第五十三話 ベータ司令部炎上す
松井元帥「・・・恐るべき事態だ。これほどの要塞を攻略せねばならんとは・・・」
2つの要塞の規模はとてつもなく大きかった
ある筋からの情報では、シルグノーム級を用いて補給を行っているとのことであった
もっとも、信憑性に欠ける情報ではあったが、有り得る話だ
藤田上等兵「司令!大変です!広域電波探信儀に敵機を捕捉!数、1000機以上!」
松井元帥「何っ!?」
ドニゲッテル少将「どうやら、先の要塞から発進してきたようだな」
松井元帥「ティーガー元帥、我々は直ちに『紀伊』に乗艦し、対空戦闘に参加する!」
ティーガー元帥「えっ!?」
松井元帥「どうやら、敵は『紀伊』を狙っているようだぞ」
確かに、何機かはわかれて、港のほうに向かっている
現在ベータに停泊しているのは日戦軍団陸軍哨戒艇部隊、輸送船団を除いては第一特務艦隊のみである
松井元帥「とにかく、急いで、艦隊に戻るぞ。被害は最小限に抑えろ!」
そう言うと、松井元帥はティーガー元帥を連れて、『紀伊』の艦橋へと向かった
ドニゲッテル少将「各機共に緊急出撃!全滑走路に緊急発進電文を送れ!」
その後ろでは、ドニゲッテル少将による全機スクランブル発進が指示されていた
日本戦車軍団第一特務艦隊 戦艦「紀伊」
松井元帥「各艦ともに対空戦闘配置だ!」
ティーガー元帥「機関微速、出航!」
対空砲兵装が次々と旋回する
狙うは敵編隊だ
微速で前進し、港外へ向かう
自ら囮となって、港と友軍船団、哨戒艇部隊を守るのだ
そのころ、古田少佐率いる日戦軍団陸軍第361航空隊が、敵編隊の迎撃へと向かっていた
ベータ上空
古田少佐(車種:四式中戦車)「・・・すごい・・・爆撃機だけでも500機はあるぞ!」
藤岡大尉(鍾馗搭乗。車種:三式中戦車)「隊長、指示願います!」
古田少佐「よし、我々は敵戦闘機を攻撃する。藤岡隊は敵爆撃機を狙え!」
藤岡大尉「了解!各機共に爆撃機を攻撃、上昇せよ!」
ベータ司令部
ユゴス少佐「司令、友軍第117航空隊司令、京城大佐が到着しました」
京城大佐「視察に来たが、いきなり航空戦かね。古田の奴、久々の実戦だからって張り切ってるな。あいつ、生き延びてくれりゃいいが・・・」
古田少佐は京城の親友であった
京城と一、二を争うエースパイロットである彼は、今までの戦闘においてもかなりの数の敵機を撃墜していたのだ
ドニゲッテル少将「君の部隊は、戦闘に参加しないのか?」
京城大佐「肝心の第四機動艦隊はまだルナツーですからな。もう少し早く、ベータに来てくれれば、戦闘に参加できたものですが。自分は二式でここまで来たので」
二式、二式大艇改のことである
大艇といっても、海の無い宇宙なので陸上機だ。従って「改」がつくのだ
ドニゲッテル少将「そうか。当の航空隊がいないから、古田達だけで何とかしろということか」
京城大佐「いや、まだ隠し玉がいるんですよ」
ドニゲッテル少将「どこにかね?」
京城大佐「『紀伊』です」
ドニゲッテル少将「・・・あ!そういえば『紀伊』は航空戦艦だったな!」
京城大佐「はい、松井元帥の指示によって、『紀伊』艦載の第112航空隊には電征が配属されております」
ドニゲッテル少将「電征というと、君の部隊にも配属が決まった新型機かね?」
京城大佐「はい、自分も、本日付けで乗機を電征に変更しました。零戦と並んで扱いやすい機体です」
ユゴス少佐「また、変わった隠し玉ですな」
ベータ上空
前方に向かってくる機体は「紫電」であった
水上戦闘機「強風」を改装した戦闘機であり、その戦闘能力はかなりのものであった
強い相手だが、技量でカバーできる範囲だ
六一式照準儀に敵機が写る
六一式照準儀は、敵機の針路、速力などから、敵機の予測位置をはじき出し、射撃の命中精度を上げることができる最新型の照準儀だ
日戦軍団の技術力により、既に開戦時からこの照準儀は完成していたのだ
速力では向こうが勝るが、機動性では上だ
密かに、零戦より旋回性能がいいとまで言われている隼である
そして、遂に敵機を捉えた
古田少佐「射撃開始!」
そして、遂に機銃が咆哮する
敵機は翼部に攻撃を受け、炎上する
古田少佐「敵機撃墜!」
そして機を旋回させ、もう一機を狙う
敵機の射撃を回避しつつ、急旋回を行う
見事背後につく
再び射撃開始。見事に命中、敵機は爆散した
互角の戦いが、続いた
だが、グンナ帝国軍航空隊が到着したため、一気に不利になった
La−3やLa−7、Mig−3で編成された、機体だけは若干旧式化気味の航空隊である
だが、数で勝るため、日戦軍団は苦戦した
一方、ニビリア第142航空隊隊長、ソルニエ少佐は、ようやくその戦域に到着した
ソルニエ少佐(車種:ルノーR40軽戦車)「隊長より各機、敵航空隊を捕捉。友軍航空隊は苦戦している模様。これより支援にかかる!」
ドボアチンD.520が敵機に向かっていく
続いて、第143航空隊が到着した
カイン少佐(車種:ソミュアS35中戦車)「隊長より各機、友軍航空隊に続いて日戦軍団航空隊支援に向かう!」
だが、ニビリア航空隊の主力戦闘機、C.714シクローヌの性能はグンナ機の性能より劣っていた
苦戦は続いた
ソルニエ少佐機は、La−7を狙い急降下した
敵機は未だ気づいてない様子だ
敵機の前方を狙い、見越し射撃
見事命中、敵機は炎上、爆散した
方や、第361航空隊の、藤岡大尉率いる鍾馗隊は、敵の新型機により苦戦していた
機体の名は「遠風」
。20mm機関砲を四丁、30mm機関砲を四丁搭載した双発機である
その防弾性は疾風並である
優秀な鍾馗といえども、わずか二十五機。新型機にはかなうはずも無かった
だが、そんな中、陸攻が炎上、墜落していく
やはり、戦果はあるようだ
一方、Qターレット軍第270航空隊が、戦闘空域に到着した
クラン大佐(第270航空隊隊長。車種:M4A3シャーマン)「第270航空隊到着、遅れてすまなかった」
P−35やP−36で編成された航空隊だが、グンナの航空隊には対抗できる部隊だ
だが、彼らの任務は藤岡隊の支援である
クラン大佐「『紀伊』に打電。『友軍航空隊の状況は劣勢、艦載航空隊発進を要請す』、以上」
「紀伊」の第112航空隊の発進要請であった
日本戦車軍団第一特務艦隊 戦艦「紀伊」
ティーガー元帥「友軍第270航空隊より入電、『友軍航空隊の状況は劣勢、艦載航空隊発進を要請す』、以上です!」
松井元帥「分かった。角田、頼むぞ!」
角田少佐(第112航空隊隊長。車種:五式中戦車)「了解!」
「紀伊」のカタパルトには多数の戦闘機が並んでいた
先頭は「電征」であった
松井元帥「発艦!」
プロペラの轟音と共に、無数の敵機が発進する
目標は、敵戦闘機部隊・・・
そして、第361航空隊の鍾馗隊は、既に5〜6機ほどに減っていた
藤岡大尉「・・・そろそろ、引くべきか・・・」
だが、直後、近くを飛んでいたDB−3が炎上した
ものすごい爆発音が響く
藤岡大尉「友軍か?!」
現れたのは、大型の双発機であった
フンケ中佐(第875航空隊司令。車種:W号戦車G型)「こちらQシュタイン連邦第875航空隊。これより貴隊を支援する。遅れてすまなかった」
双発機の機種はHe−219ウーフー、新型の夜間戦闘機であった
次々と、敵の爆撃機を撃墜していく
やはり、He−219は強い
一機、また一機と墜落していく爆撃機
だが、次の瞬間、再び敵の戦闘機が襲来した
第252航空隊の「遠風」であった
藤岡大尉「遠風だ!あんな奴らにやられたらひとたまりも無いぞ!」
フンケ中佐「厄介な相手だな・・・」
それまでの航空隊に続いて、更に遠風が到着したので苦戦は必至であった
そんななか、更にウルタンクやQグリーンの爆撃機が飛来した
フンケ中佐「・・・ここは一旦、撤退しよう」
藤岡大尉「了解しました」
戦闘機を迎撃する友軍航空隊と合流すべく、爆撃機攻撃隊残存機は撤退した
第321航空隊所属、SM79スパルビエロ機内
ウルタンク兵士A「敵機、撤退していきます」
キアス中佐(ウルタンク第321航空隊司令。車種:T−34)「そうか、おそらく、戦闘機と戦っている部隊と合流するのだろう」
サウス大佐(ウルタンク第343航空隊司令。車種:T−34)(通信)「よし、敵機を捕捉した場合、直ちに護衛機に迎撃指示を出すように」
キアス中佐「了解!」
ウルタンク兵士B「・・・しかし、今度の敵は強敵のようですね」
キアス中佐「どうやら、そのようだな」
サウス大佐(通信)「ホルス中佐からの戦闘報告に寄れば、最新型の双発機が飛来したとのことだ」
キアス中佐「・・・先の機体か・・・」
そして、戦闘機迎撃に向かった航空隊は、敵航空隊を圧倒していた
古田少佐「全軍で、敵航空隊を抑えるしかないな・・・」
角田少佐「そうなるようだ。各員、気を引き締めてかかれ!」
そんな中、上空に爆撃機が飛来する
グンナ第198航空隊所属 Il−4機内
グンナ兵士「敵機来襲!」
ホルス中佐(第198航空隊司令。車種:T−60軽戦車)「友軍戦闘機隊へ打電、迎撃体勢を取れ!」
そして、G50フレッチア、Re2001アリエーテ、MC202フォルゴーレの大編隊が、連合軍航空隊へと襲い掛かった
既に何度も戦っているG50は楽に撃墜できるが、他の新型機に関してはとてつもなく強かった
一機のP−36が、敵G50を撃墜した
搭乗するのはグリシネ系チョロQの大岡中尉。チリ元帥の親友である
大岡中尉(車種:五式中戦車)「よし、敵機撃墜!」
急旋回しつつ、続く敵機を狙う
再び、G50である
大岡中尉「射撃開始!」
そして、一機を撃墜した
だが、航空電探には、既に後方に二機の戦闘機が飛来しているのが見えたのだ
大岡中尉「何っ!?」
サッチウェーブであった
大岡中尉「くそっ、油断した!」
しかも、相手はMC202、P−36では勝ち目は無い。射線を避けるのに精一杯であった
一方、その近くを、一機の隼が飛んでいた
古田少佐の機体であった
古田少佐「ちっ、敵も次々と、新手を導入してくるな・・・ん?」
友軍P−36が、二機の敵MC202に追われていた
大岡中尉の機体であった
古田少佐「友軍機を助けなければならない。攻撃開始!」
急降下し、一機を攻撃する。若干の弾痕が見える
見事、撃墜したが、一機が反転し向かってくる
この機体にも攻撃は命中したが、防弾性の高いMC202には撃墜には至らず
反撃を受け数発を被弾した
古田少佐「・・・翼部に5〜6発被弾、戦闘に多少の支障有るも続行は可能」
だが、これは実は、致命的な損傷であった
隼の命である、機動性が著しく低下する元になっていたのだ
しかし、何とか旋回を成功させ、六一式照準儀に敵機を捉える
古田少佐「射撃開始!」
そして、煙を噴き始めたMC202にとどめを刺した
古田少佐「よし、撃墜。あのP−36、無事生還しろよ・・・」
しかし、背後からは一機の航空機が迫る
銃撃を回避する
敵機は、「遠風」であった
しかも、第252航空隊隊長、有田中佐の機体であった
有田中佐(車種:61式戦車)「敵機捕捉、右翼から煙を噴いている。今度こそ撃墜するぞ!」
照準儀に、遂に隼を捉えた
有田中佐「全門射撃開始!」
それが、とどめとなった
隼は炎上した
その機体には、隊長機を示すマーキングがかかれていた
古田機であった
古田少佐「・・・やられたか・・・やむを得ん・・・・これが、攻撃任務であれば、最後の力を振り絞り・・・敵艦に・・・突入することができたのにな・・・・」
さまざまなことを思い出す
そして、最後に思い出したのが、内地に残した家族と、最愛の戦友、京城大佐であった・・・
古田少佐「・・・京城・・・すまない・・・生きて帰る事が・・・出来なかった・・・・」
その後方から、一機の鍾馗が迫る
藤岡機だ。急降下を開始した
藤岡大尉「隊長、直ちに救援を・・・」
だが、応答は無かった
藤岡大尉「隊長!古田少佐!応答してください!隊長ーーーーーーーーーーーー!」
直後、一機の隼が、ベータの空に散った
その様子を、京城は見届けていた・・・
藤田上等兵「古田機、被弾大破!応答ありません!撃墜されました!」
京城大佐「古田ぁぁぁぁーー!」
勝山一等兵「・・・・藤岡機より入電、古田機は墜落、近辺にCPU確認できず。古田少佐、戦死せり・・・」
京城大佐「・・・・くそっ、古田の奴・・・生きて帰れたら・・・再会を祝えたのに・・・」
ドニゲッテル少将「・・・京城大佐・・・」
そして、「紀伊」
の艦橋でもそれは判明していた
松井元帥「・・・古田・・・・くそっ!」
ティーガー元帥「・・・司令・・・三度目ですね・・・」
松井元帥「惜しいパイロットを亡くしたものだ。疾風の配備がもう少し早ければ・・・」
ティーガー元帥「・・・・・・司令、やはり、遠風は恐るべき機体です」
松井元帥「・・・・・・仇は、なんとしてでも取る!残存航空機に打電、各機共に撤退しろ!なんとしてでも、生き延びろ!古田達の分まで!」
そして、微速で位置を調整し、敵機の迎撃体勢に入った。そして、機関を停止させた
もともと囮だ。沈没することは分かっている
だが、せめて多くの敵機を撃墜して沈むまでだ
「紀伊」は数日前の改装で25mm三連装機銃を増設、対空戦闘能力を追加させた
更に共に出撃した艦艇もほとんどが対空戦闘中心の船である
この無数の防空弾幕で、敵機をくいとめるのだ
最後の壁である
日戦軍団兵士「敵機、誘導噴進砲射程圏内に侵入!」
松井元帥「・・・・・・・・」
日戦軍団兵士「敵機、主砲射程圏内に侵入!」
松井元帥「・・・・もう少しだ・・・」
日戦軍団兵士「敵機、機銃射程圏内に侵入!」
松井元帥「今だ!全兵装撃ち方初め!」
25mm機銃が一斉に射撃を開始する
弾幕が次々と展開された
ミサイルが次々と発射される
ミサイルは一機の呑龍へと向かう
一発、二発、次々と命中し、遂に呑龍は爆散した
接近する遠風に対し、25mm機銃が次々と襲い掛かる
航空隊では全く撃墜できなかった機体だ
機銃掃射のため「紀伊」に接近した遠風は、射撃を開始しようとした
しかし、無数の25mm機銃弾が、次々と命中した
遂に、遠風は火を噴き、「紀伊」の上空を通り過ぎた後、爆発した
ティーガー元帥「敵機撃墜!やりました!遠風です!」
松井元帥「・・・あれは、隊長機ではない・・・古田を撃墜したのは隊長機だ。今日は、仇を取るのは無理そうだ・・・」
阿賀野型巡洋艦や秋月型駆逐艦からも対空砲火が上がり、次々と敵機を撃墜していった
日戦軍団兵士「雷装機、降下してきます!」
一式陸攻とSM79だ。いずれも、防弾性は低い
松井元帥「よし、主砲射撃用意」
敵機が接近してくる
まだ魚雷の射程圏外のようだ
日戦軍団兵士「射撃準備完了!」
松井元帥「主砲、撃ち方初め!」
一斉に主砲が発射された
敵編隊は次々と爆発する
松井元帥「よし、機銃は全て雷装機を迎撃、爆装機は高角砲に任せろ!」
だが、残る四十機ほどが、魚雷を投下した
松井元帥「魚雷迎撃、初め!」
次々と魚雷が爆発していく
だが、残る四本が一隻の駆逐艦に命中した
駆逐艦は沈没した
松井元帥「ちっ・・・一隻やられたか・・・」
ティーガー元帥「敵爆撃隊残存機は司令部へ接近しています!」
松井元帥「先の沈没艦の乗員を救助する。微速前進!」
そして、司令部近辺でも対空砲火が動き出していた
もっとも、こちらはほとんど配備されていないので、たいした戦力では無いのだが
ベータ司令部
ドニゲッテル少将「・・・やはり押されているようだな」
藤田上等兵「敵機、司令部上空へ到達!爆弾を投下!」
投下されたのは、4tの特殊爆弾であった
P108に搭載された爆弾は、司令部近辺に投下された
ドニゲッテル少将「総員退避!伏せろ!」
直後、ものすごい爆発が司令部を襲った
それは、「紀伊」の司令室からも見えた
松井元帥「司令部が・・・やられた?!」
ティーガー元帥「・・・少将達は大丈夫なんでしょうか!?」
松井元帥「・・・あの中で一番若い、勝山が心配だ・・・」
日戦軍団兵士「・・・西条中佐から被害報告が入りました。高射砲は大半がやられ、辺り一面火の海になっているようです。現在消火班の活動が行われております」
松井元帥「司令部は?」
日戦軍団兵士「まだ火が消えず、近づけないようです・・・」
そして、司令室で、一番最初に起き上がったのは、ドニゲッテル少将であった
ドニゲッテル少将「・・・みんな、大丈夫か?!藤田!勝山!平岡!」
藤田上等兵「・・・自分は大丈夫です!しかし・・・勝山が・・・」
ドニゲッテル少将「勝山がどうした!?」
平岡上等兵「重傷を負っています。まだ生きていますが・・・」
ドニゲッテル少将「すぐ医務室へ運べ!無傷な奴はいるか?!」
平岡上等兵「自分と、大島がいますが」
ドニゲッテル少将「わかった、頼んだぞ!」
京城大佐「・・・勝山一等兵、大丈夫でしょうかねぇ?」
ドニゲッテル少将「松井元帥の言うからには『司令部の通信士は何かと丈夫だから、そう簡単には死なん』らしいぞ」
京城大佐「確かに、そうですがねぇ・・・」
平岡は司令室にいた大島二等兵と共に、勝山一等兵を医務室へ運ぶことになった
医務室には設営隊といっしょにやってきた富岡軍医大尉がいるのだ
大島二等兵(車種:九五式軽戦車)「しかし平岡さん、何で敵は、修理したてのボロボロの基地にこれほどの大群を持ってきたんでしょうかね?」
平岡上等兵「分からんが、何らかの意図があってのことだろうな。あらかた、今度こそ『紀伊』を撃沈しようと、大群を持ってきたのかもしれんが・・・あいにく、『紀伊』は改装で強化されており、大型爆弾を投下できず、結局この司令部にぶち込んだ、なんて事かもしれんぞ」
大島二等兵「だとしたら勝山さん達はとばっちりでこんなことになったんですか?」
平岡上等兵「戦争ってのはそういうもんだ。仕方ない話だ。古田少佐もその犠牲車なんだから・・・」
そして、ようやく医務室へたどり着いた
富岡軍医大尉「九龍少佐程では有りませんが、酷く損傷しています。ルナツーのほうが設備が整っているはずですので、そちらに搬送したほうがいいですね」
平岡上等兵「そうでしたか。分かりました」
富岡軍医大尉「しかし、司令室で2両、亡くなられたそうですな」
平岡上等兵「はい、一両はモロに爆風を受けたようで、砲塔ごと吹き飛んでました、もう一両は勝山以上の重傷で・・・」
富岡軍医大尉「・・・・・勝山一等兵は、まだ生きていられただけマシですな・・・」
一方、第三滑走路の格納庫通路には、壁に寄りかかって直立する一両の五式中戦車がいた
大岡中尉であった
そこに、京城大佐がやってきた
京城大佐「・・・大岡じゃないか、どうした?」
大岡中尉「・・・自分が・・・ヘマをやらかしたせいで・・・古田少佐は・・・」
京城大佐「・・・そうか、君が、あのP−36のパイロットか・・・」
大岡中尉「・・・あそこで、自分が油断しなければ・・・・」
京城大佐「・・・・いや、君が悪いわけではない。相手はMC202、P−36ではどの状況であっても、戦えないはずだ。それに、どのみち遠風が相手では・・・」
藤岡大尉「大岡中尉!生きていたか!」
京城大佐「藤岡!」
藤岡大尉「良かった、お前が生きていただけでも良かった・・・」
大岡中尉「藤岡大尉・・・」
藤岡大尉「古田隊長は、MC202を撃墜した後、『無事生還しろよ』と言っていた。これで、大岡中尉が生還しなければ、彼も浮かばれなかっただろうな」
京城大佐「だな。大岡、奴のためにも、終戦まで生き延びろ」
大岡中尉「はい!」
京城大佐「君が、彼を超えるパイロットになることを、祈っている」
藤岡大尉「・・・京城大佐、帰還報告がまだなので、司令室へ行きます」
京城大佐「そうか、君が代行するのか。今、司令室は大変なことになっている。負傷車が多くてな。俺も、すぐ戻らんといかん」
すると、松井元帥がやってきた
松井元帥「京城大佐、ここにいたのか」
京城大佐「はい、大岡中尉が、自分のせいで古田少佐が戦死してしまったと言っていたので・・・」
松井元帥「そうか、大岡はQターレットにいたのか。負傷車が多くて大変らしい。急いで、司令部に戻るぞ!」
京城大佐「了解!」
ベータの司令部の修理が、再び行われることとなった
そしてその第三滑走路からは、負傷車を運ぶ輸送機が、次々と発進していった・・・
第五十三話 終わり


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