第六十一話 隠されし兵装
パレンバンに集結していた艦艇は、直ちにライトウォーターへと向かった
そして、ライトウォーターに集結した輸送船団。それらを見て、松井元帥は愕然とした
護衛の艦艇が少ないのだ
まだ第一特務艦隊などの整備が完了していないため仕方が無いが、Qシュタイン連邦の駆逐艦隊が2つと、ようやく配備されたリゾニアの駆逐艦隊だけではないか
他の艦隊ももう少し引っ張り出せたであろうに
松井元帥「・・・何個もの艦隊が取り巻いているというのに、これだけで戦えるのかね?」
作戦の指揮を取るのは、独立艦隊のクラシス・コスナー大佐であった
クラシス「大丈夫です。我々の特殊艦艇を、あの船団に紛れ込ませておきましたので」
特殊艦艇、そういえば輸送船に偽装した大型巡洋艦が、プロトン合衆国に大量に配備されているという話を聞いた
港に停泊するタンカーと思しき大型艦を見て、おそらくあれだろう、と思った
その船は、あの日、空襲を防げず、一度も実戦に参加することなく姿を消した、あの戦艦であった・・・
松井元帥「・・・米沢」
米沢大将(第443連隊司令。車種:74式戦車)「はっ!」
松井元帥「今回の作戦は、大西に続いての強行突入だ。諸君の力で、ベータを救い出すのだ」
米沢大将「はっ、心して任務にあたります!」
松井元帥「うむ。それで、物資の搭載に関してはどうなっている?」
米沢大将「全て予定より早く進んでおります。若干、作戦開始時刻を早めても、充分いけますね」
松井元帥「山岡の奴が搭載任務に参加してくれたって話だからな。まあ、彼がいれば上手くいくだろうと思ったが」
小沢中将(第245連隊指令。車種:61式戦車)「司令、先ほど、妙な奴を基地で見かけましたが」
松井元帥「茅野二曹だな。怪しいので見張りをつけていたが、まだ情報をつかめずにいる」
米沢大将「敵のスパイとかじゃないんですかね?」
松井元帥「だろうな。早めに処理しておくべきだな。そちらに関しては、我々が片付ける。諸君の任務はベータ基地救援だ。以上、健闘を祈る!」
小沢中将「はっ!」
二両が去った後、松井元帥は、基地作業兵の茅野を探した
コピック中佐「司令、茅野二曹ですが、笠井兵長の話では、観測機で偵察に行って以来行方不明とのことで・・・」
松井元帥「観測機!?機種は!?」
コピック中佐「カ号観測機ですが・・・」
松井元帥「すぐに探せ!発見したら即座に降伏勧告を送るんだ!」
既に、船団は出航していた
眼下では大勢の兵士が見送っている
ヴァイゲル中将(第224連隊司令。車種:ティーガーU)「我が第224連隊および、第221連隊はこれより、ベータ基地の救援に向かう!」
アイスナー少将(第221連隊司令。車種:ティーガーU)「ベータ基地を奪回し、反攻作戦の橋頭堡とする!」
Qシュタイン連邦の士官たちが、堂々と演説をしている
松井元帥「えらいことになったな・・・」
マグス中佐「・・・それで、笠井兵長からの連絡は?」
笠井兵長(車種:短十二糎自走砲)(通信)「笠井より本部!笠井より本部!茅野二曹は大日本帝国のスパイです!」
松井元帥「なんだって!?」
笠井兵長(通信)「現在自分は、三式連絡機で追撃に出ておりますが、降伏勧告には応じません!」
松井元帥「やむを得ん、威嚇射撃を開始しろ!」
笠井兵長(通信)「了解!」
射撃が開始された。直後、観測機から脱出する一両の二式軽戦車の姿が見えた。茅野二曹だ
笠井兵長(通信)「脱出!?」
松井元帥「ちっ、脱出しやがったか・・・」
笠井兵長(通信)「燃料が少ないのでこれで撤退します!」
ゆっくりと降下していく一機のカ号観測機。直後、機は爆発した
その後、茅野は大日本帝国軍の潜宙艦に搭乗、そのまま通信を敢行することにした
大日本帝国軍 潜宙艦「伊−365」
茅野二等兵曹(車種:二式軽戦車)「戦艦『ニマスト』へ。敵増援部隊出航。駆逐艦四十、輸送船六十九!」
艦長「しかし、あの脱出は派手過ぎないか?」
茅野二等兵曹「敵機に追われていたので。それに、この艦に格納庫が無いので・・・」
艦長「まあいい、君が生き残っていたところでよい」
カルオス帝国軍 戦艦「ニマスト」
カルオス通信兵「潜宙艦『伊−365』より入電、『敵増援部隊出航。駆逐艦四十、輸送船六十九』以上です」
熱田中将「了解。ウルタンク帝国の第2、第3巡洋艦隊を、敵船団に向ける」
カルオス通信兵「しかし、潜入部隊の茅野二曹は気づかれたため基地を脱出したとのことです」
熱田中将「だろうな。この状況では・・・・あの男も黙ってはおるまい」
カルオス通信兵「・・・あの男?」
熱田中将「・・・・特に、意味は無い」
いずれにせよ、二個艦隊が本隊を離れ、船団に向かうのである
これは脅威であろう
一方、トノス基地において、大量の巡航ミサイル発射機の姿が見えた
先ほどのマーヴェリック弾などによるベータ司令部強襲に続いて、巡航ミサイル「ストーム」を用いたライトウォーター強襲作戦を敢行することが決定されたのだ
弾頭の炸薬はなんと1000kg。ハープーンの227kg、トマホークの450kgを大幅に上回る規模である
また、クラスター弾頭型も使用されることが決定されている。これで司令部を殲滅するようだ
ラファリエスおよびデトロワにより発案されたこの作戦はGKU連合作戦総本部の同意により(グンナ帝国軍総司令部は難色を示した)、通常弾頭弾5発、クラスター弾頭弾5発、計10発を、トノス基地より発射、ライトウォーターを全壊させるという作戦が発令されたのだ
約1時間をかけて、十発の巡航ミサイルが発射された
向かう先は、ライトウォーター司令部・・・

一方、ベータ近郊において、連合軍大型輸送船「マッコーレ」は、敵の戦艦四、重巡三十二、駆逐艦四十四の大艦隊を捉えた
キュワール連合軍輸送船団 大型輸送船「マッコーレ」
通信兵「艦長!敵二個艦隊接近!戦艦二、重巡十六、駆逐艦二十二が2つです!」
サリス中佐(マッコーレ艦長。車種:M26パーシング)「・・・こちら側の戦闘艦艇は約半数・・・」
直後、砲撃戦が始まった
リゾニア合衆国第五駆逐艦隊 軽巡「トルスク」
リゾニア兵士A「敵駆逐艦撃沈!」
エンフェト大佐(第五駆逐艦隊司令。車種:M4A3シャーマン)「一応、これほどの戦闘は可能だが・・・」
リゾニア兵士B「苦戦していますね・・・」
エンフェト大佐「既に護衛駆逐艦二を失っている。友軍艦隊と合同で何隻かは沈めているが・・・」
ユリス大佐(第七駆逐艦隊司令。車種:W号戦車G型)(通信)「こちら第七駆逐艦隊、敵重巡一を撃沈せるも、駆逐艦三が沈没」
エンフェト大佐「・・・了解。これでは全滅は必至だな・・・」
Qシュタイン連邦第四駆逐艦隊 軽巡「ベーヨン」
ナカト大佐(第四駆逐艦隊司令。車種:パンターA型)「状況は劣勢だな・・・」
Qシュタイン兵士A「各艦共に損害が出ております。無傷の船はほとんどいません」
ナカト大佐「くっ・・・一体、どうやってこれを切り抜けばいいんだ・・・」
直後、電波探信儀にさらに恐ろしいものが浮かび上がった
Qシュタイン兵士B「敵増援部隊出現!」
ナカト大佐「何っ!?」
ユリス大佐(通信)「重巡、駆逐艦それぞれ十二隻。まずいな・・・」
重巡十二、駆逐艦十二の別働隊が、輸送船団側面の方向に出現したのだ
しかも、既に砲撃体勢に入っていたのだ
直後、爆発音が響いた
ナカト大佐「どうした?!」
Qシュタイン兵士A「プロトン合衆国軍タンカー『エンパウロ』が爆発!所属船団の他の船舶も爆発しました!」
キュワール連合軍輸送船団 大型輸送船「マッコーレ」
サリス中佐「何っ!?『エンパウロ』が爆発した!?」
通信兵「はっ、『エンパウロ』以下、タンカー十四隻が突如爆発しました!」
一方で、敵増援艦隊も、攻撃準備を中止させたようだ
直後、煙の中から、十四隻の「軍艦」が出現した
サリス中佐「あ、あれは・・・」
先頭を進む戦艦は、プロトン合衆国で極秘裏に建造されていたプロトン級。残りは、仮装巡洋艦ダルース級が十三隻であった
25cm連装レーザー砲をはじめ、さまざまな武装を装備したれっきとした重巡洋艦である
旧式化し、輸送船団の護衛任務に使用されているキラム級の代替として建造されたもの、と聞いた
そして先頭を進むプロトン級戦艦は、60.8cm三連装レーザー砲を初め、50.8cm連装レーザー砲など、さまざまな新兵器が搭載されていた
プロトン空襲を防ぐことが出来ず、しばらくザンブニールのドックに「放棄」されていた巨大艦である
リゾニア合衆国第五駆逐艦隊 軽巡「トルスク」
エンフェト大佐「・・・プロトン級じゃないか・・・」
リゾニア兵士A「総本部のルノー少佐より通信です」
ルノー少佐(リゾニア陸軍総司令部所属。車種:シャールB1bis)(通信)「こちら陸軍総司令部。先ほどプロトン合衆国から連絡が入った。戦艦一、重巡十三の艦隊を、タンカー十四の船団に偽装して配備した、とのことだ」
カイオグル元帥(リゾニア軍総司令官。車種:90式戦車)(通信)「わざわざ、友邦プロトンに頼んでおいたんだ。クラシス・コスナーという空軍出の若造がうまくやってくれたらしくてな」
エンフェト大佐「カイオグル司令の要請によるものなんですか!?」
カイオグル元帥(通信)「ああ、もっとも、向こうもそれを模索していたらしいがな」
ルノー少佐(通信)「プロトン級戦艦は恐るべき火力を誇る。これで敵艦隊の殲滅が可能であろう」
カイオグル元帥(通信)「わざわざ隠しておいたのは、スパイを考慮しておいてのことらしい」
カイオグル元帥、元カルオス帝国陸軍元帥であり、カルオス帝国先代皇帝である
CQ暦245年初頭、レイオガル・カルオス国境間(現:レイオガル平野)においての戦闘で、ルノー少佐の指揮下の一個小隊が、オンドゥ大佐指揮下のレイオガル軍一個小隊を撃破したという快挙に出たが、既に戦闘能力を失っていたルノー少佐と、複数の部下の提案により、両国は講和、リゾニア合衆国という連合国に統一されたのだ
その後帰還した両国国家元首だが、レイオガル国王はそのままリゾニア合衆国大統領に、カイオグル元帥はリゾニア合衆国総司令官に就任。現在に至るという
しかし、残存する帝国一派がグンナ星に移住、建国したのが現在のカルオス帝国だ
ルノー少佐(通信)「今日はいないようだが、この基地には反乱軍、いや帝国軍がいる。彼らを撃破し、再び平和をもたらしていただきたい」
実は、講和を実施したルノー少佐は、あの戦闘で、最愛の恩師、ドドルハ軍曹を失ったのだ
ドドルハは正面から接近してきたレイオガルのエリート兵、ジェイ一等兵を撃破するが、後続していたエリート兵、ナック上級伍長に捕捉され、戦闘の末に戦死したのだ
その一方で、自分もあの戦闘で、レイオガル軍のエリート士官、オンドゥ大佐との戦闘において重傷を負いながらも生還したのだ。あの時ほんの数秒、ガトリング斉射が遅れていたら、ルノー少佐は死亡していたであろう
カイオグル元帥(通信)「あの時、悲惨な経験をしたというのに、まだ戦いを続けようとする馬鹿な幹部。奴らを倒さねば、平和は訪れない。諸君の腕に、我が国の将来がかかっているのだ!総本部からの連絡は以上、健闘を祈る!」
そして、通信が終わった
エンフェト大佐「総本部の激励は以上のようだな」
リゾニア兵士A「総本部が激励に参加するとは思いませんでしたね」
エンフェト大佐「カイオグル元帥はかつてから部下を大事にすると聞いているが?」
CQ暦230年代末期、カルオス軍エリート兵、ジオン大尉が、レイオガル近辺の地域に秘匿されていた新型光学兵器「K−9999(カルオス超兵器番号9999。通称「K−nineteen」)」を始動させるべく、レイオガル・カルオス国境間に差し掛かった際、QQQQ軍の攻撃を受けた
日本戦車軍団の士官の制止も受けず、QQQQ軍は攻撃を行おうとした
そんな中、突如現れたのは、カイオグル元帥であった
部下を救うべくやってきたのだ
そして、連続攻撃でQQQQ軍を撃破し、日戦軍団の士官と、少々の会話を終えて、去っていったという
その後、ジオン大尉は降伏し、日戦軍団総司令部で航空機の操縦訓練を行った
そして、鹵獲したカルオス軍爆撃機に搭乗し、任務に従事、終戦後帰国するが、帰国のために鹵獲爆撃機で移動中、橋本派のものと思しきQQQQ戦闘機の攻撃を受けたのだ
エンフェト大佐「・・・その際も、自らが率先して、QQQQへの物資輸出を中止させたのだというのだから、部下を思う気持ちは凄まじいものなのだろう」
一方で、戦艦「プロトン」を初めとする艦隊は、敵艦船を次々と撃沈していった
プロトン合衆国第一特務艦隊 戦艦「プロトン」
アジート元帥(第一特務艦隊司令。車種:M60スーパーパットン)「よし、また一隻撃沈したぞ!」
プロトン兵士A「敵重巡を撃沈!」
直後、60.8cm主砲が放たれた
主砲弾は敵グリーン級戦艦に直撃。敵戦艦は爆発を起こした
プロトン兵士B「敵戦艦を撃沈!」
アジート元帥「よくやった、砲術員諸君!」
プロトン兵士C(通信)「ありがとうございます!」
次々と、敵艦艇を撃沈していく
そして、戦果は戦艦一、重巡十四、軽巡九、駆逐艦十一撃沈、軽巡一大破、戦艦二、重巡十一、軽巡七、駆逐艦七中破、重巡四、軽巡三、駆逐艦六小破となった
その後、大破した軽巡が、爆発を起こして沈んだ
プロトン兵士B「敵艦隊、撤退していきます!」
アジート元帥「・・・任務は完了したようだな」
そして、五十五隻の輸送船は、全て無事に、ベータ基地の軍港に寄港した
損害は、三隻が流れ弾で軽損傷、それだけであった
駆逐艦十七が沈没したが、これはプロトン艦隊参戦前だったので仕方ない話であろう

カルオス帝国軍 戦艦「ニマスト」
熱田中将「・・・プロトン級?」
カルオス通信兵「はっ、報告によりますと、突如敵タンカーが爆発、戦艦へと変貌し、砲撃を仕掛けてきたとのことです」
熱田中将「そんな馬鹿な話が・・・いや、待てよ・・・」
通商破壊艦。いつぞやかにQトルック帝国が行っていた、輸送船に偽装した戦闘艦・・・
熱田中将「・・・プロトン級戦艦と、謎の高性能重巡。仕方あるまい。それで、デトロワ軍の作戦に関しては?」
カルオス通信兵「現在、ミサイルはベータ近辺を通過したとのことです」
無論、連合軍艦隊は、それに気づいていない
カルオス通信兵「ライトウォーター司令部破壊は、時間の問題です」
熱田中将「だろうな。茅野を脱出に追い込んだ奴らも、これで終わりか・・・」
カルオス通信兵「・・・我々の逆転も、可能ということですね」
熱田中将「参謀長、一旦、指揮を預ける」
参謀長「はっ!」
そう言うと、熱田中将は、艦橋を後にした

総司令部に報告が入った際、皆が歓喜した
友軍輸送船団が、沈没艦も無く、ベータに寄港したのだ
司令部のルノー少佐は、すぐに「トルスク」に連絡を出した
ルノー少佐「作戦は成功したようだな。ご苦労だった」
エンフェト大佐(通信)「いえ、自分のおかげではありません。特務艦隊派遣を要請してくださった、カイオグル元帥のおかげです」
カイオグル元帥「そういうな、照れるじゃないか」
ルノー少佐「・・・元帥?」
カイオグル元帥「まあいい、それで、何か新しい情報は?」
カゾフ兵長(総司令部通信科長。車種:AMX−13戦車)「はっ、特にありませんが・・・」
カイオグル元帥「了解」
タチフブ元上等兵(陸軍特務士官。車種:Mle.61自走榴弾砲)「元帥閣下!哨戒任務中の日戦軍団高速飛行船より入電!『敵軍の高速飛行物体、計十がライトウォーターに接近!」
カイオグル元帥「高速飛行物体!?」
トゥーエバー曹長(陸軍所属。車種:TH301)「おそらく巡航ミサイルでしょう。そうでなければ航空隊が探知しています」
カイオグル元帥「それで、目標はライトウォーターか」
タチフブ元上等兵「ベータに続いて、司令部を破壊するつもりでしょうな」
よりによって、今度はライトウォーターだ
諜報部の報告によれば、通常弾頭五発、クラスター弾頭五発の巡航ミサイルが発射されたらしい

日戦軍団所属の高速飛行船の搭乗員は、すぐ横を飛んでいった巡航ミサイルを見て愕然とした
何しろ、見た目にも分かるほど、巨大なミサイルだったのだ
機長の河野大尉が叫ぶ
河野大尉(車種:九八式中戦車)「敵高速飛行物体十発がライトウォーターに接近!」
日戦軍団兵士A「機長、一体何故あんなものが・・・」
河野大尉「外惑星連合の新型AD兵器だろう。あんなものが全部ライトウォーターに命中したら、えらいことになるぞ!」
日戦軍団兵士B「先ほどの通信、全司令部が傍受してくれればいいんですが・・・」
河野大尉「あとはライトウォーター基地の対空兵装に期待するしかないな・・・」
そう言うと、操縦士に反転を命じた
そろそろ、哨戒の交代時刻だ
もっとも、しっかり、後続の機体が残っているかが、疑問なのだが

一方で、電探を監視していた川島兵長は、複数の飛行物体を確認した
表示は「SLCM」となっている。巡航ミサイルだ
川島兵長「敵巡航ミサイル、数十発!まっすぐ司令部に接近中!」
コピック中佐「全対空兵装、撃ち方始め!」
次々と上がっていく弾幕。最近の輸送でようやく配備されたものだ
しかし相手は巡航ミサイル、ほとんどは当たらない。命中弾があっても、効果は薄い
直後、一発の巡航ミサイルが、空中で爆発した
Qシュタイン兵士D「一発を撃墜!」
傍らのレーダー員が叫ぶ
続いて、もう一発の反応が消える
川島兵長「一発、更に撃墜!残り八発が向かってきます!」
マグス中佐「SAM、撃ち方初め!」
続いてはSAMだ。こちらは誘導性が高いため、巡航ミサイルには良く当たる。それでも、相手は巡航ミサイルである。大きいため、撃墜が困難なのだ
Qシュタイン兵士D「二発撃墜!」
川島兵長「更に二発撃墜!残り二発が向かってきます!」
撃墜数は八発。残る二発は通常弾頭。損害は最小限に抑えられるが・・・
ティーガー元帥「第二射初め!」
Qシュタイン兵士D「間に合いません!」
もう、迎撃の術は無い。コピック中佐は叫んだ
コピック中佐「総員退避!」
しかし、その声を聞いても、ティーガー元帥は直立不動だ
マグス中佐「ティーガー元帥!」
コピック中佐「・・・総員退避!」
その時、司令室のドアから、川島達数両ほどの通信兵が出て行った

書斎にいた松井元帥は、ミサイル接近の情報を聞きつけた
松井元帥「巡航ミサイルだと!?」
巡航ミサイルとなれば、司令部は持たないだろう
松井元帥「全員を安全に退避させなければ・・・」
読みかけの小説を机に置き、松井元帥は書斎を出た
途中、川島兵長とすれ違った
川島兵長「司令!」
松井元帥「川島!先に避難しろ!」
川島兵長「司令は、どうするんですか!?」
松井元帥「司令部の状況を確認する!」
川島兵長「そんな無茶な!」
松井元帥「無茶は承知の上。俺は既に覚悟はある!」
川島兵長「司令!」
松井元帥「必ず戻ってくる!諸君はなんとしてでも生き延びろ!」
松井元帥は、司令室へと駆け出した

コピック中佐たち二両は、大型通信機の陰に伏せた
まだ、ティーガー元帥は動かなかった
コピック中佐「ティーガー元帥!退避だ!」
まだ、彼は動かなかった

司令室への通路を進む松井元帥
もうすぐ、司令室だ
警報音が鳴り響いている
松井元帥「迎撃しそこなったか!?」
ようやく、司令室のドアへたどり着く
しかし、物凄い爆音が、内部で響いた
かと思えば、物凄い爆風が、松井元帥を襲った
司令室の窓硝子を突き破り、二発の巡航ミサイルが、爆発したのであった

気がつけば、そこは廊下だった
松井元帥「畜生・・・」
司令室のドアは無くなっていた
司令室は、煙が立ち込めていた
松井元帥「・・・本部、応答せよ!」
応答は、無い
入ってみれば、瓦礫の山であった
ベータも、このような状況だったのだろうか
コピック中佐たちを探していると、何かにぶつかった
通信兵の、遺体であった
松井元帥「・・・・くそっ、またやられてしまったか・・・」
周りを見れば、兵士の遺体まみれであった
松井元帥「・・・おそらく、ベータもこのような状況だったのだろう・・・」
すると、大型通信機の影から二両の戦車が姿を見せた
コピック中佐と、マグス中佐であった
松井元帥「コピック中佐!」
コピック中佐「間一髪、大型通信機に隠れて助かりましたよ」
マグス中佐は、ほとんど動かない
やはり重傷を負ったようだ
コピック中佐も傷を負っているが、無事なようだ
コピック中佐「まだ生きています。こいつを連れて、通信機に隠れてよかったもので」
ふと、後ろから声が聞こえた
ティーガー元帥であった
ティーガー元帥「・・・司令・・・」
松井元帥「おい、大丈夫か!」
ティーガー元帥「はい・・・一応・・・大丈夫ですが・・・」
砲身は折れ、車体の損傷も尋常ではない
重傷である
すると、司令室に複数のタンクがやってきた
川島兵長「司令!」
川島兵長が、救護班を連れてきたのだ
成田衛生兵「・・・重傷車が多いようですな。すぐ搬送しましょう」
そして、負傷車は軍事病院へと搬送された
松井元帥は、「ご苦労だった」と言おうとしたが、全身に激痛が走った
側面装甲にドアの破片が刺さっていたのだ
右側面装甲には亀裂も入っている
成田衛生兵「司令も、怪我をしたようですな。いっしょに行きましょう」
成田と川島に連れられ、軍事病院の一室にやってきた
先の船団でベータへ行った、ここの軍医の代わりに、富岡軍医大尉が手術を行った
富岡軍医大尉「しかし、わざわざ危険が迫っている司令室へ向かうとは、さすがですな」
松井元帥「今日は、ちょっと無茶をしたな」
近くにある滑走路に、一機の高速飛行船が着陸した
河野の機体だ
富岡軍医大尉「まあ、あとは安静にしてください。ベータの状況に関しては、通信機を持ち込んでおきましたので」
そういえば、通信機用のスペースが残されていたのであった
松井元帥の車体には、包帯が巻かれていた
司令部の修復まで、書斎で待機することにした
再び、机に置いた小説を読み始めた
松井元帥「・・・状況は、刻一刻と変化している・・・」
ふと、書斎のドアを叩く音が聞こえた
松井元帥「入れ」
入ってきたのは、高速飛行船の河野大尉であった
河野大尉「河野以下八名、無事帰還しました!」
松井元帥「うむ、ご苦労」
河野大尉「司令、先の攻撃で負傷したとのことですが」
松井元帥「ああ、たいした事はない。悪いが、君も次の哨戒まで基地修復に協力してくれ」
河野大尉「はっ、了解しました!」
河野は報告を終えて、書斎を出て行った
松井元帥「・・・これで、状況がすぐに優勢になるとは、思えないな・・・」
松井元帥は、通信機と電探で状況を確認しつつ、戦略を練ることにしたのであった
ベータでの戦闘は、更に過激化するようであった
第六十一話 終わり

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