第五十九話 戦友、ベータに死す
ベータ空襲は凌いだキュワール連合軍だったが、艦隊戦に敗退、上陸戦は地底戦車を用いて何とか凌ぐが、地底戦車が破壊され、再び敗勢に傾いたのであった
進撃を開始したのはウルタンク帝国第352大隊、第455大隊であった
支援部隊である第352大隊は、P40以外は軽戦車で編成されている
何しろM13/40あたりは「前進一速、後進五速」と呼ばれ、挙句の果てに「胸に刻むは退却魂」「他の追随を許さぬ弱さ」などといわれるほどの柔らかぶりを発揮しているのだ(おい)
方や第455大隊、これは主力部隊である
かつてはM4中戦車を主力とした超物量部隊であったのに対し、最近は武装を増強し、何故かドイツ戦車で編成されている
パンターやティーガーUが含まれているため、もはや対抗しようが無い戦力であった
ライトウォーター司令部
松井元帥「・・・予備は間に合いそうに無いな・・・」
司令部で「蒼空改」に積み込んでいる六三式地底戦車のことである
まだ積み込みが完了していないのだ
輸送部隊第二陣として発進させることにしたのだが、本当は第一陣にしたかったのだ
コピック中佐「・・・松井元帥・・・」
松井元帥「玉砕覚悟だな・・・」
「玉砕」。その一言を聞き、皆は沈黙した
今まで、松井元帥が一度も、戦場で口にしなかった単語である
確かに、日本戦車軍団は、そこまで追い込まれることが無かったのだ
ティーガー元帥「・・・一体、どういうことですか?」
松井元帥「・・・これほどの戦力が相手では、我々は勝てない。もはや最後の一兵まで、奴らと戦うしか無いのかも知れん」
陸軍潜宙艦隊による艦隊攻撃も、専ら通用しなくなっていると聞く
所詮気休めにしかならない攻撃だったか
マグス中佐「・・・しかし、ここでベータを見捨てれば、我々の反攻作戦の橋頭堡が失われることになりますよ!」
松井元帥「分かっている。ドニゲッテルという優秀な指揮官がいるんだ。彼らを失うのは惜しい」
ティーガー元帥「でしたら、早急に援軍を出すべきでしょう!」
松井元帥「第875航空隊がいつまで持つか分からんのだぞ!そんな中、非武装の輸送機を出せると思うか!?」
ティーガー元帥「・・・・・・・」
もう、手段は無かった
ドニゲッテル少将とフェラーリ中将の指示で部隊が集まりつつあったが、敵将、ライト中将は冷静な男であった
先のニビリア軍奇襲部隊に第352大隊を差し向け、自らの部隊を正面に向けたのだ
もっとも、これぐらいのことは誰でも考えるかもしれないが
ベータ基地
Qシュタイン将校「現在、防衛戦が続いています!支援願います!」
所々に、さまざまな砲台郡の残骸が見える中、防衛戦が続いていた
西田大佐「・・・勝ち目は無いかもしれんぞ!」
大島二等兵「しかし、ここで戦わずして、死ぬわけにはいきません!」
日戦軍団の機動戦法と、第253小隊の狙いを外さぬ支援砲撃で、何とかその場を凌いでいた
大島二等兵「畜生!どれだけ倒せばいいんだ!」
日戦軍団兵士A「そんなこと知るか!大島!」
大島二等兵「俺たちはここで生き延びるんだ!なんとしてでも!」
そんな中、入り口近辺の指揮所で異変が起こった
アコース中佐「損害が増える一方だ!一旦後退を・・・」
その直後、アコース中佐からの通信が途絶えた
装甲が貫徹されていたのだ
Qシュタイン兵士A「司令が被弾した!」
Qシュタイン兵士B「大丈夫ですか?!」
移動不可能、車体に損傷あり。戦闘続行不能とみなし、二両の兵士が牽引していった
小隊指揮は、カシアス大尉に任された
カシアス大尉「自分が指揮を続行する!この場を凌ぐぞ!」
一方、左翼進出の奇襲部隊である
指揮官であるサーナイト少佐は、状況が不利であることを悟っていた
サーナイト少佐(車種:ソミュアS35)「敵の攻撃を回避しつつ、できるだけ後退しろ!」
苦戦は必至と見ていたため、後退を開始した
第231特科分隊残存戦力も、後退を始めていた
そして、中央部の二個小隊である
やはり、6000両以上の戦力が相手では、勝ち目は無かった
西田大佐「・・・まずいな・・・」
カシアス大尉「西田大佐・・・ここはひとまず、後退すべきでしょう」
西田大佐「・・・俺もそう思っていた。後退する。我々は左方向へ、諸君は右方向だ。頼むぞ」
カシアス大尉「了解しました」
残存中央戦力も後退を開始した
第189小隊は第58連隊左方奇襲部隊と合流し、第253小隊は第231特科分隊残存戦力と合流した
第231特科分隊残存戦力と共に、先ほど後退したアコース中佐の姿があった
沖合いを眺めると、幾度か爆炎が上がる中、敵艦隊が動き回っている
陸軍潜宙艦隊が戦っているのだというが、気休め程度にしかならないらしい
カシアス大尉「完全に、孤立したようですね・・・」
カシアス大尉はそう呟くと、敵部隊のほうを見た
そのとき、彼は目を疑った
敵部隊は、どこか統制の取れない、混乱した動きを取っていた
アコース中佐「・・・カシアス大尉、どうした?」
カシアス大尉「・・・・司令・・・あれは・・・」
フェラーリ中将たちが戦っていたのだ
第231特科分隊とは違い、後退しなかったのだ
フェラーリ中将は機関砲やミサイルで武装している。側面からミサイルを発射しつつ、高速で動き回る彼の姿は、まるでレコードブレイカーだ
ルクレール達も、最大速力で戦っていた
さすがに、彼らルクレール達は後退してきたが、一発も当たっていないフェラーリ中将はなおも奮戦を続けた
すると、敵シュトルモビクが急降下してきた
アコース中佐「危ない!」
そして、シュトルモビクが爆弾を投下した
それを察知したフェラーリ中将は
フェラーリ中将「甘い!」
直ちに増速し、敵弾をかわしたのだ
シュトルモビクを振り切り、ミサイルで撃墜した
皆は、唖然としていた
ルクレール部隊の司令、ハイエル少佐が語る
ハイエル少佐(車種:ルクレール)「司令は、元レーサーなんです」
何の理由でレーサーを辞めて、こんな戦場にやってきたかどうかは定かではないが、確かにあの速さはレーサーでないと出せないだろう
ドリフトしながら退避してくるフェラーリ中将を眺めて、アコース中佐は思った
アコース中佐「しかし、敵機を振り切るチョロQなんて、初めて見たぞ」
直後、物凄い轟音が上空に響いた
ベータ司令部
平岡上等兵「司令!敵襲です!」
ドニゲッテル少将「第875航空隊は?!」
Qシュタイン兵士C「燃料補給で着陸中です!」
ドニゲッテル少将「畜生、肝心な時に使えん奴らだ!」
ユゴス少佐「これはまずいですね・・・」
そのとき、レーダーを監視する兵士が、更に驚くべき敵影を捉えた
この日は、藤田ではなく、Qシュタインの通信員が監視していたのだ。勝山の代わりに派遣されてきた、Qシュタインの隊員だ
名は、モヴァークという
モヴァーク二等兵(車種:U号戦車c型)「ベータ沖に艦影!」
レーダー監視のベテラン、藤田上等兵が駆けつける
藤田上等兵「・・・260・・・270・・・280・・・290・・・300隻以上、輸送船級は内60隻程度!」
援軍であった
平岡上等兵「奴ら、占領に時間食ってるから、援軍呼んできたのか・・・」
そのとき、物凄い轟音が、司令部にも聞こえた
モヴァーク二等兵「何ですか?!」
藤田上等兵「敵襲だ!シュトルモビクが来た!」
Qシュタイン兵士C「敵機、急降下!」
平岡上等兵「避けろ!」
間に合わなかった。
物凄い銃弾の嵐が、司令部を襲ったのだ
必死に、副司令官ユゴス少佐に近づく、ドニゲッテル少将
直後、爆弾が投下され、周囲の床が落下、二両は消息を絶った
気が付けば、そこは表面部だった
見れば、敵機はなおも司令部を攻撃している
ドニゲッテル少将「・・・これじゃ、虐殺じゃねぇか・・・」
二両はミサイルを構える
いざという時には敵機を撃墜するのだ
ユゴス少佐「・・・あれが、奴らのやり方なんでしょう」
直後、二発のミサイルが見えた
ドニゲッテル少将「ハープーンか!?」
とっさに叫んだ、その名前は艦対艦ミサイルの名前であった
ユゴス少佐「いえ、あれは多分・・・」
マーヴェリック対地ミサイル。おそらく、それの艦船仕様であろう
5発のミサイルを放つが、間に合わなかった
司令部は、炎に包まれた
司令部で、何両かの兵士はそれに気づいた
迎撃のミサイルが間に合わない
対地ミサイルが来る
モヴァーク二等兵「ミサイルだ!」
平岡上等兵「そんなこと叫んでる場合か!」
既に、ミサイルは大きく見えてきた
とっさに、平岡が叫んだ
平岡上等兵「退避!」
数両のレーダー員たちと共に、近くにいた平岡は必死に逃げた
物凄い爆発音が響く
平岡上等兵「藤田!」
藤田へと、近づく
藤田上等兵「平岡!」
平岡上等兵「藤田!俺は間に合わない!お前だけでも・・・」
直後、物凄い爆発が、二両を引き離した
藤田上等兵「平岡!平岡!平岡ぁぁーーーーー!」
直後、爆風で、藤田上等兵も、姿を消した・・・
ドニゲッテル少将「・・・あれじゃ、生き延びた奴はいないだろうな・・・」
ユゴス少佐「・・・藤田上等兵・・・平岡上等兵・・・」
ドニゲッテル少将「松井元帥からの贈り物を、こんな風に亡くしちまうとはな・・・」
松井元帥により、ルナツー司令部から派遣された三両のエリート通信兵
その一両、勝山はこの前の空襲で重傷を負い、パレンバンに搬送された
通信隊の中で一番若い隊員で、ベテランの平岡との漫才のような掛け合いが人気だった
彼の上等兵への昇進報告が、この前届いた
藤田は、松井元帥の下で働きつづけた、エリートの通信兵で、通信機器、電探類の扱いが得意な隊員であった
そして、平岡は陸戦隊から転属した隊員で、勝山の次に若かった。通信以外でもさまざまな分野で活躍し、特に戦闘時以外での面白い一面は、皆を楽しませていた
勝山の代役として派遣されてきた、名前もよく覚えていないU号戦車c型。奴と藤田との話も、愉快なものであった
自分としては何度も見てきた、レーダー員たち。彼らも、数時間前まで冗談を言い合っていたのだ
各方面への通信士官たちも、愉快な奴らがそろっていた
あれほどの「仲間」が、一瞬にして失われたのだ
ドニゲッテル少将「・・・松井元帥・・・」
すると、眼前に敵部隊が見えた
ウルタンク帝国だ
ウルタンク将校「敵基地指揮官と思しき戦車を捕捉。これより攻撃にかかる」
敵は十両。こちらは二両だ
ドニゲッテル少将「タイミングが悪かったようだな。ちょうど、再装填が終わったところだ」
そう言うと、ドニゲッテルは手始めにロケットランチャーを放った
二両の戦車が、炎上した
続いて、ユゴス少佐がミサイルを放つ
損傷を負った敵戦車を破壊した
ユゴス少佐「攻撃初め!ここが我々の墓場になるまで、どれぐらいの時間がかかるか!」
ドニゲッテル少将「連邦の自由のために!久々に暴れまわろうじゃないか!」
38cm臼砲の一撃で、複数の戦車が炎上した
ドニゲッテルは砲兵隊上がりで、それゆえにロケットランチャーを装備している
ユゴスが参謀になったのは第五次キュワール大戦のときだ。なかなか詩人的な奴であった
今はそのような一面はなかなか見せないが、参謀としてもいい奴であることは、長年の付き合いでわかった
敵分隊が複数、押し寄せてきた
差は、倍以上だ
ドニゲッテル少将「・・・どうやら、押されてきたようだな」
ユゴス少佐「しかし、最後まで戦うのみです。司令部で散った、平岡上等兵たちのために!」
直後、敵戦車数両が、炎を上げて倒れた
大塚中尉「司令、助けにきました!」
第231特科分隊の大塚中尉だ
その後ろには複数の戦車が見える
良く見れば、ニビリア軍の兵士も見える
18両の戦車は奮戦し、敵数個分隊を撃退した
ドニゲッテル少将「周囲の奴らは、あらかた片付けたようだな」
ハイエル少佐「・・・司令、なかなかやりますね」
ドニゲッテル少将「ニビリアの士官・・・いや、ハイエル少佐だったな。君もやるではないか」
大塚中尉「・・・ところで、司令、通信隊は・・・」
ドニゲッテル少将「・・・全滅だ・・・」
大塚中尉「そうでしたか・・・」
彼らの向こうでは、なおも戦闘が続いていた・・・
ふと、気づけば、瓦礫の中であった
必死に這い上がった、上等兵の階級章を持つ、一両の九四式軽装甲車
藤田だ。
その傍らには、既に息絶えた特二式内火艇。平岡上等兵だ
藤田上等兵「・・・平・・・岡・・・」
数日前まで、冗談を言い合った、U号戦車c型。勝山の代役だったという。名前は確か・・・モヴァークだったか
藤田上等兵「・・・生きてるのは・・・俺、だけか・・・」
ふと、眼前には通信機のマイクがぶら下がっていた
スピーカーからは、聞きなれた声が聞こえた
藤田上等兵「・・・・・・総・・帥?」
松井元帥(通信)「ベータ司令部!応答せよ!応答せよ!藤田!平岡!」
藤田上等兵「・・・通信機が・・・動い・・・てる・・・」
1発の250kg爆弾、二十発ほどのロケット弾、2発のマーヴェリック。これほどの攻撃を受けたのに、なおも動きつづける通信機器
自分と同じく、タフな奴だ
藤田上等兵「・・・まだ、勝機はある!」
藤田は、力を振り絞り、通信機のマイクを手にした
ライトウォーター司令部
松井元帥「藤田!平岡!生きているか!応答しろ!呼ばれたら返事ぐらいするんだ!」
松井元帥の今まで以上に熱い叫びが、空しく響く
コピック中佐「司令、やはり、通信隊はやられてしまったんじゃないんですか?」
松井元帥「通信隊はタフな奴ばかりだ!たかがマーヴェリック二発・・・」
ふと、松井元帥はマーヴェリックの威力を確かめた
弾頭部は確か、強力な火薬だったはず
HMXオクトーゲンだったか。日戦軍団の艦艇が使用する下瀬式火薬とは、圧倒的に威力が異なっている
松井元帥「・・・・まずいな・・・」
藤田上等兵(通信)「・・・・・・・・総帥・・・・」
かすれた声で、必死に、藤田が呟く
松井元帥「・・・その声は・・・藤田か!状況を簡潔に説明してくれ!」
藤田上等兵(通信)「・・・・敵機の・・・・猛攻・・・ならびに・・・艦艇の・・・ミサイル・・・攻、撃を・・受け・・・司令部は・・・全壊・・・司令・・・ならびに・・・副・・・司令は・・・消息・・・不明・・・」
驚くべき情報であった。よりによってドニゲッテルとユゴスが行方不明なのだ
松井元帥「平岡は!?連邦のレーダー員たちは!?」
藤田上等兵(通信)「・・・自分の、目の前で・・・息を・・・引きとり・・・ました・・・」
松井元帥「・・・そんな・・・」
藤田上等兵(通信)「生存車は・・・自分、だけです・・・」
松井元帥「藤田、お前はどうなんだ!?」
藤田上等兵(通信)「・・・自分も・・・もう・・・持ちません・・・損傷率・・・九割・・・五分・・・もう・・・だめです・・・」
松井元帥「藤田!あきらめるな!お前だけでも生き延びるんだ!」
藤田上等兵(通信)「・・・九割・・・八分・・・突破・・・もう・・・やばいです・・・」
松井元帥「もう喋るな!あまり喋ると、富岡大尉が来る前に・・・」
藤田上等兵(通信)「・・・・・ベータは・・・まだ・・・諦めないで・・・くだ・・・さい・・・」
川島兵長「藤田!藤田!藤田ぁぁーーーーー!」
それまで口を開かなかった、川島が唐突に叫んだ
川島は、藤田の教官だった
川島兵長「俺が死ぬ前に、俺が死ぬ前に、貴様らが死ぬなど、何かの間違いだ!」
松井元帥「川島!これは紛れも無い事実だ!」
松井元帥も、心なしか、悲しげに叫んだ
直後、松井元帥は直立した
松井元帥「・・・・藤田も・・・平岡も・・・・戻っては来ない・・・」
泣いていた
ティーガー元帥「・・・司令・・・」
長い間、松井元帥の近くにいた、ティーガー元帥は、彼が泣くところを初めて見た
初めに彼に出会ったのは、叛乱に失敗し、国外追放された時だった
プロトン王国陸軍が、引き取ってくれる。そのことを、報告しにきた時であった
第四次キュワール大戦を前にして起こったクーデターで、T−35が政権を取り戻した
それを聞いた、彼は「ドニゲッテルが、やってくれたようだ。戦争が終わったら、君も国に帰れる」と、語っていた
大損害があっても、泣くことは無く、どこか冷酷な一面があるように見えた
軍人気質の、上層部らしい、冷酷な男。それが、ティーガー元帥が見た、彼の最初の印象であった
しかし、ライトウォーター司令部で直立し、微動だにせず、部下の名を呟いた彼は、部下思いの熱い将校であった
平岡の戦死を聞いたのは、パレンバンの司令部だった・・・
一両の九二式重装甲車が通信作業をしている
彼の名は、勝山だった
臨時通信員として働いていた勝山は、先輩であった平岡が、敵機の空襲で死んだということを、パレンバンで親しくなった連邦の兵士、ディール二等兵から聞いた
勝山上等兵「・・・本当に、本当に平岡さんが死んだんですか?!」
ディール二等兵(車種:U号戦車F型)「はい。たった今、ライトウォーターより通信が届きました。自分の戦友も、死にました」
彼の親友、モヴァーク二等兵も、ミサイルの爆発に巻き込まれ、死亡したのだ
勝山上等兵「モヴァーク?」
ディール二等兵「はい。モヴァーク二等兵。通信科所属で、数日前にライトウォーターに行ったばかりの若い兵士です。車種は、U号戦車のc型です」
勝山は悟った。自分の代役として派遣されてきた隊員だと
自分が重傷を負い、パレンバンに運ばれた。だから、代役としてモヴァークが派遣され、爆撃で死んだ。もし、自分が前の空襲で重傷を負わなければ、彼は死ぬことが無かったのかもしれない
勝山上等兵「・・・自分だけが・・・生き残って・・・自分より若い兵隊が・・・死んで行く・・・一体・・・この戦争は・・・」
ディール二等兵「・・・勝山上等兵・・・」
ボルナソス大佐「勝山!ディール!」
勝山上等兵「ボルナソス大佐!」
ボルナソス大佐「貴様ら、戦友が死んだことで悔やんでるんだろ。自分があの場に残っていれば彼らが死ぬことが無かったと」
彼にはお見通しであった。さすが、全ての大戦を経験した男だ
ボルナソス大佐「俺も悲しい経験なんかいくつもある。だが、それが戦争なんだ。戦場に赴くからには、こういうことも考えなければならないんだ」
勝山上等兵「・・・ボルナソス大佐・・・」
それが戦争だ、と割り切ってしまえる。ボルナソス大佐は語った
確かに、戦争では何度かそういうことがあるらしい
京城大佐の話では、名前も知らない機銃兵が、眼下で戦友の遺骸を抱え、何かを叫んでいるのを、ライトウォーター上空で見たそうだ
その機銃兵は、プロトン軍の爆撃機の、次の爆弾投下で見えなくなったらしい
敵味方で、こんなことが何度もある、それが戦争らしい
ボルナソス大佐「それに、あいつらも、自分達の思うように戦ってきた。あいつらの思う、未来のために。あいつらが、かなえられなかったことを、貴様らがかなえるんだ。あいつらの分まで、生き延びろ」
ボルナソス大佐は、何度も、いくつかの司令部で語った、この発言で、会話を締めた
その場の沈黙を打ち破ったのは、沈黙を作り上げた松井自身であった
松井元帥「・・・大西!」
直立を保ったまま、松井元帥は部下の名前を呼んだ
現在、ライトウォーター第一滑走路に着陸している、輸送機に乗り込んだ士官の名だ
大西准将(第319中隊司令。車種:五式中戦車)(通信)「はっ!」
松井元帥「・・・・搭載状況は?」
大西准将(通信)「全員、搭乗完了です!いつでもどうぞ!」
松井元帥「・・・平岡、いや、ベータで死んだ兵士の弔い合戦だ。ベータ基地は健在、これより救援に向かえ」
航空隊の司令、川井少佐が返答をする
川井少佐(第八一航空隊司令。車種:特四式内火艇)(通信)「了解!各機出撃!」
大西准将(通信)「・・・生きて帰ってきます!」
松井元帥「・・・健闘を祈る!」
川井少佐(通信)「発動機回せ!」
レシプロエンジン独特の轟音が響く
別の飛行場から、プロトン合衆国の輸送機が次々と発進していく
護衛は、第一独立艦隊の艦載機だ
Qシュタイン連邦、第345大隊の中で、航空機の操縦ができるノイン以下数名が、航空機を操縦し、離陸していく
あの時の、Bv283Cも、姿を見せている
そして第八一航空隊の、零式輸送機がゆっくりと発進していく
後を追い、指揮機を含め、一式輸送機が動き出す
そして、離陸。彼らの向かう先は、ベータ基地である
これまでの、犠牲車を、弔うために。そして、自分達が必死で奪還した、あの基地を、守るために・・・
第五十九話 終わり