身だから、元軍人とかそういう堅いものじゃないってことだろうな」
シブヤン中佐「いや、それじゃ説明になってませんよ」
クエゼリン大佐「要するに、日戦軍団とグリシネ本国軍は、根本的に違うということだよ」
陸上戦闘の報告を聞きながら、彼らは日戦軍団上層部の話をしていたのであった

Qシュタイン連邦第221連隊、日本戦車軍団第443連隊も到着した
第221連隊はドニゲッテル側を、第443連隊は混成軍側を支援する
島田中将(第443連隊参謀長。車種:74式戦車)「島田より本部!前線に到着!」
米沢大将(通信)「よし、友軍に続いて敵を攻撃せよ!」
島田中将「了解しました!」
アイスナー少将「よし、指示どおりに突撃を開始する!」
彼らの前方に見えるのは、第877連隊。補充部隊を含めても4000両程度なので、表面展開部隊と比べると少ない
敵はT−34/85を主力とし、T−44、JS−1、JS−2で構成されている
わがほうはパンターA型を筆頭に、パンターG型、ティーガーU、さらには90式戦車にルクレールなど、強豪揃いである
敵を次々と破壊していく
ドニゲッテル少将は、複数の敵めがけてロケットランチャーを発射し、続いて38cm臼砲を叩き込む
臼砲には榴弾が搭載されている
多数のT−34/85が炎上する
ユゴス少佐もそれに続いて、超射程ミサイルと120mm滑腔砲を発射する
JS−1の側面に命中、JS−1は炎上した
飛行場の部隊が手を焼いているという、T−44に、村山は砲塔を向けた
村山は観測戦車。それゆえに武装は少ない
一応、機関砲を積んではいるが、たいしたものではない
T−44も砲塔を旋回し始める
後ろから島村がやってきた
島村兵長「大尉殿!こいつは俺に任してください!」
しかし、島村も九七式中戦車。T−44なんて、いくら側面でも不可能なはず・・・
そして、島村は射撃を開始した
命中するが、はじかれる
島村兵長「畜生、もっと近づかなきゃダメか・・・」
村山大尉「島村、あれは無理だと思うが・・・」
島村兵長「いや、やって見せます!」
機関砲を放ちつつ、島村は前進する
T−44も砲塔を旋回させる
しかし、島村の機動性にはついていけない
島村の主砲射撃が始まった
砲塔後部に命中する
しかし、特に反応は無い
その次に放たれた砲弾は、エンジン部に命中した
発射されたのは、新型の対戦車弾、通称「タ弾」であった
直後、エンジン部から爆発が起こり、T−44は炎上した
島村兵長「T−44を撃破!」
村山大尉「・・・全く、お前はすごい奴だな」

報告は着々と入っている
第231特科分隊の島村兵長が、新型タ弾でT−44を撃破したという功績も伝えられた
さらに高田上等兵もT−34/85のターレットリングに新型タ弾を命中させ、撃破したという
船山曹長「おい、笠井、これ見てみろ」
笠井兵長「はい・・・えっ!?T−44を!?」
船山曹長「ああ、新型タ弾によるものらしい」
笠井兵長「第231特科分隊ってすごいところですねぇ・・・」
船山曹長「何しろ特科だからな。砲撃支援だけが特科じゃないとはよく言われたもんだが・・・」
通信室は、まだ仮設状態である
以前の上陸戦の際に使用していた、予備の通信室を使用している
先のミサイル攻撃で、本来の通信室がある司令部は、いまだに修理が終わっていない
通信室のトップである鍋坂大尉も、この状況には驚いていた
鍋坂大尉(車種:試製五式4.7糎自走砲)「しかし、いきなりあんなでかいミサイルが飛んでくるとはな」
笠井兵長「妙なことばかりがおこりますね」
船山曹長「戦況も二転三転。全く分からんな」
通信室の兵士たちは、戦況をほとんど理解できなかった
果たして連合軍は、勝っているのか、負けているのか。それさえもわからない
鍋坂大尉「だが、我々の任務は、こうして通信を伝えることだ。与えられたことを、しっかりやるべきだな」
船山曹長「そうですな、大尉」
報告が飛び交う中、船山はそう言った

大塚中尉「よし、このまま本隊まで突き進む!」
既に、連隊長のフラスコ少将の直轄部隊の近くにまで来ていた
そのフラスコ少将は、突然の敵襲に唖然とした
フラスコ少将「何だっ!?」
グンナ兵士A「敵襲です!既に多数がやられております!」
グンナ兵士B「第158中隊からの応答が途絶えました!」
一両のJS−4が砲塔を旋回させ、大塚を狙う
しかし、大塚の射撃が早かった
側面装甲を貫徹、JS−4は炎上した
JS−4は正面装甲を貫くことが難しいため、側面から狙う。パンターの場合近距離、ティーガーUの場合中距離まで近づかなければいけないが、90式戦車やルクレールなら、遠距離から撃破できる
フラスコ少将「畜生、これでも喰らえ!」
彼の放った砲弾は、一両の90式戦車に命中した
90式戦車は爆発を起こした
しかし、後方の僚車からの応答が無いのに気づく
大塚中尉「敵JS−4、撃破!」
大塚だ。先の僚車の仇であろう
フラスコ少将「・・・まさか、こんな規模の部隊が奇襲を仕掛けてくるとは・・・」
守備隊の規模はほんのわずかだというのに・・・
フラスコは愕然とした
そのとき、援軍が駆けつけた
シクール少将(第133重戦車連隊司令。車種:T−10)「第133重戦車連隊、これより貴隊の支援にかかる!」
この第133重戦車連隊、SU−76、SU−85、SU−100、T−34/85、T−44、T−54、JS−2、JS−3、JS−4、T−10で構成されており、その数は10000両、今回交戦する部隊で、もっとも大規模で強力な部隊である
大塚中尉「な、何だあれは!?」
村山大尉「敵も本腰を入れたか・・・」
傍らのティーガーUが砲撃を受け、炎上する
命中したのは、正面装甲だった
ドニゲッテル少将「しょ、正面からでも一撃だと!?」
ユゴス少佐「一体、奴らは・・・」
弾幕を交わしつつ、フェラーリ中将はミサイル攻撃を浴びせる
しかし、効果は薄い
苦戦は続いていた

一方、別働隊は戦果を上げていた
今まで幾度か交戦し、損害が増えているウルタンク軍が相手ならば、善戦は可能であろう
ましてや61式戦車や74式戦車が大量にいる状況だ
西田大佐「島田さん、こりゃすごいことになりましたね」
島田中将「だな、向こうじゃ大苦戦しているというのに、こっちでは大戦果を上げているとは・・・」
ティーガーU以外、厄介な敵がいない状況である
例の「他の追随を許さぬ弱さ」を誇るL6/40軽戦車の姿さえある
西田大佐「敵さん、さっさと退却しませんかねぇ?」
島田中将「いくら弱くても、そう簡単には引かんでしょう。武器の類はあるからな」
サーナイト少佐「まだ、敵はたくさんいますからな。こちらは『質』で勝っていても『量』で劣りますから」
そのとき、敵軍が後退を始めた
司令官はライト中将だと聞いた。二個大隊の総指揮を担当しているのだから、きっとかなりの者なのだろう
代わって、Qグリーン陸軍第457大隊が現れた
T−54も含まれている部隊だ。三式や四式が主力の我々では・・・
一応、T−34に対抗できる四式、五式とは違い、三式中戦車などの損害は多い
西田大佐「畜生、あんな奴らを持ち込みやがって・・・」
島田中将「パレンバンに配備されている例の装甲列車とか、こっちに配備されてればな・・・」
「敷島」である。パレンバン陸軍工廠において数編成が竣工、第二の敷島列車隊として、ボルナソス大佐の指揮のもと演習が敢行されているという
「陸の軍艦」の異名を持ち、その流線型と独特の砲塔形状、無数の重武装から「キュワール標準型装甲列車」として活躍している
いまやキュワール各国で「シキシマ」は装甲列車の通称である
島田中将「いや、『敷島』は単体じゃ機能しないか。あれは多編成での活躍あってこそだからな・・・」
そんな中、正面にT−34の姿を目視した西田は、射撃準備を行った
島田中将「・・・どうした?」
西田大佐「敵です。こちらを狙っています」
直後、西田は射撃を始めた
一発、二発。正面のT−34複数に立て続けに命中。T−34は突如停止した
島田中将「狙撃兵か?」
西田大佐「分かりません。いずれにせよ、我々を狙っていました」
状況は優勢らしい
61式戦車や74式戦車が大量にいるのだ
何しろ彼らは「怪獣とも互角に戦える」戦力だ。普通の戦車が相手なら互角以上に戦えるはずだ

それを見て、コーチン准将は指示を下した
コーチン准将(車種:T−54)「各員、一時後退し、第915中隊を先頭にし攻撃を再開せよ」
第915中隊、第457大隊付属の中隊であり、T−54で編成されている。コーチン准将直轄の部隊である
これにまともに対抗できるのは同世代の74式のみである
しかし、74式の特徴といえば、油気圧式サスペンションである
地形を駆使して、防御、待ち伏せを行うのだ
岩場に隠れながら、砲撃を行う74式戦車
一両のT−54が火を噴く
コーチン准将「どうした!?」
Qグリーン兵士C「待ち伏せです!おそらく新型の・・・」
コーチン准将「それで、友軍部隊の状況は!?」
Qグリーン兵士C「撤退はもうすぐ完了します!それまで持ちこたえましょう!」
74式戦車とT−54はほぼ互角。しばらく戦闘が続いた

島田中将「T−54を前面に出したか・・・」
西田大佐「まあ、被害を抑えるには妥当な手段ですね」
日戦軍団兵士「敵軍、後退を開始しています」
サーナイト少佐「どうやら、後退を完了させるための時間稼ぎのようだな」
島田中将「よし、敵が後退を始めたら、深追いをせずにこの場で待機だ」
数分後、正面の敵は撤退した

ドニゲッテル達は苦戦していた
重戦車が相手では勝ち目が無い
ドニゲッテル少将(戦力に差が有りすぎる・・・)
質、量共に向こうが勝っている。確かに、戦力差はかなりの物だ
そのとき、近くで物凄い爆発が起こった
ユゴスが被弾したのだ
ドニゲッテル少将「ユゴス少佐!」
ユゴス少佐「司令・・・」
見れば、T−10の砲身から煙が上がっている
おそらく、撃ったのはあのT−10だろう
T−10戦車。JS−4重戦車の後継機であり、砲の威力も多少は上がっている
なお、「JS−5」ではなくT−10なのは、「JS」が「ヨーシフ・スターリン(Iossif Stalin)」のイニシャルであり、いわゆる政治家へのゴマスリのために命名された名前のため、「JS−8」から「T−10」へ改名されたことが元である。無論、「T」は「Tank」のTである
さて、ユゴス少佐は履帯、砲身に損傷が見られ、戦闘続行は不可能とみなされた
ドニゲッテル少将「そろそろ、潮時だろうな・・・」
村山大尉「そうですな。ここは引くべきか・・・」
再び土煙が上がる。T−10のものだろう
そのとき、大塚が主砲を撃った
T−10に命中、T−10は炎上した
大塚中尉「全く、厄介な奴ですね・・・」
そのとき、大塚は、敵が後退を始めたのに気づいた

被害は甚大だ。ここは一旦後退すべきだ
前線に出ている別の部隊にも、報告をすべきだ
フラスコ少将「第877大隊のフラスコだ。コルサ大佐、直ちに後退しろ!」
コルサ大佐(通信)「フラスコ少将!?」
ランサー准将「本部のランサーだ。後退してくれ。こちらの被害が甚大だ。念のため、別部隊のアレイヘム中佐にも伝えてくれ」
コルサ大佐(通信)「了解!」
一旦、通信は途切れた
しかし、コルサ大佐から再び通信が入った
コルサ大佐(通信)「フラスコ少将、すいません。なかなか引こうとしないようなんで、司令からお願いします」
フラスコ少将「だろうな、あんたと同期だからな、あいつは」
そして、アレイヘム中佐との回線を開いた
フラスコ少将「第877大隊のフラスコだ。直ちに後退しろ!」
アレイヘム中佐は、しばらくためらった後に、返答した
アレイヘム中佐(通信)「・・・了解、後退します!」
全軍の後退が始まった
一旦、艦砲射撃が行われることとなった

皆が歓喜した
敵軍を後退させたのだ
しかし、遠くから轟音が響いた
そして、本部から通信が届いた
米沢大将(通信)「敵軍は、全軍が後退した。しかし艦砲射撃が行われることとなった。要塞内部に退避せよ」
表面展開部隊も、後退を開始した
戦闘は、終了した
キュワール連合軍、損害約6900両
帝国軍、損害約8000両
数では劣るキュワール連合軍が、敵にかなりの損害を与え、後退させたのだ
それらの通信は、全てライトウォーターに届いた

軍港では、艦艇が集合していた
艦隊戦の準備を行っているようだ
そのとき、通信が入った
松井元帥「はい、こちらライトウォーター司令部」
相手は、デュミナス軍の士官だ
松井元帥は、通信内容を快諾した
松井元帥「・・・そうか、感謝する。手短にするため、これで終了する」
松井元帥は、喜んでいた
さて、その内容については、次回に語るとしよう
第六十四話 終わり

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