第六十六話 浮上の時
CQ暦366年5月 日本戦車軍団第二艦隊 重巡「衣笠」。確かに、彼はそこにいた
「衣笠」
の艦橋には複数の戦車が居る
大佐の階級章をつけた九七式中戦車は、階級章だけではなく総司令部を示すマークがついていた
おそらく、司令部から派遣された将校であろう
彼は、指示を出した
日戦軍団将校「全速前進!」
直後、波動砲の物凄い音が響いた
日戦軍団兵士A「回避成功!」
艦橋員の九四式軽装甲車が叫ぶ
しかし、続いて別の九二式重装甲車が叫んだ
日戦軍団兵士B「さらに波動砲接近!」
九七式中戦車は再び指示を出す
チハ大佐「取り舵一杯!」
再び、波動砲独特の衝撃音が響く
日戦軍団兵士C「回避成功!」
九八式軽戦車が叫ぶ
すると、また九四式軽装甲車が叫んだ
日戦軍団兵士A「波動砲接近!」
再び九七式が叫ぶ
日戦軍団将校「面舵一杯!」
また衝撃音が響く
二式軽戦車が叫ぶ
日戦軍団兵士D「回避成功!」
そして、艦長と思しき、派遣将校が聞いた
日戦軍団将校「・・・こいつら、何隻波動砲搭載艦を持ってやがるんだ!」
五式中戦車、熱田中将が返答した
熱田中将「大佐、敵は総攻撃をかけてるんだ。止むを得んだろう」
またも九八式軽戦車が叫ぶ
日戦軍団兵士C「敵艦、波動砲発射!」
九七式中戦車が指示を出す
日戦軍団将校「面舵一杯!」
物凄い衝撃音が通り過ぎる
九四式軽装甲車が叫ぶ
日戦軍団兵士A「回避成功!」
かすったようだ。危なかった
再び二式軽戦車が叫ぶ
日戦軍団兵士D「波動砲接近!」
熱田中将「全速前進!」
こんどは熱田の指示だ
衝撃音がかすめる。危なかった
日戦軍団兵士B「回避成功!」
九二式重装甲車が叫ぶ
しかし、さらに悲鳴のように九八式軽戦車が叫ぶ
日戦軍団兵士C「さらに波動砲接近!」
九七式中戦車の指示が出た
日戦軍団将校「取り舵一杯!」
衝撃音が響く
九四式軽装甲車が返答する
日戦軍団兵士A「回避成功!」
衝撃音は、十回を越えていた
それを全く被弾せずに、ここまでやり過ごしたのだ
そのとき、「衣笠」めがけて、無数の「それ」がやってきたのだ
九七式中戦車は驚き、叫んだ
日戦軍団将校「何!?死角なし、だと!?」
ボゴーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーン!
命中音だ。一瞬、何があったのか分からなかった
そのとき、九八式軽戦車が叫んだ
日戦軍団兵士C「やられました!」
九七式中戦車が言う
日戦軍団将校「総員、退艦!司令も、一緒にお願いします!」
先の九四式軽装甲車が、他の艦橋員たちを連れて出て行った
先任士官も、航海長も、操舵員も出て行った
・・・できれば、退艦すべきだった
しかし、ここで生き延びても・・・
熱田は、言った
熱田中将「いや、いい」
九七式中戦車は引きとめた
日戦軍団将校「しかし、司令はここで死ぬわけには・・・」
・・・確かに、優秀な指揮官である熱田は、死ぬわけにはいかなかったのだろう
・・・しかし、あえて死ぬことを選んだ・・・
熱田中将「・・・捕虜になるよりかは、ここで沈んだほうが良い。敗軍の将に、脱出と言う言葉無し・・・」
九七式中戦車は反論する
日戦軍団将校「総帥は、船と共に沈むことは犬死に同然だと・・・」
・・・やはり理由が必要か
そういえば、砲術員たちが消火のために苦戦していると聞いた
熱田中将「ならば、私は発生した火災を止める!それが、祖国のためだ!」
口を突いて出た言葉が、これだった
日戦軍団将校「・・・では、私も!」
九七式中戦車が叫ぶ
しかし、熱田は叫んだ
熱田中将「貴様には、まだ奴らを止めるという任務が残っている!私がもし、捕らえられたなら、私の能力を買って艦隊司令とするだろう。そのときでも良い、たとえ敵同士でもいい、この戦争の真理を、確かめてもらいたい!」
凄まじい発言である
こうでも言わなければ、その九七式は引かない。熱田はそう思った
日戦軍団将校「・・・・・・・了解しました!」
九七式中戦車が出て行った
さっき言ったとおりだ。砲術員たちを助けるために、弾薬庫の消火に向かうのだ
消火活動に当たっていた部下に脱出を指示した
日戦軍団兵士E「司令!?」
熱田中将「貴様らはすぐに脱出しろ!死ぬのは私だけで充分だ!」
そう言って、弾薬庫へと向かっていった
日戦軍団兵士E「司令!無茶ですよ!」
日戦軍団兵士F「もうダメだ、脱出するぞ!」
二両の九五式軽戦車が出て行った
そして、二両が舷側へ到達した
そのときだった
物凄い炎が、弾薬庫を包み込んだ
・・・夢は、いつもそこで終わっていた
思い出したことは、将校の九七式中戦車が、総司令部所属のチハ大佐だったこと、それだけだった
そして、記憶自体も、その日を最後に、消えていた
何か、巨大な軍艦がいたような気もしたが・・・
不意に、思い出したのは、どこか聞き覚えのある、あの声だった
「熱田てめぇ、キュワール系らしい心はもう無くなっちまったのかよぉーーーー!」
誰が言ったかは、分からない
しかし、消えていた記憶の中で、わずかながら覚えていたことだった
一体、どういう意味だったのだろうか・・・
ふと、考えながら、回りを見た
さまざまな医療器具がある。病院だろう
壁に、時計やカレンダーがかかっている
そのとき、カレンダーにかかっていた日付を見て、愕然とした
CQ暦268年12月。二年と、半年ぐらいが経っていた
そのとき、ドアを開けて、二両の車両が入ってきた
一両はいかにも医師のようないでたちをしていた
もう一両は、佐官の階級章と思しきものに、星が3つついている。大佐だろう
その士官は言った
士官「それで、あなたは一体、何故あの宙域に・・・」
・・・分からなかった。何しろ、二年半の間、何があったのか分からないのだ
辛うじて思い出した、「最後の記憶」は、カルオス帝国軍の戦艦が見えたことだった
熱田中将「・・・分からないんだ。船が沈んで、外に投げ出された後、不意に敵の戦艦が見えた。そこから、全てが闇のようだったんだ」
士官は、砲塔をかしげた
医師「・・・どうやら、ただの記憶喪失ではないようだな・・・」
士官「・・・とりあえず、その『船』とは?」
熱田中将「・・・重巡洋艦だ。艦載機を積んでいない、旧式の奴だ。艦名は・・・き・・・そうだ、『衣笠』だ」
士官「・・・『衣笠』?」
熱田中将「・・・それで、私の乗っていた船は、波動砲の集中砲火を受け、沈んだ。私は、弾薬庫の火を消すために、弾薬庫に向かった。その過程で部下二両を先に脱出させた後、船が爆発した。それから、艦外に投げ出された。あとはさっきのとおりだ」
医師「・・・『衣笠』・・・聞いたことがあるな。大佐、後で調べておこう」
どうやら、医師は軍属らしい
とりあえず、今言えることを言った
熱田中将「・・・後日、改めて来てくれ」
医師「・・・分かった。また今度来よう」
そして、二両は出て行った
その後、精密検査を行った
士官と医師は、精密検査の結果を見て唖然とした
医師「・・・こ、これは・・・」
士官「・・・どういう、意味ですか・・・?」
医師「・・・確か、日戦軍団、第一潜宙艦隊の潜宙艦が、二年ほど前に妙な音響を探知したという話を聞いたな?」
士官「・・・えっ?」
調べたところ、日戦軍団の潜宙艦「伊−168」が、敵艦隊に潜入し旗艦内部の状況を超感度音響探知機を用いて調べていたところ、「ブウウウウウウン」という妙な機械音を探知した、という話が二年前にあったのだ
その潜宙艦の艦長は浦塩少佐、松井元帥の腹心の部下だ
そして、その敵旗艦は、カルオス艦隊の戦艦「ジェルフォー」であった
医師「・・・それと、彼に関係があるのかも知れん」
医師の話では、何でも、彼のCPU内部思考関係回路が、書き換えられていたということであった
士官「・・・松井元帥が、似たようなことを言っていたそうですね」
医師「・・・特務士官が、パレンバンの戦闘記録を持ってきたときだったか。その戦闘記録に、はっきりと書かれていたな・・・」
パレンバンの戦闘記録には、こう記されていた
‐−−−−以下、パレンバン戦闘記録‐‐‐‐‐
松井元帥:・・・貴官に告ぐ。国籍、所属、名前、階級、順番に言ってくれ
第四艦隊司令:・・・カルオス帝国、第四艦隊司令、熱田、中将だ!
松井元帥:何っ・・・熱田だと?!
鳴神中将:熱田!これはどういうことだ!貴様が帝国の部下に成り下がるなど、何かの間違いではないのか!
熱田中将:・・・・連合の馬鹿どもが
松井元帥:鳴神、あれは熱田であって熱田ではない。良く考えてみろ。いくら帝国派閥だけでグンナ星に移住したとしても、カルオスは元来から対立が絶えない。それなのに内乱がないということは、何かあると思うんだが
鳴神中将:まさか、浦塩が言っていた・・・
松井元帥:・・・そうだろうな。多分、奇妙な音響を発する機械は何らかの妙なシステムなんだろう
‐‐‐‐‐以上、パレンバン戦闘記録‐‐‐‐‐
医師「・・・つまりだ。松井元帥が言っていたことは、カルオス軍は、CPU内部の思考関係回路を書き換えて、自らの手先とする。そういう恐ろしい機械を開発している、ということだったのだ・・・」
士官「・・・二年半も前に、そんな物を!?」
医師「・・・そういうことになるな」
熱田も、病室に置かれていた戦闘資料で、「熱田」と名乗る男の経歴を知った
車種は五式中戦車、カルオス帝国第四艦隊の座をソンム中将から引継ぎ、パレンバンにおいて「紀伊」と交戦。その後第一特務艦隊に転属し、プロトン合衆国首都バチェリットおよび南部都市リベージュダースを強襲した爆撃機の収容を指揮、その後ラファリエスの支援の下、キュワールを脱出。その後ベータ沖において日戦軍団第四、第七艦隊と交戦、これを撃退するが、第二次攻撃時に「紀伊」と交戦中、デュミナス第二艦隊の集中砲火を受け、戦艦「ニマスト」もろとも消息を絶った、となっている
熱田中将「・・・第四艦隊司令というと・・・鳴神じゃないか!」
よりによって、彼は戦友と戦っていたのだ
ということは・・・
「熱田てめぇ、キュワール系らしい心はもう無くなっちまったのかよぉーーーー!」
この言葉は、同じ日戦軍団所属の、何者かが叫んだ言葉だったのだろう
熱田中将「・・・ん?まさか・・・」
「巨大な戦艦」とは、カルオス軍の大型戦艦のことで、奴らに操られていたということであろう
そして、あの言葉は、松井元帥か、またはその部下の誰かが叫んだのだろう
熱田中将「・・・本当に、あの時は、『心』を無くしていたのだろうな・・・」
それから、数日の間、病室の中ですごした
病院食という質素な食事を食べながら、思った
熱田中将(・・・この前、ベータ沖での各戦闘記録を見たが、CQ暦268年12月に起こった第二次ベータ沖艦隊戦(第一次=第四、第七艦隊の交戦。ちなみに熱田が消息を絶ったCQ暦266年5月の戦闘は「ベータ沖防衛戦」である)において、「紀伊」の伊原航海長が、似たような発言をしたとのことだな・・・)
伊原、確か熱田がかつて乗っていた、原子力空母「雷鳳」でも航海長として勤務していた
大嵐との漫才のような掛け合いが皆の間で話題だったが、時には大嵐に勝るとも劣らぬ射撃の腕を見せ、周囲を驚かせた
熱田中将(・・・松井元帥・・・)
そして、熱田は、松井元帥のことを思った
戦闘記録の最後の方に、「ニマスト」沈没直後、松井元帥が「バッカヤロー!」と叫んだことが記述されていたのだ
ちなみに、その次の行には、「司令?」と聞く先任士官の灰田大佐をわき目に、「これじゃ帝国の奴らと変わらないじゃないか!一隻の敵艦を集団リンチして、破片すら残さずに沈めて!高威力噴進兵器の無駄遣いじゃないか!」と叫んだ、と記述されている
熱田中将(部下思いなことは、変わらない方ですね・・・)
それから、数日が経過した
あの時入ってきた、大佐と医師がやってきた
無事帰還できるよう、努力するとのことだった
そのとき、一番気になっていたことを、聞いた
熱田中将「・・・そういえば、一体ここは?」
士官「エレミア星系、第四惑星、アマティスです」
アマティス。確か、先の戦闘記録に、「アマティス軍の艦艇」などと記述された物がいくつかあった。「熱田」の経歴にあった、「ラファリエス」や「デュミナス」も、関連する惑星だろう
そういえば、戦闘記録は見たが、まだ国際事情がわからなかった
とりあえず、二年半の間の国際事情について聞いた
何でも、あれから数ヵ月後に、Qタンク王国とアマティスが極秘同盟を決断、その後正式に、アマティス、デュミナス、オルキスなどで編成された「内惑星連合」に加盟、デトロワ、ラファリエス、ファントム、グンナ、大日本帝国(惑星アーク)で構成された「外惑星連合」と戦っているのだという
つまりは、エレミア星系という惑星郡全体に、戦争が広まっているということだ
アマティス、正式な国家名は「アマティス公国」であり、オルキスを盟主とする「内惑星連合」ではデュミナス、キュワールと並ぶ大規模な軍事力を有している
デュミナス、正式な国家名は「デュミナス王国」であり、「内惑星連合」の第二位の実力を持つ。近頃はアマティス同様、キュワール連合軍との共同作戦に乗り出すことが増えた。「戦艦大国」となっており、巨大な宇宙艦船の技術は連合一である
オルキス、内惑星連合盟主で、単艦性能を重視した艦艇が多い。現時点で、キュワール連合軍との共同作戦は無いようだ
そしてロドリグ。デュミナスと古くから同盟を結んでいるらしく、小型艦艇はデュミナスのそれを流用している。ただ、その形態はファントムに似ているらしい
それらが、いわゆる「内惑星連合」をキュワール連合と共に形成しているんだそうだ
そして、先ほどのデトロワ、ラファリエス、ファントム、グンナ、大日本帝国の「外惑星連合」と戦っている。ということだ
この「大日本帝国」と言うのはどうやら、我々グリシネ民族の同族の国らしい。同族と戦わなければならないことは、結局変わらなかったようだ
そして、熱田は言った
熱田中将「それで、帰還に関しては、いつになるので?」
しかし、返答は変わらなかった
士官「なるべく、早く帰還できるように、努力します」
その後、別れの挨拶を交わし、士官は去っていった
鉄路は、その場所だけを見れば、永遠に続いているように見える
しかし、その線路にも、終着点はある
無論、環状線ならば、話は別だが・・・
基地構内の補給用の線路を、迷彩塗装を施した装甲列車が走ってくる
装甲列車は、司令塔近辺で停車した
そして、そこから降りてきたのは、基地司令官、ボルナソス大佐だった
ボルナソス大佐「・・・久々の装甲列車も、良い物だな」
ガランタン大尉「よりによって、ここにまで敷島列車隊が来るとは思いませんでしたがね」
新たにパレンバンに配備された「敷島」型重装甲列車だ
基地構内に補給、連絡用の鉄道線が敷設されているパレンバンならではの兵器だ
もっとも、現在はルナツー、ライトウォーターにも鉄道線が敷設されているため、「敷島」型の配備も行われるようだが
二両は、新型航空機の視察を終えて、司令部に戻ってきたのだ
ボルナソス大佐「ディール、今の当直は?」
ディール二等兵「現在の通信当直は勝山上等兵ですが・・・」
ボルナソス大佐「分かった。すぐに戻ろう」
そして、彼らは司令室へ入った
そのとき、通信機が鳴り響いた
Qシュタイン同盟加盟国ではない
受話器を取る勝山
勝山上等兵「こちらパレンバン中央司令部!」
ベータの戦況報告か?
はたまた、敵艦隊襲来の通信か?
しかし、相手はどちらでもなかった
兵士(通信)「アマティス軍エスカ基地所属のものだが、Qターレット軍もしくは日本戦車軍団に『アツタ』なるものは所属していないか?」
「アツタ」?日戦軍団所属で「熱田」という苗字のものを探せばキリが無いが、勝山は確信した
日本戦車軍団海軍宇宙部第二艦隊初代司令、熱田中将に違いない、と
しかし、何故アマティスなのだろうか
あの時艦隊戦に参加したのはデュミナスのはずだし、松井元帥が「高威力噴進兵器の無駄遣いじゃないか!」と抗議したのはデュミナス第二艦隊の戦艦群であった。アマティス艦隊は確かデヴォリアやセイロンにいるはずだし・・・
いずれにせよ、言えることは言わなければならない
勝山上等兵「・・・現在は所属していないが、先代の第二艦隊司令がいる」
そして、相手の兵士も返答した
兵士(通信)「本星にある軍事病院に収容されているのだが、2年半ぐらいの記憶がないらしいんだ」
勝山上等兵「・・・ということは・・・」
兵士(通信)「察した通りだ。元の『アツタ』に戻っている」
司令室の皆が喜んだ
ディール二等兵「熱田ってことは、今までカルオスの艦隊で散々友軍を苦しめてきた指揮官ではないですか!」
ボルナソス大佐「つまりは、敵の弱体化と、友軍の強化、両方が発生する一石二鳥な事態ということだな」
勝山上等兵「・・・それで、対応は?」
兵士(通信)「手当てが済んだので、キュワールに帰還させたいのだが・・・」
勝山上等兵「・・・ベータの方面に繋ぐので、少々待っていただきたい」
まずは、ベータ裏側軍港の松井元帥たちと通信を繋ぐべきだ、と思った
通信士が、アマティス本星エスカ基地からパレンバン経由で通信が入った、と報告した
松井元帥を呼び出しているそうなので、松井元帥が受話器を取った
松井元帥「日戦軍団の松井だ。何かあったか?」
勝山上等兵(通信)「パレンバンの勝山です。アマティス本星エスカ基地から、熱田中将を収容したとの連絡です」
とんでもない連絡だった
熱田は前の艦隊戦で戦死したと思っていたからだ
松井元帥「何っ!?熱田!?」
続けざまに灰田も叫ぶ
灰田大佐「誤報じゃないのか?」
しかし、勝山は続けた
勝山上等兵(通信)「事実です。カルオス宇宙軍の装備を着用した状態で発見されたとのことです」
カルオス宇宙軍に五式なんて、奴しか居ない
伊原少佐「・・・ということは・・・」
熱田中将に違いなかった
大嵐少佐「熱田中将じゃないか!」
勝山上等兵(通信)「それで、エスカ基地は、直ちに帰還させたいとのことですが・・・」
松井元帥「・・・帰還を許可する。そう伝えておいてくれ」
内心では喜んでいたが、あえて松井は淡々とした返答をした
指揮官は常に落ち着いていなければならないのだ
ベータ基地からの報告を聞いて、勝山は言った
勝山上等兵「帰還を許可する、とのこと」
兵士(通信)「了解、すぐに帰還できるようにする」
勝山上等兵「では、これで通信を切る」
兵士(通信)「分かった」
そして、通信は終わった
ボルナソス大佐「・・・よかった。これで更なる戦力強化が可能だ」
勝山上等兵「『號龍』を主力とする、新艦隊の司令も、ようやく決まりそうですね」
「號龍」。一応「大和型戦艦と信濃型空母を組み合わせ、さらに数倍の戦闘能力を持つ」超航空戦艦として計画されている
伊勢型、薩摩型に続く新しい航空戦艦として期待されている
似たような船としてQシュタインではグラーフ・ツェッペリン級空母を新型戦艦の両舷に接合した「ムスペルヘイム」級航空戦艦が計画されている
この「號龍」を旗艦として編成された第一特務機動艦隊、司令の選定について議論が相次いでいたのだ
熱田もしっかり、候補に上がっていたのだ
しかも、最優秀候補として
彼が生還できない状況のため、最優秀候補不在の状態だったので、議論が相次いでいた、ということだったのだ
ガランタン大尉「しばらくは、膠着状態になりそうですね」
ボルナソス大佐「・・・そうだな」
彼らの後ろでは、大勢の通信員達が、歓喜の声を上げていた
それから数日後、航空戦艦一を初め、数隻の艦艇で編成された艦隊が、熱田の護送として、エスカを発った
オルキス近辺、一機の哨戒機が飛んでいる
機長「こちら第五哨戒航空隊、現時点では異常ありません」
操縦士「・・・機長、あれはなんですかね?」
機長「艦隊だろう。しかし、何か変だな?」
通信士「緑色ですね。友軍の派遣艦隊ですかね?」
操縦士「・・・接近して調べてみましょう」
少し近づいてみると、紫色の艦艇の姿があった
先の緑色の艦艇と共に、並行している
友軍の艦艇では、ない
通信士「おい、あれはラファリエスの艦艇だぞ!」
操縦士「本部に連絡しましょう!」
オルキスの哨戒機は、偶然にも敵艦隊を捕捉したのだ
敵の攻撃を避けるため、機長はまず、帰還を指示した
一方、こちらは熱田の護送艦隊
向かう先は、まずはデヴォリアである
そのとき、アマティスの司令部から、突如連絡が入った
アマティス通信兵「こちら第十三哨戒隊!」
エスカ基地司令(通信)「本部から連絡が入った。デトロワおよびラファリエスの、総数1500隻程度の艦隊がオルキスに襲来した。貴艦隊はひとまずデヴォリアに寄港せよ」
今までにない、デトロワ艦隊の攻撃だ
オルキス側は駐留のロドリグ艦隊、そして派遣が決定したヴァイナー連邦、Qタンク王国、アマティス、デュミナスの艦隊と共同で、その大艦隊と戦うということになった
報告を聞き、出航してから数日ほどが経過した
艦内に異常はない
普段どおり、見慣れた音波探信儀、魚雷発射管制装置、操舵輪、そしてデータリンクシステムの装置が並んでいる
ただ、唯一違うことは、この日は艦隊とは別の船が、追従しているということだろうか
鎌田大尉(車種:89式装甲戦闘車)「艦長、『伊−361』より入電です」
浦塩少佐「読み上げろ!」
鎌田大尉「『まもなくベータに寄港する。貴艦隊の護衛感謝する』以上です」
浦塩少佐「了解。やっと終わったな」
鎌田大尉「そうですね。確か本部からの指示は・・・」
浦塩少佐「このままベータに寄港、近辺宙域において通商破壊等を行え、だったな」
浦山大尉(水雷長。車種:73式装甲車)「通商破壊ですか。久々ですね」
浦塩少佐「そうだな。このところ対潜警戒ばかりだったからな。潜望鏡越しに目標を眺めることが、またできるようになったな」
鎌田大尉「思えばこの高性能探信儀のお陰で、私の能力はほとんど発揮できませんでしたな」
ある意味、皮肉である
機械が発達すると共に、彼ら乗組員の「腕」の見せ所は、だんだんと無くなって行くのだ
さて、この日、「伊−168」は、第一潜宙艦隊の各種潜宙艦および潜宙母艦と共に、ルナツーからベータへ出航したのだ
任務は「伊−361」以下第一輸送潜宙艦隊の護衛である
この「伊−361」型は新型の輸送潜宙艦である
「丁型」と呼ばれており、魚雷発射管二門と、いくつかの兵装を持つ、全長145mの潜宙艦である
現在かなりの数が建造されており、各地へ隠密輸送を行っている
小型のものもあり、こちらは全長80mである
また、改良型として「伊−900」>型も建造中である。こちらは陸上部隊では一個師団程度が乗る巨大な物である
現在、潜宙母艦には潜航艇「海龍」が複数待機している
以前、戦艦「ニマスト」の艦尾に魚雷を命中させ、一旦はカルオス艦隊を引き下げた鶴見と川崎も、あの潜宙母艦の艦内にいる
鎌田大尉「艦長、『大鯨』が無事寄港しました」
浦塩少佐「よし、沿岸警備終了。浮上!」
深度計がゆっくり上昇する
50・・・40・・・30・・・20・・・10・・・0!
鎌田大尉「浮上完了!」
浦山大尉「敵機は、いないようですね」
前回の艦隊戦で、かなりの損害を受けたからだろう
連合軍艦艇はベータの軍港で修理中らしい
僚艦が浮上する
前方には、甲板後部に「海龍」を乗せた「伊−361」が浮上している
その近くには、これまた「海龍」を乗せた「伊−362」が浮上している
一応、一隻ごとに一隻、「海龍」を搭載することになっている
全艦が、微速で前進を始める
港内には潜宙艦隊用のスペースも確保されている
今度の艦隊はどれも大きすぎて、従来は駆逐艦用として用意されていたスペースが、潜宙艦ぐらいしか入らなくなったのだ
これで新型の高速潜宙艦とかがやってきたら、どうなるのだろうか
まあ、そんなことは潜宙艦隊の我々には関係ないだろう
ゆっくりと旋回し、艦首を港外に向ける
そして接舷。ようやく寄港が完了した
浦塩少佐「よし、しばらく上陸だ」
向こうには「大鯨」が寄港している
そこからも艦隊上層部のものが何両か降りていく
すると、松井元帥がやってきた
松井元帥「浦塩少佐、無事寄港できたか」
浦塩少佐「はっ!任務は完了しました!」
松井元帥「先ほど、デヴォリアから連絡が入った。敵艦隊がオルキス沖に展開している。現在、友軍艦隊が敵艦隊に接近しつつある。色々と、大変なことになりそうだ」
浦塩少佐「・・・それで、我々に対する指示は?」
松井元帥「一応、艦隊戦の報告を聞くことにしよう。哨戒当直は例のパナイ少佐の部隊だからな」
グリシネの若手士官か。松井元帥の「グリシネからの転属組はとりあえず最前線へ」というやり方であろう。しかし、よりによって一個潜宙艦隊を奴に任せるのは、荷が重過ぎやしないか?とも思った
実際、一度彼は、指揮下の艦隊を全滅させているのだ。その後も、戦うたびに一隻の潜宙艦を失っている
「伊−65」の艦長に任命されてからは、一応の戦果は上げている
しかし、まだ我々ほどではない
彼南少佐「おお、浦塩!」
浦塩少佐「彼南じゃないか!よりによってベータで会えるとはな!」
松井元帥「全主力潜宙艦隊を差し向けたからな。この宙域を潜宙艦で抑えるつもりだ。もっとも、艦隊が相手じゃ、通用しないだろうがな」
それこそ、艦隊を纏めて殲滅できるという、新型の潜宙艦を用いない限り・・・
第一特務潜宙艦隊、あの艦隊も、ここに寄港しているのだ
松井元帥「・・・いずれにせよ、我々はしばらく、オルキスにおいての戦闘を見る、それ以外は無いな・・・」
オルキス初の艦隊決戦が、始まろうとしていた・・・
第六十六話 終わり