第四十四話 空駆ける要塞への翼
ルナツー司令部
松井元帥「損害は甚大だ。4180両中3147両が生還、損害1033両。かなりのものだ・・・」
ドニゲッテル少将「突入作戦は何とか成功しましたがね。やはり敵の数が問題でした」
松井元帥「ああ、ここは、一つ部隊を撤退させるしかないな・・・」
本部でも正式に撤退が決定された
ユゴス少佐「既に設営隊が上陸本部に到着しているはずです」
松井元帥「しばらく、設営隊だけがライトウォーターに入るわけだな・・・」
ティーガー元帥「陸軍機動艦隊が入港したそうですね」
松井元帥「ああ、補充がまだだが、今度送る予定だ」
松井元帥は陸海空軍を治める日戦軍団の総帥である。そのため陸海軍両艦隊の指揮を行うのだ
本来は総司令部で総指揮を取る役職だが、第一特務艦隊司令兼任のため最前線で指揮を執るのだ
ドニゲッテル少将「とりあえず陸軍の艦隊だけで当分防備につかせるわけですか?」
松井元帥「主力艦隊をパレンバンからまずこっちに持ってこないといかんな・・・」
現在、パレンバンに停泊している艦隊は以下のとおりである

日本戦車軍団第三艦隊 司令:天城少将
旗艦 戦艦「筑紫」(長門型)
長門型戦艦一隻
龍驤型空母二隻
隼鷹型空母二隻
赤城型空母二隻
高雄型重巡四隻
川内型軽巡四隻
陽炎型駆逐艦十隻
秋月型駆逐艦十隻

日本戦車軍団第四艦隊 司令:鳴神中将
旗艦 戦艦「常陸」(長門型)
長門型戦艦一隻
妙高型重巡二隻
川内型軽巡二隻
吹雪型駆逐艦八隻
初春型駆逐艦四隻
神風型駆逐艦八隻
秋月型駆逐艦四隻

日本戦車軍団第七艦隊 司令:彩帆中将
旗艦 戦艦「摂津」(摂津型)
摂津型戦艦一隻
翔鶴型空母四隻
紅鶴型空母二隻
薩摩型航空戦艦二隻
妙高型重巡二隻
新高型重巡二隻
早池峰型重巡二隻
阿賀野型軽巡二隻
九頭龍型軽巡二隻
吹雪型駆逐艦十二隻
改神風型駆逐艦十二隻
改秋月型駆逐艦十二隻

日本戦車軍団第八艦隊 司令:レンネル中将
旗艦 戦艦「美濃」(摂津型)
摂津型戦艦一隻
白根型航空戦艦二隻
改信濃型空母一隻
白崎型空母一隻
虎狼型航空巡洋艦三隻
改利根型重巡六隻
改神風型駆逐艦十隻
改秋月型駆逐艦十一隻
潜高二型潜宙艦五隻

日本戦車軍団第九艦隊 司令:大垣中将
旗艦 戦艦「筑波」(筑波型)
筑波型戦艦五隻
紅鶴型空母二隻
改利根型重巡四隻
秋月型駆逐艦四隻
陽炎型駆逐艦六隻
吹雪型駆逐艦六隻
白露型駆逐艦六隻

松井元帥「これほどの大艦隊をこちらに持って来れば、ルナツーは大変なことになるだろうな。従って、ルナツーへ派遣するのは、我が艦隊、もしくは友軍艦隊が出航してからにする」
ふと、名簿にあるレンネルの名を見る あの時指揮を任せた第八艦隊の指揮官として、彼の名は健在であった
彼の仇敵は、熱田だった・・・ 松井元帥「熱田・・・」
通信室に大鳳中将が入ってきた 大鳳中将「司令、ライトウォーター占領作戦、成功したそうですね」
松井元帥「ああ、ただ、損害が凄まじいので退却し、こっちに輸送艦ごと戻ってくることになったぞ」
大鳳中将「九龍少佐が負傷されたそうですが」
松井元帥「損傷率八割五分。かなりのものだ。何でも、新型機の機銃掃射を喰らったんだそうな」
大鳳中将「新型機ですか」
松井元帥「ああ、新手だよ。だが、うちにも、新型機が配備されたのだよ。中将、格納庫まで来てくれ」
2両は、飛行場の格納庫へと向かった
普段、ハンガーの電灯は点けないので、真っ暗である
電灯の電源を入れると、そこには新型機の姿があった
その形状はどことなく陣風に似ていた
だが、機首には真空を思わせる二重反転プロペラがあり、翼部には機銃が無い
操縦席の回りも防備されている
大鳳中将「これは・・・・」
松井元帥「・・・電征だ。今日、届いたのでね。君の艦隊に配属されることになった。第117航空隊にも、配備される予定だ」
そう、この機体こそが、日本戦車軍団の新型主力戦闘機、電征であった
30mm機関砲二丁を有し、その火力を用いて敵機を粉砕する。威力は高く、また機動性に関しても零戦に勝る。パレンバンでの模擬空戦ではキュワール各国の戦闘機に見事勝利している
さすがに空対空誘導弾は搭載していないが、これで充分、真空以外の大日本帝国機とまともに戦える
松井元帥「・・・搭乗員の錬度がよければ、真空だって落とせるぞ」
だが、その最高速度は真空に劣る
あくまで、錬度によればである
しかしようやく到着した新兵器だ。早急に主力艦隊に配属しなければならない
余剰機もここの基地航空隊として配備させる予定である
松井元帥「・・・これから、忙しくなりそうだな」
大鳳中将「これまでも忙しかったのに、また忙しくなるんですね」
一方、ライトウォーター基地。設営隊が到着し、運んできた物資類を次々と降ろしていた
山岡大佐(設営隊司令。車種:力作戦車セリ)「滑走路の修復急げ!負傷車の輸送機が到着するまでに完成させろ!」
山岡大佐の指揮のもと、滑走路の修復、基地施設等の復旧、そして兵装の交換は着々と進んでいた
一方、医務室では、富岡軍医大尉と成田衛生兵が九龍少佐ら負傷車を看病していた
そして九龍少佐の病室に矢矧少佐がやってきた
矢矧少佐「富岡大尉、九龍少佐の状況は?」
富岡軍医大尉「ああ、だいぶよくなってきたところだ。話せるようになったから、面会してよいぞ」
矢矧少佐「ありがとうございます」
富岡軍医大尉「矢矧さん、なにやら、いい知らせが届いたようだな」
矢矧少佐「富岡大尉、知ってたんですか?」
富岡軍医大尉「ああ、さっき山岡大佐から聞いたところだよ」
矢矧少佐「そうだったんですか。では」
そういうと矢矧少佐は病室へと入っていった 九龍少佐は手当てが終わったばかりである。未だ痛々しい部分がある
九龍少佐「・・・矢矧少佐・・・」
矢矧少佐「九龍少佐、久しぶり!」
彼らは日戦軍団設立時からの戦友である もともと松井元帥の部下であり、モントレー元帥とも対立していたため、日戦軍団に出し抜かれたのだ
九龍少佐「・・・ところで、戦況は?」
矢矧少佐「成功だ、見事ライトウォーターを占領した!君の部下の溝口君のお陰だよ」
九龍少佐「・・・溝口か。あいつはどうなった?」
矢矧少佐「今、船に物資の積み出しを行っているところだ。すごい奴だな。ほとんどの分隊で損害が出ていたと言うのに、溝口君の分隊だけ損害が無かったそうじゃないか」
九龍少佐「ああ、あいつはそういう奴だ。何かと優秀だからな」
彼らは作戦報告の後、昔の話をした
日本戦車軍団として正規設立されてから、グリシネ本国軍部との対立、第五次キュワール大戦の参戦、QQQQの叛乱、そして第六次キュワール大戦・・・
宇宙大戦の開戦、要塞の陥落、熱田の戦死(名目上)、紀伊の竣工、プロトン空襲、奪回作戦の成功・・・
そして、矢矧少佐は
矢矧少佐「そろそろ、揚陸艦隊が出航する頃だな。俺も『国東』でルナツーに戻らんといかん。明日、C−46コマンドー輸送機が二機、C−133カーゴマスター輸送機が一機、補給物資の輸送で到着する。帰りは負傷車の輸送の任務でパレンバンに戻るらしい。九龍は、C−133でパレンバンに直行することになっている。パレンバンの病院でゆっくり休んでくれ」
そういったが、九龍はC−133カーゴマスターという言葉に引っかかった
九龍少佐「・・・C−46は分かるが、そのC−133と言うのはどんな機体だ?」
矢矧少佐「C−133カーゴマスターってのはプロトン合衆国の新型輸送機だ。その大きさは・・・たとえるならB−17の約2倍だな。しかも大きいだけでなく、航続距離も長くて、C−46ではパレンバン〜ライトウォーター間はルナツーで補給しないといけないところをここまで直行で行くことができるんだ」
ちなみに兵装は20mm旋回機銃二丁(レーダー連動の自動砲)。兵員250両または貨物最大35t搭載可能である
九龍少佐「そんな機体があったのか・・・」
矢矧少佐「当初はC−46が二機だけだったんだが、俺が本部に頼み込んで、ようやくそのC−133を手配してもらったんだ、何せ、まだパレンバンに三機しかない機体だからな」
九龍少佐「そうだったのか、ありがとう」
矢矧少佐「じゃあ、俺はこれで。ひと段落したら見舞いにでも行くよ」
そう言うと、矢矧少佐は退室した
既に戦闘で疲れ果てていた九龍少佐は再び、寝ることにした
港には数隻の空母と護衛艦艇、そして輸送艦隊の姿があった
溝口大尉「矢矧さん!そろそろ出ますよ!」
矢矧少佐「すまん、溝口君」
宇野沢少尉「まさか中隊司令が出航ギリギリ到着だなんて・・・」
矢矧少佐「九龍と話してたら予想以上に長くなっちまってな」
杉山大尉「一体、何の話だったんですか?」
矢矧少佐「ああ、昔の話だよ」
杉山大尉「そうでしたか」
砂原大尉「さて、そろそろ出航だ。艦長、全員そろいました!」
高郷大佐(輸送艦「国東」艦長。車種:九七式指揮戦車)「分かった。機関微速、出航!」
ちなみに溝口分隊と中隊上層部は「国東」で帰還することとなった。「大隈」「下北」にも大勢の兵士が乗り込んでいる
輸送艦隊はルナツーへ向けて出航していった・・・
翌日、ルナツー飛行場には護衛のF6Fを従えて二機のC−46が到着した
山岡大佐「よし、総員、荷下ろしかかれ!」
早めに済ませなければならないために山岡以下軍団設営隊も協力することになった
物資を全て下ろすと、護衛機とC−46はエプロンへと向かった
すると、ものすごいエンジン音と共にC−133カーゴマスターが飛来した
山岡大佐「おお!あれがプロトンの最新鋭機か!」
日戦軍団兵士A「でかいですねぇ!」
ものすごい轟音の中、感想を叫びつづける兵士たちもいた
やはり皆驚いていた
そして滑走路に着陸し、止まった
山岡大佐「総員、荷下ろしかかれ!」
一斉に荷下ろしが始まった
そして全ての荷物が降ろされた後に、負傷車が機体に次々と入れられていった
これにも設営隊が協力した
担架ごと搬送され、機内で担架から降ろされた
九龍は窓際の席だった
しばらくして、全員の搭乗が確認された
山岡大佐「よし、作業終了!」
そしてものすごい轟音と共に、護衛機を従えてC−46二機、C−133一機が離陸していった
その機内で、九龍は戦況のことを考えていた
C−133機内
九龍少佐「・・・戦況は我が方に推移しつつある。だが、これからいかなる新兵器が現れるか分からないからな・・・」
負傷した兵士の一両が話し掛ける
日戦軍団兵士B「・・・司令」
九龍少佐「・・・どうした?」
日戦軍団兵士B「・・・これから、どうなるんですかね?」
九龍少佐「・・・俺には分からん、だが、多分、我々が有利だ」
日戦軍団兵士B「・・・しかし、状況と言うのは変わりやすいですからね・・・」
九龍少佐「・・・俺も、それを考えていたところだ。君、名前は?」
日戦軍団兵士B(久村准尉)「・・・久村です」
九龍少佐「そうか、久村か。君は、どこの分隊かね?」
日戦軍団兵士B「・・・天城さんの部隊です」
九龍少佐「天城分隊か。天城大尉はいい奴だからな」
日戦軍団兵士B「・・・天城隊長もこの機体に搭乗されたとのことですが」
日戦軍団兵士C(天城大尉)「・・・久村、お前もここにいたのか」
日戦軍団兵士B「隊長!」
九龍少佐「天城大尉、君もこの機体だったのかね」
日戦軍団兵士C「はっ、中隊長と同じ機体で光栄です!」
九龍少佐「ははっ、そりゃ矢矧に言って欲しいな。矢矧がこの機体を手配したんだからな」
九龍は、機内で再会した部下達との会話に花を咲かせた
日戦軍団兵士C「こりゃ、パレンバンでも会えそうですね」
九龍少佐「そうだな。さて、あまり喋っちゃまずいからな。休むか」
会話を終わらせたところで、何機もの機体が次々と離れていく。ルナツーに近づいたようだ
九龍少佐「・・・本当に、これが戦時下なのだろうか・・・」
あまりにも星が綺麗なので、九龍はふと、こう呟いた
ここから、護衛も無しに一気にパレンバンまで向かうのだ
考えてみれば無謀であるが、最大速力は720km。我が日戦軍団でも、震電を初めとする局地戦闘機でないと追いつけない速度だ、まして、ここは既に前線ではない
九龍は、この機体に乗っている重傷車の名簿を確認した
さっきの天城達だけではない。かなりの数の兵士が乗っているようだ
やはり、日戦軍団の損害はかなりのものだったようだ
それから、約5時間が経過した
C−133はゆっくりと高度を下げる
パレンバンの滑走路に、遂に脚を降ろした
ようやく、パレンバンに到着したのだ
そして彼らは、軍事病院へ搬送された
その病室で、九龍は呟いた
九龍少佐「・・・溝口達のためにも、早くこの怪我を治さなければな・・・」
彼の目線の先では、ボルナソス大佐ら、パレンバン所属陸戦部隊の演習が行われていた
第四十四話 終わり

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