第七十話 パレンバンからの手紙
Qタンク王国、ドガスデン基地。その洋風の施設を背景にした、数枚の写真
日戦軍団総司令官、松井元帥が基地の視察に来た際、撮ったものだ
当時、その基地に所属していた、第一一五中隊の当時の隊員が、一両残らず写っている
各分隊ごとに撮られたものもあり、その中に、松井元帥が一緒に写った物があった
その裏面には「CQ暦243年10月14日 ドガスデン基地司令部 溝口中尉以下十両及び松井元帥」と書かれている
溝口分隊の写真であった
まだ使い慣れない写真機の時限装置(=タイマー)を試すために、溝口分隊と一緒に撮ったものだ
中尉になりたての溝口の隣には、よき部下佐藤、萬屋両少尉。その手前には松井元帥が写っており、溝口たちの後ろには宇野沢准尉、田辺、佐軒両軍曹及び、寺島軍曹。その隣には入隊したての初年兵(注:日戦軍団では二等兵を入隊からの年数で呼んでいる)たちが写っている
松井元帥「・・・また、こんな写真が撮れる日が、来るのだろうか・・・」
あのころ、キュワールは荒れていた。幾多もの大戦が続き、平和はほんの五〜六年で崩れていた
そして、その大戦の最中で、大勢のチョロQが死んでいったのだ
松井元帥「それを分かっていない指導車が、戦争を引き起こすのだろう」
灰田大佐「・・・司令、もうすぐベータです」
少し前まで、ベータ沖合いで哨戒活動を行っていた第一特務艦隊は、補給を完了させた潜宙艦隊と交代して、ベータへと寄航した
ベータに寄航した「紀伊」
から、数両のタンクがやってきた
復興が始まる基地内部で、またも新たに運んできた地底戦車が内部を走り回っていた
松井元帥「・・・久々だな、この基地も・・・」
何しろ、パレンバンと並ぶ巨大要塞。建造当初に視察に来ただけで、あとは少し前のベータ防衛戦のころから来ていなかったのだ
今度の改装で、また配置が変わっているはずだ。そのために、彼は基地内部を調べていたのであった
松井元帥「・・・しかし、あいつもうまい具合に作ってくれたものだ」
斎藤技術中佐のことである。基地の設計と建造指揮を担当していた彼は、さまざまな新機軸をこの基地に盛り込んでいたのだ
あの第五滑走路も、その一つであった
松井元帥「・・・あいつも、グリシネ軍部から出てきた身だ。連中、精鋭を引き抜かれて、困ったんだろうな・・・」
斎藤技術中佐の父は、グリシネ空軍の設計技師だったんだそうだ
ただ、新機軸をなかなか取り入れない頑固な一面があり、松井元帥は彼を「石頭の設計技師」と呼んでいたと言う
しかし、優秀な設計技師だったことには変わりなく、技師でありながら軍事会議に出席して、松井元帥と論争を極めたこともあった
特に激しかったのは、第四次キュワール大戦迫る中での戦略会議であった
陸海軍の軍事予算を削減し空軍に回そうという彼に対し、松井元帥は「陸海軍を単なるハリボテにするつもりか!」と批判したところ「腰抜けどもは黙ってろ!」と言い返され、反抗した松井元帥は「陸海軍を腰抜けのハリボテにしたのは貴様ら空軍のエリート気取りの石頭どもだ!」と言い返し、一時は銃撃戦になりかけたほどだったという
それを止めたのがモントレー元帥であり、その功績から陸軍総司令官に抜擢されたという
松井元帥「参謀本部ほど、悩ましい敵は無かったな・・・」
無論、厄介な連中は、彼だけではなかった。さまざまな「敵」がグリシネにはいたのだった・・・
松井元帥は、あの大規模な戦闘があった外部へと出た
無論、カルオス帝国軍の攻撃を受け撃破された地底戦車の状況を調べに行ったのだ
大型の牽引車に引かれ、六三式地底戦車の残骸が動き出していた
操縦しているのは、この地底戦車に搭乗していた島村兵長であった
松井元帥「・・・どうだ、直せそうか?」
島村兵長「直せるとは思いますが、少々時間がかかると思います」
機関部はやられたが、再使用は可能である。たとえ使えなさそうな残骸でも直して使えるようにするのが、日戦軍団整備班である
松井元帥「とりあえず二両持ってきたから、基地の修理はそっちで大丈夫だな」
島村兵長「なるべく早く済ませておきます」
松井元帥「ああ、頼んだ」
牽引車はそのまま、格納庫へと走り去っていった
松井元帥「ベータの守りは、地底戦車に任せるか」
この「地底戦車」の発案は日戦軍団陸軍のチヌ元帥である
海の潜水艦と同じように、陸の兵器も下からの攻撃に弱いのではないか。ということで、地中に潜ることの出来る戦車を開発したということである
他にも日戦軍団は、対空用熱線砲車、自走噴進砲などさまざまな新兵器を開発していた。無論、これはQシュタイン連邦のバックアップがあってこそ実現した物であった
「紀伊」の他の幹部も、ベータ基地を視察していた
航空隊司令の角田少佐は、第五滑走路に来ていた
角田少佐「航空隊の手配は大変そうだな・・・」
京城大佐「俺の隊も臨時で派遣されてきた。第四機動艦隊の再編がまだだからな」
角田少佐「・・・古田がいなくなっちまったからな・・・」
京城大佐「ああ、あいつ、新鋭機にやられたんだっけな・・・」
精鋭の搭乗員多数が、ベータ上空で散った
京城大佐「飛行場や飛行機は、いくらでも作り直せる。でも、搭乗員は・・・」
角田少佐「どこぞかのお偉いさんが言ってたな。搭乗員は育てるのに五年はかかるって・・・」
そこに、陸上部隊の総指揮を執っている米沢大将がやってきた
米沢大将「航空隊の手配が少々遅れているらしい。どうも、パレンバンでの戦況が原因らしいな」
京城大佐「敵艦隊を殲滅した、との報告は聞きましたが・・・」
米沢大将「後詰めがいたらしい。連中は強行作戦を好むからな」
角田少佐「クリーク王国軍も、中途半端な奴らですな」
米沢大将「いや、新兵器の装弾数が少ないだけかも知れんぞ」
京城大佐「やはり光学兵器といえど、装弾数には限りがありますか・・・」
角田少佐「今度は、パレンバン陸上航空隊の出番ですな」
米沢大将「ああ、そうだな。京城、確かおまえの弟だったな。パレンバンの飛行隊長は」
京城大佐「そういえば、あいつでしたな。乗ってるのは旧式ですが、腕は確かです」
米沢大将「ああ、その件に関しては、何度か聞いてる」
角田少佐「第六次キュワール大戦のころからの精鋭飛行機乗りだったそうですからな」
米沢大将「確か、バタビア君と組んでパパイヤアイランド沖に出撃した際も、現在とは異なる噴進機であっても機銃のみを用いて敵機総数八機を撃墜するという戦果を挙げていたな」
京城大佐「まあ、今回も活躍するでしょうな。きっと今度は十数機ぐらい落とすはずです」
米沢大将「そりゃ、頼もしいな。陸には矢矧や溝口がいるし、撃退は無理としても、大損害を与えることは出来るだろうな」
角田少佐「装甲列車隊も配備されていますから、そこでとどめは刺せるでしょうな」
米沢大将「・・・だが、油断は禁物だ。敵が新兵器を投入している可能性もあるからな」
京城大佐「確かに、そうですね。敵の新兵器や、当然精鋭の飛行兵もいるはずです。古田を撃墜した奴とか・・・」
角田少佐「さすがに、そいつはいないと思いますぜ。諜報部の話では、『遠風』の艦艇配備は難しいとのことで・・・」
米沢大将「・・・とにかく、彼らの奮戦に期待するのみだな」
エンジンの音が聞こえる。哨戒機の交代の時間のようだ
そして、軍港に停泊する「アナポリス」へ、一両のタンクが近づいていた
松井元帥であった
松井元帥「・・・厚木准将」
「アナポリス」の艦橋を見上げるタンクに、語りかける
厚木准将「・・・松井元帥?」
松井元帥「・・・あの時の件、感謝するよ」
第三艦隊の空母郡を、危険を冒してまで守り抜いたことである
厚木准将「・・・松井元帥、当然のことをしたまでです。無茶はしましたがね。味方を守ることは、兵隊として当然です」
松井元帥「・・・あの時と、変わってないな」
松井元帥が厚木准将に出会ったのは、陸戦指導に行った際である。陸軍元帥でありながらも海軍に興味を持ち、陸戦指導の際には指揮を執っていたのだ
そうであれ、グリシネの将官がこのようなことを言うのは予想外であった。松井元帥は感動した
空軍国家グリシネにとって、陸海軍はお荷物でしかなかった。それを覆したのが、松井元帥たち転属幹部であった
雑談をしながら、松井元帥は質問をした
松井元帥「・・・そういえば、貴官は我が軍をどう思っているのかね?」
厚木准将「かけがえのない、友軍です。参謀本部の連中は、日戦軍団を『反逆車』とか言ってますが、決め付けずに受け入れるべきです。松井元帥は確かに、叛乱と見られてもおかしくない行動をとりましたが、軍部の不手際が元だったでしょう。そして、キュワール連合の中核をなしているじゃないですか!参謀本部も見習うべきです!」
参謀本部、本国軍部の中核をなしている組織である
特に、そのまま総司令部に直結している空軍参謀本部は、松井元帥ら日戦軍団の幹部を恨んでいるのだ
無論、それに異を唱えるものもいる。陸軍本部の原田大将は「いくら戦略が合わないからって、かつての戦友を見殺しにはできない」と、日戦軍団を支援しているのだ
松井元帥「・・・まあ、大声張り上げなくても、貴官が言いたいことはよく分かる。確かに、俺は軍部の不手際で、叛乱とも取れる艦隊強奪を起こしたからな。さて、まだドニゲッテル少将に挨拶してなかったんだったな。司令室まで行って来るよ」
そういうと、松井元帥は港を出て行った
厚木准将は再び、溶接作業が行われている「アナポリス」の艦橋を見上げながら、呟いた
厚木准将「・・・そうだ、今のグリシネ軍部は腐敗し始めている・・・何とか、止められないものか・・・」
グリシネ軍部は、たびたびの改革によって空軍主体へと変わっている。厚木准将も空軍参謀本部の戦略に異を唱え、最前線へと送られた身なのだ
原田大将も、反抗姿勢を表に出来ないのだ
一説に寄れば、空軍参謀本部は国王さえも介入できない謎の領域になっているそうだ・・・
グリシネ国、軍参謀本部会議室
また、くだらない作戦会議が行われている
陸軍参謀長、原田大将は、空軍を嫌っている参謀の一両であった
だが、いざそれを口に出せば、松井元帥と同じ道をたどることは分かっていた
きっと、同じことを考えている参謀は大勢いるだろう
空軍参謀A「しかし、海軍第三巡洋宇宙艦隊のあの行動は何なのかね!」
空軍参謀B「我々の敵である日戦軍団を命がけで守り抜くなど狂っている!」
海軍参謀、西郷中将が反論する
西郷中将(車種:四式中戦車)「あれは厚木准将が勝手に行った行動ではないか!」
それが起爆剤となった。一両が空軍に反論すれば、他が続く。この日も同じだった
海軍参謀「現場の兵士の独断行動で、上層部が責任を問われるなど、それこそ狂っている!」
空軍参謀、黒田中将が怒鳴り散らす
黒田中将(車種:五式中戦車)「貴様、反逆車の肩を持つつもりか!」
海軍参謀「そういう意味で言っているのではない!」
空軍参謀A「誉れ高きグリシネ空軍にたてつくつもりか!」
陸軍参謀A「今のグリシネ空軍に誉れなどない!こんな腐敗した軍隊、松井元帥が辞任して当然だ!」
黒田中将「・・・貴様、後は分かっているだろうな!?」
陸軍参謀B「気に入らない参謀は即抹殺、そんな参謀がいるからグリシネ空軍は腐敗したんだ!」
黒田中将「言ったな!?」
海軍参謀「十数年前まではそりゃ、国王自慢の誉れ高き空軍だった!しかし今となっては、単なる腐敗した形だけの空軍ではないか!」
空軍参謀B「ハリボテ海軍どもに言われたくはない!」
海軍参謀「貴様らこそ、せっかくの国産品を使用しているというのに、本土に置いていては宝の持ち腐れではないか!」
そう、空軍も「空軍直轄宇宙艦隊」をいくつか所有しているのだが、全く使おうとしないのである
空軍参謀A「あれは最後の切り札だ!」
海軍参謀「損害を恐れているだけではないのか!?」
斎藤中将(車種:八九式中戦車乙型)「俺が設計した船にケチつけるつもりか!?」
海軍参謀「艦にケチをつけているのではなく、運用方法にケチをつけているというのだ!」
空軍長官「うるさい!ヘタレ海軍が!」
海軍長官「ヘタレはそっちだろうが!」
海軍参謀A「飛行機扱ってるくせに、航空力学を一切理解しない機体を設計しやがって!」
斎藤中将「誰が設計した機体の事だ!?」
海軍長官「貴様だ!この奇想技師!」
陸軍参謀B「だいたい、貴様らは前線を知らなさ過ぎるんだ!」
海軍参謀「そうだ!奇麗事ばかり言いやがって!そんなことが通じるほど、戦争は甘くないんだぞ!」
陸軍参謀A「空軍の連中がハリボテである以上、グリシネ軍部は全て見掛け倒しなんだ!」
モントレー元帥「作戦会議で口喧嘩をするな!」
結局のところ、この日の作戦会議は陸軍長官、モントレー元帥の判断により中断された
会議室を出た原田大将と西郷中将は、通路の隅で話し合っていた
原田大将「・・・あいつが何故ここの参謀を辞めたのか、それはここが腐敗することを見越していたんだな・・・」
西郷中将「まあ、そういうなよ。グリシネ空軍の連中だって根はいい奴なんだから・・・」
原田大将「しかし、厚木准将の独断的行動で西郷中将が責任を問われるなんて、間違ってないか?」
西郷中将「そもそも、友軍たる日戦軍団を守って何が悪いのか、それが分からない・・・」
原田大将「・・・でも、西郷中将はそれを参謀会議で口に出すことはできない・・・」
西郷中将と空軍参謀たちは、古くからの親友なのだ。そして原田大将とも、第二次キュワール大戦以来の戦友である
西郷中将「・・・ある意味、松井元帥はすごい奴だよ」
原田大将「軍部の不手際を見るや否や、唐突に『こんな腐った軍部、辞めたほうがマシだ!』なんて叫んで、椅子を蹴飛ばした挙句、部下全員と三軍の精鋭たち、そして海軍主力艦隊を一斉にかっぱらって義勇軍やってるんだもんな・・・」
西郷中将「・・・まあ、いざとなったら、またなんとかしてやるか」
原田大将「だな。あいつも、俺たちの活躍に期待してるはずだ」
松井元帥は第五次キュワール大戦を前にした参謀会議において、空軍のお粗末な戦略を聞くや否や「こんな腐った軍部、辞めたほうがマシだ!」と叫び、椅子を蹴飛ばし退室、それから数日後、部下のチリ元帥らと共にグリシネ軍部を脱退、当時、軍部の運用法が災いしてグリシネ軍港に放置されていた戦艦「大和」以下グリシネ海軍主力艦隊をあっさりと強奪したのだ
その際、グリシネ空軍の猛烈な航空攻撃を退け、当時から縁があったQシュタイン帝国(当時)のグリドール軍港へ停泊、以後、Qシュタインの支援を受けて発展を続けてきたのが、日本戦車軍団であった
通路を進む松井元帥は、開戦時以来会っていないグリシネ軍上層部のことを思い出した
松井元帥「・・・陸海軍はともかく、空軍の連中は最低最悪だったな・・・」
自らの保身と目の前の戦果ばかりを気にし、戦略性に欠けていた。自分の気に入らない奴はあっさりと射殺、航空機の操縦は出来るがミサイル頼りで機銃によるドッグファイトは出来ない
そんな奴らがグリシネ空軍上層部だったのだ。Qトルック戦争のころは国王自慢の軍隊だったが、いまや見る影もない
もっとも、例外もいないわけではないのだが、彼らもそういった「強豪勢力」たちにはなす術もないのだ
結果的に、グリシネはジェット機の爆音が絶えない「騒音都市」になってしまったのだ
松井元帥「レラッフティの奴、そんな事実も知らないんだろうな・・・」
若くして派遣部隊の隊長になったレラッフティ曹長のことである
ふと、廊下でドニゲッテル少将とすれ違った松井元帥は、ドニゲッテル少将を呼び止めた
松井元帥「少将、司令室はどうなってる?」
ドニゲッテル少将「まだ、遺体の搬送が終わってないそうです」
松井元帥「・・・そうか・・・」
ドニゲッテル少将「・・・皮肉なものです。我々指揮官ばかりが生き残って、彼ら兵士たちが死んでいく・・・」
松井元帥「・・・俺も、たくさんの戦争を見てきたが・・・無能な上層部によって、前線に放り出され、そして無茶苦茶な指示を受け全滅する。そんな部隊が後を絶たなかった・・・」
Qトルックにおける紛争において、グリシネ軍は陸海空三軍を用いての対Qトルック迎撃戦が行われたが、陸海軍の息は合いながら最強の戦力である空軍との息が合わず、陸海軍はほぼ壊滅。当の空軍に至ってはそれ以降は損害を恐れてQトルック上空に一機の飛行機もよこさなかったのだ
参謀本部にいる参謀たちはみんな意気になっていたが、何故か自ら戦闘機に乗って敵機の迎撃には向かわなかったのだ
松井元帥「口先だけは達者だが、果たして・・・」
先ほど述べたように、飛行機のことばかり考えたためにグリシネを「騒音都市」にした挙句、今度は「飛行機の音がうるさいから空軍司令部を移転する」と来た。どうせまた、航空基地を増やして「騒音都市」にするに決まっている
何しろ自らのことしか考えないから、「海軍なんぞと共同で行えるか」などど言って、陸上基地で夜間飛行訓練をやるような連中だ。陸海軍共同で行うために沖合いで空母を用いて行っている日戦軍団とはわけが違う
さて、その日戦軍団総司令部周辺はといえば、グリシネ空軍さえも避けて飛ぶ地域なので、その轟音が響くことはほとんど無い。強いて言えば、敵機の空襲か、グリシネ空軍の航空機が強行的に飛来したときぐらいであろう
以前、グリシネ空軍の航空機が日戦軍団司令部空爆のために飛来したが、全機撃墜の報告が入ったのは言うまでもない
松井元帥「そういえば、以前、徹底抗戦を唱えつつも自らは一切戦場に出ようとしない彼らに対し『散々部下を犬死させておいて、どこまで貴様らは逃げるつもりだ!』と言ったことがあったな・・・」
ドニゲッテル少将「・・・それで、向こうの陸海軍との連絡は?」
松井元帥「ああ、空軍に知られんように、内密に行ってる」
ドニゲッテル少将「・・・大変なことになってしまいましたな」
松井元帥「・・・参謀本部も色々あるんでな」
ドニゲッテル少将「国に残った参謀たちも、大変ですな・・・」
松井元帥「そのうち前線に引っ張り出されるだろうさ。そのときが、グリシネの最期だよ・・・」
ドニゲッテル少将「・・・そうですな」
松井元帥「俺は参謀たちは敵だと思っているが、前線部隊は大事な友軍だと思っている」
ドニゲッテル少将「さすが、我々をうやむやの内に連合国に引き入れた指揮官ですな」
松井元帥「・・・溝口の奴、生きて帰ってこれるかな・・・」
ドニゲッテル少将「・・・松井元帥?」
松井元帥「まさかパレンバンに来るとは思わなかったから、まだ隊の派遣をしてないんだよ。まあ、高須の根拠地隊だけよりはマシだが・・・」
ドニゲッテル少将「・・・犠牲車、増えるかもしれませんな・・・」
松井元帥「ああ・・・」
ドニゲッテル少将「それで、一体どこへ?」
松井元帥「司令室・・・の跡地に行く予定だ。遺品の回収にな」
辺り一体でさまざまな作業を行っている兵士たちの間を縫いつつ、松井元帥は司令室へと進んでいったのであった
さて、その司令室は、まだ瓦礫と化していた
以前、藤田が必死に掴み掛かって話した通信機のマイクも、垂れ下がったままであった
ここに並んでいる、レーダー員や通信兵たちの遺体を処理するのだから、大変である
日戦軍団陸軍所属の平岡二等兵も、その辛い任務を課せられた一両であった
彼は、瓦礫の間から一両の特二式内火艇を見つけた
砲身は折れているが、それ以外に外傷は少ない。爆風でやられたのだろうか
側面装甲の名札に「平岡」と書かれていた。そして、その傍らにある階級章は、赤地に星が3つ。上等兵だ
平岡二等兵(車種:五式中戦車改(88mm砲装備。チリ元帥(同じく88mm砲装備の五式中戦車)と若干の相違点あり))「・・・同じ苗字か・・・偶然なこともあるものだ。でも、俺はこんな風にはなりたくはないな・・・」
誰だって、死にたくは無いものだ
彼はその特二式内火艇を安置室へと運んだ
そして、黙祷を行った。そのときであった
何か、声が聞こえた
だが、部屋の外ならともかく、部屋の中には彼しかいない
「ここだよ!」という大声が聞こえた。真後ろであった
振り返ると、さっき安置したはずの特二式内火艇が浮いていた
平岡二等兵(・・・う、嘘でしょぉぉーーーー!?)
信じられないことが、起こっていた
無論、そんなことはいざ知らず、遺体の移送作業は黙々と行われていた
方や、敵部隊の上陸迫るパレンバンでは、各部隊の展開が行われていた
その中核を勤めるのが第二防御陣地、日戦軍団陸軍第一一三中隊および第一一五中隊である
第一一五中隊の指揮は同部隊きっての精鋭、第七小隊の指揮を務めていた溝口少佐が担当することとなった
中隊参謀の砂原も少佐に昇進したため、佐官が三両も存在する精鋭部隊となっている
火器に関しては、三八式十二糎榴弾砲六門ならびに三八式十五糎榴弾砲四門、一式機動四七粍速射砲四門、九四式速射砲八門を装備している
それ以外にも九二式重機関銃四丁、三年式機関銃四丁、十一年式軽機関銃四丁、九八式高射機関砲六門といった各種小火器や、八八式七糎半高射砲四門、十一年式七糎半高射砲八門といった高射砲郡も配備されている
溝口少佐「・・・榴弾砲が十門か。高射砲を含めても少々物足りないところか」
矢矧中佐「小火器も若干難がある兵装がほとんどだからな。装甲列車隊を含めても、あまり多くはない」
高須少佐(パレンバン基地根拠地隊司令。車種:三式中戦車)「司令、準備完了です」
矢矧中佐「分かった。あとは敵が来るのを待つのみだな・・・」
第一防御陣地にはラフォールス少佐が指揮するQシュタイン連邦軍同基地守備隊が、第三防御陣地にはスターク少佐が指揮するプロトン合衆国同基地守備隊が布陣している
それ以外にも、ヴァイナー陸軍第197機動大隊、グリーンアイランド第221小隊が布陣している。第197機動大隊は高速力を誇る高速部隊であり、グリーンアイランド第221小隊も強力な重火力支援部隊だが、錬度が低いので遊撃部隊として配置されている
矢矧中佐「三つの防御陣地と、二つの遊撃部隊、そして後方に控える装甲列車隊。これらを用いて、敵部隊に打撃を与えるのだ」
溝口少佐「・・・九龍司令はフレイ中佐の護送のために、天城、久村両名と共に輸送船に乗ったそうです」
矢矧中佐「後は、後詰めの『敷島』だな」
溝口少佐「本土の奴と比べると大して大きくは無いそうですが、強いことには変わりありませんな」
四一式重装甲列車「敷島」型。時折その名を見せるその新兵器は、以下の性能を有する
四一式重装甲列車「敷島」型
全長:一両20m(十三両編成)
装甲:複合装甲
武装 (警戒車):15.5cm加濃砲一基
12cm加濃砲一基
90mm滑腔砲二基(一部は75mm榴弾砲を利用)
(砲車):12cm滑腔砲二基
90mm滑腔砲二基(一部は75mm榴弾砲を利用)
12.7mm重機関銃二丁
(機関車):90mm滑腔砲二基(一部は75mm榴弾砲を利用)
(貨物車(甲)):7.7mm重機関銃二丁
物資、兵員搭載
(貨物車(乙)):特に無し(物資/特殊戦車搭載)
(貨物車(丙)):15cm榴弾砲一基(降車して使用する)
7.7mm重機関銃二丁
(指揮車) :75mm榴弾砲一基
7.7mm重機関銃二丁
(後部警戒車):特に無し(物資搭載。なお、車体後部に7.7mm重機関銃を搭載可)
最大速力:100km程度
編成:警戒車−砲車−砲車−貨物車(甲)−機関車−機関車−砲車−貨物車(甲)−貨物車(乙)−砲車−指揮車−貨物車(丙)−後部警戒車
近年、改装が進み、重機関銃が口径7.7mmの九二式重機関銃から口径12.7mmの三一式重機関銃への更新が行われているが、現在は砲車のみの改装にとどまっている。今回第二防御陣地に配備されているのは、この砲車から降ろされた代物である
矢矧中佐「おそらく第一派は航空隊だ。高射機関砲および高射砲要員は戦闘配置!」
高射機関砲、高射砲に次々と兵士が集まる
仰角、合わさる
後は、敵機飛来を待つのみだ
格納庫で航空機の整備をしている兵士たちがいる。Qシュタイン連邦の第221航空隊、第341航空隊と、日戦軍団第362航空隊、第369航空隊である
この第362航空隊の指揮官は、かの第117航空隊司令、京城大佐の弟、京城少佐である
海軍航空隊指折りの搭乗員であり、その素質は兄以上とも言われている
だが、最新鋭機たる電征を駆る兄とは違い、彼は零戦一一型を使用している
彼曰く、「使い込んでいるこっちのほうがいい」のだそうだ
事実、電征は旋回性に難がある。防弾性では電征のほうが勝るが、要するに零戦一一型でも「当たらなければ問題はない」のである
彼らの相手となるラファリエス軍の航空隊はとてつもない規模を持つ
数を言えば、六〇〇から七〇〇機はいると言う。果たしてどれほどの実力かは分からないのだが
京城少佐(車種:60式自走無反動砲)「敵機の飛来までに準備を済ませるんだ!」
日戦軍団兵士「了解!」
総員、出撃準備。スクランブルのときは近い
司令室には、基地司令のボルナソス大佐、参謀のガランタン大尉、そして脱出した通信兵の代わりに席に座っている陸戦兵たちがいる
一大陸戦となる今回の戦闘、いざとなれば彼らも戦場に出るのだ
通信を担当している陸戦兵が、電探の光点を見て叫ぶ
Qシュタイン兵士A「敵、艦上機多数飛来!推定四〇〇機!」
ボルナソス大佐「よし、各機出撃せよ!」
滑走路から次々と航空機が飛び立っていく
敵機の迎撃に向かうのである
その飛行場の端で、プロトン合衆国第133航空隊の各員が集合していた
ラグラ中佐「各戦闘機搭乗員は、燃料補給と機体整備を行っておけ」
プロトン兵士「了解!」
そう、彼らも出撃するのである
一方、第一防御陣地で指揮を執るラフォールス少佐は、飛来する敵機を高射砲で迎撃していた
若干ながら、こちらにも被害は出ている。敵陸上部隊の襲来まで、損害は押さえなければならない
そのとき、無数の友軍機が飛来した
ラフォールス少佐(車種:V号戦車L型)「よし、こちら側に飛来する敵機のみを迎撃せよ!誤射は絶対にするな!」
まあ、そう簡単に誤射をするはずはないが、念のためだ
そして、二四五機もの連合軍航空隊と、二四〇機のラファリエス軍航空隊の大航空戦が展開された
京城少佐「よし、各機攻撃初め!」
主軸となる零戦一一型が一斉に攻撃を開始する。この第362航空隊には零戦一一型以外にも紫電および紫電改も所属している。公式記録上、紫電改の最高速度は590km台だが、実際には600km以上出るという
なお、パレンバン基地には精鋭の桜花航空隊こと第965航空隊(百の位9は「特殊戦闘機(カタパルト発進の機体)」である)が所属しているが、今回は重爆撃機が飛来していないため、出番ではないのだそうだ。航続距離、機動性共に高い艦上機が相手で、航続距離が短い桜花では分が悪いのだ
飛来するGu−117の背後に付き、機銃を撃つ。楽な相手であった
一機を撃墜、続いて別の機体を狙う
敵はこちらに気づかなかった
再び、Gu−117の背後につく。敵もこちらに気づいたらしく、上昇をはじめる
しかし、零戦の機動性の前にはなす術もない。次の瞬間、Gu−117は機銃弾を受け、墜落した
背後から、敵のロケット弾が襲い来る
しかし、それをかわし、ロケット弾を発射した敵機の背後につく
そして、機銃を放つ
敵、第1331航空隊司令、エンデルス中佐は、次々とGu−117を撃墜していく零戦一一型を見た
エンデルス中佐(車種:W号戦車J型)「相手は旧式機だぞ!一体、どうなってるんだ!?」
機動性の高いGu−117が、たちまち銃弾を受け墜落していく。これはもはや、錬度の問題であった
エンデルス中佐「しかし、我が最新鋭機の前には無力!正面からやってくれる!」
一機の零戦一一型の正面に、エンデルス中佐の乗る新鋭戦闘機、Gu−122が迫った
京城少佐は、正面から迫るGu−122が、隊長機だと気づいた
京城少佐「・・・隊長機か。ジェット機であろうが問題はない!」
正面から、迫り来るGu−122を照準に合わせ、機銃を放った
敵の30mm機関砲四丁と、同時だった
二機の戦闘機が、機銃を放ちつつすれ違う
そして、旋回して衝突を回避した
エンデルス中佐「敵、隊長機を撃・・・なにっ!?」
煙を噴いたのは、Gu−122のほうだった
直後、Gu−122が火を噴いた
無数の銃弾を翼に受けていたのだ
何とか冷静になったエンデルス中佐は、機を旋回させる。今度こそ零戦を撃墜するのだ
しかし、零戦は銃弾をかわし、そのまま視界から消えた
エンデルス中佐「ど、どういうことだっ!?」
零戦は、Gu−122の後ろについたのだ
京城少佐「よし、あとは止めを刺すのみだ!」
京城少佐機は、20mm機関砲を放った
エンデルス中佐「高速、離脱だっ!」
スロットルを開き、離脱をはじめる
しかし、20mm機関砲弾は、胴体後部のエンジンに命中、爆発した
エンデルス中佐「・・・嘘だろ・・・」
そして、エンデルス中佐のCPUを、轟火が襲った
爆発、炎上し墜落するGu−122の脇を、零戦一一型が飛んでいく
京城少佐「敵、隊長機を撃墜!」
再び、敵編隊へと向かっていく
激戦、なおも続く
第七十話 続く