第六十七話 奇襲錫蘭沖艦隊決戦
さて、大日本帝国の首都、大京では、最新型爆撃機の試作機が完成していた
名は「深山」。四発の大型爆撃機である
全長34m、日戦軍団の同名機より2m大きく、キュワール各国のいかなる爆撃機よりも大きいその巨体に、多数の対空機銃と最大5000kgの爆弾を搭載できる最新鋭機である
この日は、試験飛行が行われた
格納庫から出た「深山」試作機は、ゆっくりと速度を上げる
そして、何ら問題も無く、離陸した
速度計の数値が上がる
400kmを超えた
450、460、470、480、490、500、510・・・
そして、520のところで、ほとんど動かなくなった
最高速度は、520kmであった
そして、「深山」試作機は急旋回をする
この急旋回というのが、大型機においては困難な動きである
あのYS−11ですら、片側のプロペラを停止させての急旋回に苦戦していたほどだ
さて、この「深山」はというと、見事成功した
もっとも、今回はプロペラ4つを全て回した状態であったが
さらに片側二つを停止させての超急旋回も成功
続いて、大型機では困難であるアクロバット飛行まで成功、首脳陣を驚かせた
司令官「・・・あれが、新型の爆撃機かね・・・」
技術士官「はっ、自分でも予想以上の機動だと思いました」
そして、「深山」が着陸した後に、司令官が言ったのは、この一言であった
司令官「・・・君のゼンマイの薬、分けてくれないか?」
操縦士「・・・薬・・・ですか?」
そう、驚いたあまりに、薬を分けてくれ、と言ったのだ
そんな話もあるが、この高性能爆撃機「深山」はさらに上を目指し、改良型「連山」も開発されていくそうだ
「日戦軍団のB−29」の異名を持つ、日戦軍団の「連山」を超えることは、目に見えている
果たして、キュワール連合国の運命や、いかに・・・
さて、それから数分後、セイロン基地沖において、突如異常な歪みが発生した
それを探知した重巡「サレックス」を旗艦とする第十五巡洋艦隊は、直ちに基地に救援を要請した
前方に見える艦隊は、大半が旭日旗を揚げている
日戦軍団も旭日旗を揚げているが、艦影からすれば大日本帝国であろう
そして、その周りを進むのは、シルグノーム級であろう
艦隊司令のライズドール大佐が言う
ライズドール大佐(車種:クロムウェル)「航空隊はすぐにやってくるだろうが、艦隊は後になりそうだな・・・」
基地からの報告では、Qタンク第八機動艦隊とQレース第六艦隊、そして日戦軍団の精鋭飛行隊が出撃したそうだが、時間がかかりそうだ
そして、遂に敵艦が接近した
ライズドール大佐「駆逐艦は後方から支援、巡洋艦は突撃せよ!」
十二隻の巡洋艦が前進を始める
駆逐艦はだんだんと速度を下げる
前方には重巡洋艦が三隻。浅間型だ
艦長「撃ち方初め!」
三隻に対し十二隻である。勝敗は既に分かっている
一隻の重巡が火を噴く
そして、もう一隻も炎上する
最後の1隻も、主砲弾の命中により傾斜を始めていた
三隻、全艦撃沈である
続いて、近くに見える敵艦隊を狙った
僚艦が次々と被弾する中、砲撃を開始する
見事一隻を屠る
僚艦の沈没報告が届く
後方で一隻の巡洋艦が火を噴いている
艦長「・・・どうやら、結構多いようだな・・・」
見張り員「敵艦、撃沈!」
艦長「全速前進、敵艦隊より離れろ!」
一旦、敵艦隊から退避した
先ほどの砲戦で、巡洋艦六が沈んだ。いや、正確には、ロンドン級一隻が大破している
司令室で、すぐさま報告を聞いた
松井元帥「重巡三および艦種不明敵艦二を撃沈するも、我が軍は巡洋艦六が沈没、か・・・」
米沢大将「・・・こちらのほうが、損害が多いようですな・・・」
松井元帥「これがあの原田司令だったら、見捨てていたところだろう・・・」
原田司令、グリシネ陸軍の原田大将である
松井元帥の同期で、かつてからのライバル。陸軍の名将などと呼ばれたが、彼の難点は・・・
松井元帥「・・・使えない友軍を斬り捨てる、だったな」
米沢大将「・・・あの男ですか」
松井元帥「・・・奴は第二次キュワール大戦時から、『ライバル』から『宿敵』へと変わった・・・俺たちを、引き離しているのは・・・これだ」
作戦地図を眺め、松井元帥は言った
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CQ暦208年 Qターレット王国領内
・・・あの時、俺たちは、それぞれで一個中隊の指揮を任されていた・・・
苦戦していた
俺は、あの時はQターレット陸軍大佐だった・・・
Qターレット兵士A「第九八中隊との通信が途絶えました!」
松井大佐「何っ!?」
Qターレット兵士B「第八七中隊壊滅!」
松井大佐「・・・まずいな・・・」
俺が指揮を執っていたのは、第五七中隊。原田は第五八中隊だった
Qターレット兵士A「司令、第五八中隊です」
原田大佐(車種:90式戦車)「松井、ここは撤退しよう」
松井大佐「戦闘は続いているんだ!苦戦している友軍を助けなければならない!」
原田大佐「第八軍は戦略的には役に立たないはずだ!俺たち精鋭部隊を優先に考えるべきじゃないか!?」
松井大佐「貴様、気でも狂ったか!?」
原田大佐「俺は正気だ!」
松井大佐「とにかく、友軍を見捨てることは出来ん!たとえたいした戦力でなくても、守るべきものは同胞だ!」
原田大佐「俺たちは負ける運命なんじゃないのか!?」
松井大佐「たとえ負けると分かっていても、諦めるわけにはいかないんだ!」
原田大佐「それだから、俺たちは負け戦になったんじゃないか!」
松井大佐「たとえそれが間違っていようと、俺は戦う!ここで退くわけにはいかない!」
・・・俺と、彼とは、戦略が正反対だった・・・
松井大佐「貴様なら、友軍を見捨てることが出来よう。だが、俺は見捨てることなどできん!同胞が苦戦している中、精鋭部隊が退却して何になろうか!」
原田大佐「優秀な戦力は一旦引くべきだ!」
松井大佐「ここで智将気取りしようと、俺たちは負ける。敗軍の将になるのは決まってるんじゃないか!」
Qターレット兵士B「第八軍、壊滅は時間の問題です!」
松井大佐「突撃だ!敵軍を殲滅後、友軍と共に撤退する!」
原田大佐「部下を見殺しにする気か!?」
松井大佐「貴様の知ったことじゃないだろう!俺たちは既に死を覚悟している!貴様らみたいな臆病者とは違うんだよ!」
原田大佐「臆病者だと!?」
松井大佐「ここで逃げるなら速めに逃げたほうがいいぞ!」
原田大佐「言ったな!?」
松井大佐「口喧嘩で何とかなる戦じゃない!俺は行く!」
・・・俺たちは、第八軍を救出し、彼らと共に撤退した
損害は、少なくは無かった・・・
一方、第五八中隊は、無傷で撤退した
いずれにせよ、Qターレット王国は敗北し、俺たちはグリシネに亡命した
そして、原田はグリシネ国陸軍大将に昇進し、いまや陸軍参謀長。俺は陸軍元帥に昇進したが、モントレー元帥にその座を譲り、いまや「反逆車」のレッテルを貼られた日本戦車軍団の総指揮官、か・・・
―――――――――――――――――
松井元帥「あの男は、以前、捕虜をわざわざ射殺したんだ。『使い物にならん』とね・・・」
米沢大将「『使い物にならん』から、ですか・・・?」
松井元帥「・・・ああ。あんな奴、Qターレット王国陸軍より、プロトン合衆国陸軍に居たほうが、よさそうだな・・・」
プロトン合衆国陸軍第三軍の、リピーレド元帥たちを揶揄しているのだ
松井元帥「・・・まさかあいつら、特殊弾頭弾をあんなふうに使うとは思わなかったよ・・・」
チョロ〜ン戦に於いて、彼らは容赦なく特殊弾頭弾を用いて、街一つを壊滅させている
他にも、Qトルック帝国(現:サウストルック共和国)の都市「パトラファック」の民間車を焼殺したという話も残っている
その話を掴んだ日本戦車軍団と、現在の陸軍総司令官、ロッキード元帥は、共に彼らを「陸軍参謀本部」の座から引き摺り下ろしたのだ
松井元帥「・・・以前のデュミナスの連中と変わらんよ・・・」
米沢大将「・・・もう、いいじゃないですか。熱田さんは生きていたんですから・・・」
松井元帥「・・・意外と、俺はしつこいんでな。通りで、原田の奴に『正義感が強い』なんて言われたわけだな」
松井元帥とグリシネ陸軍は、以前から確執があったのだ・・・
松井元帥「・・・そろそろ、航空戦が始まる頃だな・・・」
米沢大将「我が航空隊の到着は、少々遅れそうですな」
松井元帥「九条と沢田には『なるべく早めに準備を済ませろ』とは言っておいたんだがな」
とにかく、ある程度戦力を送り込んで、戦線を維持しなければならない。苦戦は、ある程度続きそうだ
さて、舞台は再びセイロン沖の重巡「サレックス」に戻る
遂に敵攻撃隊が飛来、こちらも迎撃機を向かわせた
前方、敵磯風型駆逐艦を狙う
砲撃開始。撃沈した
報告どおり、沈没艦は六隻。大破していたロンドン級も、遂に大爆発を起こし沈没した
我が軍の航空隊はフルマーが十六機。旧式の戦闘機である
敵は九六式艦戦と零戦一一型。さすがに、これまで連合軍航空隊と戦っていた九五式艦上戦闘機の姿は無かった
しかし、十六機に対して百機近い数である。あっさり壊滅し、七十機程度の攻撃機、爆撃機が接近する
見張り員「右舷方向に敵機、十五機程度が飛来!」
艦長「SAM、迎撃初め!」
大量の対空ミサイルが、敵機に向かって飛んでいく
一機、二機、三機・・・次々と撃ち落されていく
しかし、敵機はなおも向かってくる
九四式艦上爆撃機が数機、見えた
艦長「両用砲、攻撃初め!」
四基の両用レーザー砲、六機の連装機銃が次々と攻撃を始める
一機が爆発した
もう一機が炎上、墜落する
残る数機が、魚雷、爆弾を次々と投下した
艦長「面舵一杯!」
巧みな操艦で、魚雷や爆弾をかわしつづける
そのとき、爆発が「サレックス」を襲った
命中弾だ
乗務員(通信)「甲板に火災発生!」
甲板に250kg爆弾が被弾、炎上したようだ
戦闘に支障は無いようだ
対空戦闘はなおも続く
飛来する航空機を次々と叩き落していく
ライズドール大佐「・・・艦隊はまだなのか・・・」
艦長「そろそろ来るはずだが・・・」
そのとき、電探上に無数の航空機が出現した
敵機ではなかった
電探員「・・・日本戦車軍団、第三八八航空隊、到着しました!」
第三八八航空隊および第三八九航空隊が、ようやく到着したのだ
セイロン所属の第三八九航空隊(隊長:九条少佐)は、未だに九五式戦闘機が配備されているほどの飛行隊である
もともとセイロン基地は「哨戒基地」だったため、大した航空隊が配備されていなかったのだ
一方、ルナツー基地から転属した第三八八航空隊(隊長:沢田中佐)は、「雷電」「天雷」「紫電」といった、高性能戦闘機が配備されている。
九条少佐(車種:三式中戦車)「よし、各機攻撃初め!」
敵機に襲い掛かる日戦軍団航空隊。第十五巡洋艦隊艦載の四機のフルマーを援護するように、次々と向かっていく
沢田中佐(車種:五式中戦車)「友軍を狙っている機体から順に狙え。俺たちの任務は友軍の援護だ!」
一気に、航空戦は連合軍優位になった
四機のフルマーを支援すべく、一六〇機の戦闘機が飛来した
敵機は約一〇〇機。敵味方の錬度からすれば、互角以上である
そしてほぼ同時期、バシリスク級駆逐艦「ビーグル」を旗艦とするQレース第二〇駆逐艦隊(Qタンク王国からの輸入艦で構成)が到着した
この艦隊の指揮官は八木大佐(車種:四式中戦車)。グリシネ系を思わせる名前だが、それは彼の過去に関するものだという
沢田中佐「これで、敵の航空攻撃は防がれたな。各機共に友軍艦を援護せよ」
そして、敵の航空攻撃を防ぐことが出来た。航空戦はなおも続くが、対空射撃も加わっているため、連合軍優位は変わらなかった
「サレックス」の艦橋では、敵機が火を噴いて墜落するたびに歓喜の声が上がっていた
そんな中、艦長は砲撃戦の再開を指示した
艦長「目標、前方の敵八雲型重巡洋艦、主砲、撃ち方初め!」
第十五巡洋艦隊および第二〇駆逐艦隊の艦艇が次々と攻撃を開始した
八雲型重巡が炎上する。後続の八雲型も炎上する
続いてやって来た新高型軽巡も、砲撃を受け沈黙した
磯風型駆逐艦二、楢型駆逐艦一を撃沈、それ以外にも多数の損害を敵艦艇に与えた
こちらの損害は駆逐艦五沈没をはじめ、ほんのわずかだ
その時、右舷で爆発が起こった
敵戦艦の砲撃が命中したのだ
乗務員(通信)「右舷に敵主砲弾一発命中!火災が発生しております!」
主砲弾であった。消火活動が開始された
「サレックス」は一時後退した
同時刻、敵航空隊第二波が来襲した
大規模な航空戦が始まった
今度は連合軍は数で劣る
しかし、錬度では勝る
数分間、互角の戦いが続いた
艦艇による対空戦闘も再開された
数分後、友軍艦隊が接近した
カレイジャス級空母「カンタベリー」を旗艦とするQタンク第八機動艦隊(司令:ゼラーズ准将)と、フライダーツ級戦艦「アナンケ」を旗艦とするQレース第六艦隊(司令:ファーゴット少将)であった
いずれも大艦隊である。大日本帝国艦隊とはほぼ互角。一進一退の攻防戦が続いた
第六艦隊旗艦「アナンケ」は、他の艦艇を率いて、敵艦隊への砲撃を開始した
パトリック大佐(戦艦「アナンケ」艦長。車種:RX−7)「目標、前方の敵戦艦。撃ち方初め!」
ファーゴット少将(第六艦隊司令。車種:シルビアS14)「・・・間に合ったようだな」
パトリック大佐「これで、ようやく互角ですな」
第六艦隊は敵戦艦三を撃沈した
第八機動艦隊は主に敵機の迎撃に当たった
その時、シルグノーム級四隻が、敵艦隊の周囲に接近した
連合軍艦艇は、シルグノーム級の周囲から退避した
そして、帝国艦隊は撤退した
ファーゴット少将「・・・どうやら、敵の任務はセイロン攻撃ではなかったようだな・・・」
パトリック大佐「・・・陽動でしょうか?」
ファーゴット少将「それもありえるな・・・」
「サレックス」
では、ようやく火災が鎮火した
敵艦隊撤退の報を受け、他の艦艇と共に、セイロンへ帰還することとなった
日戦軍団航空隊が、その上を飛んでいく
ライズドール大佐「・・・陽動艦隊?」
艦長「はい、敵は充分戦闘能力を持っていながらも、後退しました。これは陽動である可能性があると思いますが・・・」
ライズドール大佐「・・・確かに、わざわざ戦略的価値の薄いと思われるセイロンを強襲するともなれば、ありえるな・・・」
艦長「・・・また日戦軍団に助けられましたな」
ライズドール大佐「・・・頼もしき友軍だな」
乗務員(通信)「火災、消火完了しました」
艦長「了解」
連合軍艦艇は、デヴォリアおよびセイロンへと後退した
同時刻、ベータ基地ではとんでもない報告が入った
敵陸上部隊が後退を開始したのだ
松井元帥「本当か!?」
米沢大将「はっ、敵陸上部隊が全軍、後退を開始したとのことです」
松井元帥「・・・まさか、先刻のセイロン沖での戦闘と関係が・・・」
大西准将「オルキス近辺に出現した敵艦隊とも関係が有りそうですな」
松井元帥「・・・とりあえずは、ベータに来襲した敵部隊を、完全に後退させることが、現在やるべきことだな・・・」
ベータでの戦況は、好転しつつあった
第六十七話 終わり