第六十五話 智将は二度沈む
二度の空襲、艦砲射撃、陸上戦闘。劣勢と優勢が入り混じるベータは、未だ戦闘終結の見込みは立っていなかった
バチェリットの連合軍本部は、第二次ベータ強襲作戦を敢行することにした
しかし、ライトウォーターに集結する艦艇は、少ない
ルナツーから出航し、無事寄港した日戦軍団第二、第三艦隊を含めても、242隻である
敵の戦力は推定で380隻弱はいるのだ
初めての宇宙艦隊戦に臨む天城少将は、不安であった
天城少将(車種:三式中戦車)「・・・大鳳中将、この戦力では・・・」
大鳳中将「・・・天城、君もそう思うか・・・」
天城少将「なんたって、あの熱田さんが相手じゃ、一方的に壊滅するのがオチではないんですか?」
大鳳中将「同期の鳴神や彩帆が挑んでも、『ニマスト』だけは沈められなかったそうだからな・・・」
天城少将「松井元帥の自慢の第一特務艦隊も、艦長のティーガー元帥がまだ入院中、臨時で先任士官の灰田大佐が担当するそうですからね」
灰田大佐、元哨戒艇「201号」艦長で、競艇出場経験を持つ。当時は「水上のマッドスペシャル」の異名さえ誇ったという。その異名どおり、かのマリノイド事件の際に拿捕したQトルック軍特殊潜航艇「マッドスペシャル(現在はプロトン合衆国にて保管中)」の、プロトンへの回航時に臨時艇長に任命されたこともある。日戦軍団海軍創設当初から関わってきた天城や大鳳ですら、それぐらいしか知らないのだ
大鳳中将「民間からの採用組みでは結構初期の奴なんだから、もう少し知っててもおかしくない奴なんだがな。哨戒艇だからなぁ・・・」
何しろ、栄えある機動艦隊の提督として長らく君臨していたので、哨戒艇部隊という裏方の名前などほとんど覚えられなかったのだ
松井元帥直轄艦隊の旗艦に所属し、しかも艦内ナンバー2(艦隊司令の松井元帥除く)である先任士官に任命されているのだから、優秀な奴であることは分かるのだが・・・
既に艦隊は出航準備に入っていた。後は艦隊司令が、艦橋の司令室に入るのみだ
そのとき、港に一両の90式戦車がやってきた。松井元帥だ
大鳳中将「松井元帥!」
松井元帥「ああ、大鳳中将か。今回は一筋縄では行かなさそうだ。そこでな、今日は驚くべき援軍を持ってきたのだよ」
天城少将「どういうことですか?」
松井元帥「今に分かる。まずは乗艦せよ」
大鳳中将・天城少将「はっ!」
2両は、それぞれ「大鳳」と「筑紫」へと登っていった
松井元帥も、「紀伊」のタラップを登る
艦橋は、普段より一両少ない
松井元帥「灰田、通信機の準備は?」
灰田大佐(車種:スカイラインGT−R R32)「はっ、完了しております!」
松井元帥「分かった。ライトウォーターに寄航中の全艦艇に繋げ」
そして、全艦艇に、「紀伊」からの通信が入った
大鳳中将は、「大鳳」の艦橋で、その通信を聞いていた
松井元帥(通信)「本日、我々と交戦するのは、敵の精鋭艦隊である。数も我々に勝る。従って、今回はデュミナス艦隊との共同作戦とする。オルテウス級戦艦『グローゼウス』以下第二艦隊、ブレナント級戦艦『ブレナント』以下第一巡洋艦隊の計二個艦隊だ」
皆が喜んだ
何しろデュミナスは戦艦大国だ
まだ日戦軍団すら保有できていない(現在三胴航空戦艦「號龍」型を建造中)三胴戦艦を保有しているのだ
無論、他の艦艇も強力である
士気が高まったのは言うまでも無い
松井元帥(通信)「そろそろ到着する予定なので、合流後出航する」
それから数十分後、沖合いに白い大艦隊が現れた
通信長「あれがデュミナス艦隊か!」
航海長「かなりの規模だな!」
大鳳中将は思った。デュミナスもなかなかやるものだ、と
同盟国に主力艦隊を支援のために渡すとは、なかなかすごい奴らだ
「紀伊」の艦橋では、皆が騒いでいる
松井元帥「・・・灰田」
灰田大佐「どうしました?」
松井元帥「・・・今日は熱田が相手だが、手加減はせんでよい。しかし・・・」
灰田大佐「・・・しかし?」
松井元帥「・・・・・・・聞いてくれんだろうな」
灰田大佐「・・・司令?」
松井元帥「・・・どうしようもないんだ。自分で言ったのに、まだ信じられないよ・・・」
パーセル少将(デュミナス第二艦隊司令。車種:クロムウェル)(通信)「こちらデュミナス第二艦隊、戦艦『グローゼウス』。遅れてすまなかった、パレンバンからここまではちと遠くてな。お詫びにルナツーからも連れてきたぞ」
松井元帥「・・・救援、感謝する。今日の相手はなかなか手ごわい。気をつけてくれ」
パーセル少将(通信)「分かっております。何せ敵は、あのソンム中将ですから」
ソンム中将、元カルオス帝国第四艦隊司令。第二艦隊での任務後、第二機動艦隊へ転属。現在に至る
松井元帥「五個艦隊と戦わなければならない。貴艦隊および第一巡洋艦隊は右翼、本艦隊および第二、第三艦隊は左翼、プロトン第一独立艦隊およびニビリア第一機動艦隊は中翼を担当することとなった。頼むぞ」
パーセル少将(通信)「無論です。激しい戦いが、予想されますな」
しばらく話した後、通信を切った
松井元帥「・・・ミサイル長」
ミサイル長「はっ!」
松井元帥「もしもの時のために『震風』の準備を頼む」
ミサイル長「了解!」
いずれにせよ、後部甲板にある大型VLSには「震風」が収まっている
いざという時には、これを艦隊めがけてぶっ放すのだ
灰田大佐「司令、参謀長抜きで、戦闘が出来ますかね?」
松井元帥「灰田、奴を過信するな。君だけでも充分、戦闘は可能だ」
ドアの前で攻撃を喰らった松井とは違い、ティーガー元帥は司令部に居たのだ。コピックやマグスのように、通信機の陰にでも隠れないと、運が悪ければ死んでいただろう
数分後、デュミナス艦隊も燃料補給を完了させた
トクエル准将(通信)「本艦隊も補給準備が完了しました!」
松井元帥「分かった。よし、全艦隊、出航せよ!」
灰田大佐「微速前進!」
出撃する艦艇は総数422隻。これは今までの艦隊戦で最大規模である
以下、出撃する艦隊を紹介する
プロトン合衆国第一独立艦隊第一戦隊(司令:クラシス大佐 車種:フェアレディZ33)
旗艦:フォーラスR級重巡洋艦「フィンバック」(艦長:カイト大尉 車種:フェアレディZ32)
コーラル級大型空母1隻
ストレイト級正規空母5隻
ベロー・ウッド級最新鋭中型空母2隻
ルイジアナ級最新鋭主力戦艦1隻
サンダラー級主力戦艦5隻
フォーラス級重巡洋艦1隻
インディアナポリス級重巡洋艦6隻
アスラートR級軽巡洋艦2隻
コンスロート級駆逐艦6隻
レイストR級駆逐艦2隻
合計:32隻 航空機:1110機
ニビリア共和国第一機動艦隊(司令:アルダン中将 車種:ソミュアS35中戦車)
旗艦:キアサージ級最新鋭大型空母「キアサージ」(艦長:ランダス中佐 車種:FCM36軽戦車)
キアサージ級最新鋭大型空母3隻
ジョフレ級戦闘空母10隻
カイオ・デュイリオ級新鋭主力戦艦12隻
クールベ級主力戦艦14隻
トレント級重巡洋艦20隻
デュゲイ級軽巡洋艦14隻
ブーラスク級駆逐艦24隻
ジャグアー級大型駆逐艦2隻
合計:100隻 航空機:1408機
日本戦車軍団第一特務艦隊(司令:松井元帥 車種:90式戦車)
旗艦:紀伊型戦艦「紀伊」(艦長:ティーガー元帥 車種:ティーガーT後期型(現在病養中) 先任士官:灰田大佐 車種:スカイラインGT−R R32)
高雄型重巡洋艦6隻
阿賀野型軽巡洋艦4隻
陽炎型駆逐艦8隻
秋月型対空駆逐艦7隻
島風型駆逐艦8隻
合計:34隻 航空機:80機
日本戦車軍団第二艦隊(司令:大鳳中将 車種:三式中戦車)
旗艦:大鳳型装甲空母「大鳳」
大鳳型装甲空母1隻
雲龍型中型空母4隻
大和型超弩級戦艦2隻
妙高型重巡洋艦3隻
青葉型重巡洋艦1隻
天龍型軽巡洋艦2隻
神風型駆逐艦3隻
吹雪型駆逐艦23隻
合計:40隻 航空機:440機(偵察機含む)
日本戦車軍団第三艦隊(司令:天城少将 車種:三式中戦車)
旗艦:長門型戦艦「筑紫」
長門型主力戦艦1隻
龍驤型軽空母2隻
隼鷹型中型空母2隻
赤城型戦闘空母2隻
高雄型重巡洋艦4隻
川内型軽巡洋艦4隻
陽炎型駆逐艦10隻
秋月型対空駆逐艦10隻
合計:36隻 航空機:430機
デュミナス第二主力艦隊(司令:パーセル少将 車種:クロムウェル巡航戦車)
旗艦:オルテウス級最新鋭超戦艦「グローゼウス」
オルテウス級最新鋭超戦艦1隻
アレギウス級新鋭三胴戦艦6隻
ダーウィン級主力戦艦10隻
ウィンダム級双胴戦艦10隻
アイビスR級最新鋭重巡洋艦15隻
アイビス級重巡洋艦15隻
フリート級軽巡洋艦20隻
イファルナ級駆逐艦39隻
ハボローネ級大型空母1隻
合計:120隻 航空機:1040機
デュミナス第一巡洋艦隊(司令:トクエル准将 車種:アヴェンジャー17ポンド対戦車自走砲)
旗艦:ブレナント級双胴巡洋戦艦「ブレナント」
ブレナント級双胴巡洋戦艦5隻
アイビスR級重巡洋艦10隻
ストロング級重巡洋艦8隻
フリートR級軽巡洋艦12隻
アリア級駆逐艦14隻
イファルナ級駆逐艦10隻
合計:60隻 航空機:304機
内惑星連合軍戦力合計 艦艇:422隻 航空機:4812機
松井元帥「・・・補充の改良型艦艇がまだ演習中だからな。減った戦力をそのまま使うのだが・・・」
いずれにせよ、400隻以上の大艦隊だ。駆逐艦数隻の問題ではないだろう
空母「ドロア」の艦橋では、皆が愕然としていた
ソンム中将「・・・これが・・・これが連合軍主力艦隊だと!?」
「ドロア」はドロス級空母の一隻で、ベータ攻撃艦隊の指揮艦「ドロス」からの指示を受け、ベータ裏側の警戒に当たっていたのだ
カルオス通信兵「識別の結果、180隻はデュミナス所属とのことです」
艦長「・・・司令、これは厄介なことになりましたな」
ソンム中将「・・・我が後任・・・アツタがやってくれるだろうさ・・・」
電波探信儀には422隻もの大艦隊が映っている
わがほうは386隻。第一特務艦隊の力を借りても、この差は埋められないだろう・・・
そのとき、艦橋に大型の敵艦艇が見えるのが分かった
距離18000。砲戦開始は時間の問題だ
カルオス観測兵「距離15000!」
もうすぐである
カルオス観測兵「距離12000!」
そして、距離12000、砲戦が始まった
上空には無数の航空機が飛来する
既に艦載機は出撃していた
こちらは、我が方が2倍近い数を持っている
何機かが爆弾を投下するが、効果は薄い
戦闘は、長引きそうだ
正面に見えるのはQグリーンの艦隊。第二艦隊および第一機動艦隊だ
何隻かの沈没艦が出ているが、現在面舵一杯の命令を出したところだ。旋回中の砲撃は困難だ
艦長「・・・やれますかね?」
パーセル少将「・・・撃破は可能だな」
しばらくして、旋回が完了した
松井元帥の言う「丁字戦法」に並ぶ「イの字戦法」だ
丁字戦法と基本的には同じだが、角度が若干異なるのだ
艦長「撃ち方初め!」
砲撃が指示された。これで敵艦隊は壊滅するだろう
よりによってイの字戦法だ。まさかこの手を使うとは
ロジェスト准将「・・・包囲されたか・・・」
グノーム中将「さすがデュミナス、といったところか」
ロジェスト准将「不利な状況となりましたな」
グノーム中将「性能でも劣るからな。どれだけ損害を与えられるか、それが課題だな」
各所で損害報告が相次いでいる
敗勢であろう
グノーム中将「・・・後退に関しても考慮する」
苦戦は、続くようだ
プロトン、ニビリア艦隊も善戦している
しかし、我が日戦軍団は戦力的には劣勢だ
航空攻撃まで始まっている
松井元帥(通信)「カルオスの艦隊も優秀だからな。仕方ないか・・・」
角田少佐「苦戦が続いております。錬度はさておき、数は・・・」
角田機はSu−3と交戦していた
ようやく背後を取る
機銃射撃で何とか撃墜する
そのとき、多数の爆撃機が艦隊に突入するのを見た
角田少佐「くそっ!やられた!」
対空火器が一斉に咆哮する
そのとき、真上から一機の戦闘機が飛来する
Yak−15だ
急旋回で銃撃をかわす
さらに急旋回で、背後を取り撃墜した
角田少佐「第三艦隊を援護する!」
第三艦隊上空に飛来した航空機を撃墜に向かった
上空に飛来したSu−7は三機。次々と爆弾を投下した
投下したのは八発だ
右に旋回しながら、空母は爆弾を避けつづける
しかし一発が飛行甲板に命中。零戦に被弾し大爆発する
さらに二発が甲板に命中した
三機目の前方には艦橋が見える
カルオス軍航空兵「沈め!」
彼はそう言いながら、64発のロケット弾を一斉に放った
続いて、上昇を始めた
急旋回、急降下で、500kg爆弾を投下した
今まで、これが重荷になっていたのだ
ようやく、この重荷から解放されるのだ
投下直後、急上昇
空母は大爆発を起こした
カルオス軍航空兵「後は頼んだ!」
既に航行不能に陥っている。空母としての能力はおろか、戦闘艦としての能力すら無いのに、まだ狙う気でいるのだ
飛来したSu−4が次々と爆弾を投下した
十数発ものの爆弾が命中。空母は轟沈した
その状況を見て、天城達は唖然とした
天城少将「・・・・航行不能になった艦艇に・・・とどめを刺すだと!?」
艦長「連中、ふざけてるんじゃないだろうな・・・」
数艘の内火艇が接近してくる
乗っているのは、ほんのわずかだ
天城少将「・・・やつら、完全に我々を甘く見てるな・・・」
対空射撃が続いている
状況は良くないようだ
「大鳳」上空に無数の爆撃機が飛来したのは、同時刻だ
敵は「大鳳」と「天鳳」の2隻に的を絞っているようだ
よりによって装甲空母を狙うとは、馬鹿な奴らだ
これで最新型の改信濃型空母を狙おうものなら、無数の対空ミサイルで全滅であろう
先ほど轟沈したのは龍驤型だが、同じ軽空母でもVLSが飛行甲板にある白崎型が相手ならあんなことは不可能だっただろう
艦長の巧みな舵さばきで、投下された爆弾はことごとく的を外していった
艦長「連中、急降下爆撃を使ってますからな。投下先は読めますよ。しかし、それに対応できる艦長は、滅多にいません」
大鳳中将「確かに。大型艦では、舵が効きにくいからな」
そのとき、1発の爆弾が飛行甲板に命中した
しかし、装甲空母にたかが一、二発の爆弾が命中したところで、効果はほとんどない
投下した機体は、巡洋艦から発射された対空ミサイルにより撃墜された
すると、敵機は向きを変えた
大鳳中将「連中、目標を変えたか・・・」
やはり、装甲空母には効果はないと見たのだろう
元々、航空攻撃を考慮して飛行甲板に装甲を追加したのがこれらだ。効果は無いに等しい
まして、操艦までもが優秀な日戦軍団とあっては・・・
そのとき、一機のSu−4が、煙を噴いて降下していく
艦長「おお、撃墜したぞ!」
大鳳中将「・・・まずい!あれは・・・」
急降下した敵機は、一隻の軽巡へと急降下した
そして、軽巡もろとも、大爆発を起こして沈んだ
艦長「野郎・・・」
大鳳中将「勇敢な奴だな。敵ながら見事だ。しかし・・・」
傍らでは、無数の空母が炎上している
優秀な戦闘空母であるはずの赤城型までもが、火を噴いている
雲龍型2隻が、敵の爆撃を受け、一隻が沈没、一隻が大破航行不能
赤城型2隻も同じく、一隻沈没、一隻大破航行不能
大鳳中将「・・・なんで我々は、常にやられ役なんだ・・・」
確かに、第二艦隊は活躍したことがほとんどない
いや、日戦軍団の主力艦隊は、活躍した事例がほとんど無いのだ
以前の艦隊戦においても、栄えある最新鋭戦艦「摂津」は大破して帰還したのだ。日戦軍団の面目が丸つぶれではないか
その日戦軍団の総指揮官、松井元帥の乗る戦艦「紀伊」も、敵機の猛威にさらされていた
しかし、内惑星連合各星の艦艇の研究の末、装甲の類を強化した「紀伊」には、500kg爆弾すら、まともに通用しないのだ
何十機もの敵機が飛来する
ミサイル長「SAM、攻撃初め!」
第一特務艦隊の防空網、第一陣だ
次々と火を噴く敵機。それでも、残った機体が接近する
砲術長「高角砲、撃ち方初め!」
第一特務艦隊の防空網、第二陣だ
拡散式になっている高角砲ならば、敵機の撃墜は容易である
残る十数機の敵機が、急降下を始めた
高射長「各銃座、迎撃初め!」
第一特務艦隊の防空網、第三陣。これが最終防衛網だ
最終的に、「紀伊」に爆弾を投下できたのは、二〜三機であった
灰田大佐「面舵一杯!」
後は艦長の腕だ。灰田は哨戒艇の艇長だった奴だ。以前も巧みな操艇で周囲を驚かせた奴だ。さすが、元レーサー
松井元帥「・・・各員、見事だ」
松井元帥は、航空攻撃がこちらに向かっているならば、まだ安全だろうと思った
補充部隊の船団は、デュミナス艦隊が守り抜いている。今回参加した連合軍艦隊中最強の戦力だから、大丈夫であろう
前方に見えるのはあの熱田艦隊だ
松井元帥「まずは、周りの船から行くか」
今回は、補充の艦艇の代わりに高雄型重巡洋艦を配属している
いずれは改利根型あたりを、この艦隊に導入したいところだ
第二特務艦隊と合同で特務連合艦隊を構成、改利根型ならびに改阿賀野型、改秋月型、改神風型などの改良型艦艇を主力とする大艦隊とする計画がある
再び、爆撃機や攻撃機が飛来する
熱田艦隊の艦載機だ
航海長「熱田てめぇ、キュワール系らしい心はもう無くなっちまったのかよぉーーーー!」
ベテランの航海長が叫ぶ。松井元帥の以前からの部下だ
どこぞかの特撮の名プランナー隊員を思わせる彼は、熱田の後輩であった
つまりは、「てめぇ」と呼べる立場では無いのだが、敵将となってはまあ仕方ないことだろう
無論、相手は怪獣でもなんでもない。敵の大艦隊だ。そう簡単に、止まってはくれないだろう
だが、一隻の戦艦が近づいてきた
「BB NIMAST」。奴だった
電探長「司令、奴です!」
松井元帥「遂に来たか、熱田め」
敵は魚雷を発射した。予想通りだ
機関砲が次々と射撃を開始する
ほとんどの魚雷を撃墜した
数発ほど被弾したが、そう簡単に沈む船ではない
現に、今まで航空攻撃を耐えつづけてきたのだ
松井元帥「大嵐、目標を『ニマスト』に変更。射撃指示を出せ」
砲術長「了解!」
大嵐砲術長、階級は少佐。航海長の伊原少佐と同期である
主砲戦が始まった
火力では向こうが勝るが、こちらには70cmレーザー砲がある
ほぼ互角である
「ニマスト」の艦橋では、熱田中将が直立している
熱田中将「・・・ようやく『紀伊』を撃沈できる。我が仇敵を・・・」
艦長「・・・『紀伊』の撃沈に成功すれば、昇進は間違いなし、ですな」
副長「艦長!損害、中破に達しました!」
敵艦を中破させたはいいが、こちらも同等の損害を受けたのだ
通信長「これはまずいですな・・・」
まだ互角だ。まともに戦えるだろう
そのとき、電探に新たな反応があった
直後、物凄い数の砲弾が「ニマスト」に飛来した
そのほとんどが命中、「ニマスト」は大爆発を起こした
熱田中将「何事だ!?」
副長「敵艦です!」
艦長「何っ?!まだいたのか!?」
松井元帥も、状況は理解できなかった
突如味方艦が出現、「ニマスト」に砲撃を与えたのだ
電探には「BB GLOWZEUS」と表記されていた
デュミナス第二艦隊旗艦「グローゼウス」だった
見れば、他にも多数の反応がある
敵艦隊を撤退に追い込んだ、デュミナス第二艦隊の姿があった
「ニマスト」は後退を始めた
しかし、それに対し、第二艦隊は砲撃を始める
松井元帥「あいつら!」
伊原少佐(車種:二式軽戦車)「撃沈どころか、破片すら残さない気だ!」
大嵐少佐(車種:一式十糎自走砲)「とんでもない奴らだ!」
敵も味方も、変わらなかったのだ
とどめと言わんばかりに、ズィーモスLが次々と放たれた
「ニマスト」では凄まじい悲鳴が続いていた
通信長「敵艦、ズィーモスL発射!」
艦長「総員退艦急げ!」
副長「総員退艦!」
熱田中将「・・・一体・・・どういうことだ・・・」
通信長「命中まで5・・・4・・・3・・・2・・・1・・・」
艦長「総員、衝撃に備えろ!」
衝撃を通り越した、凄まじいものが、「ニマスト」を包んだ
そして、「ニマスト」は物凄い光に包まれ、轟沈した
破片すら、残さずに・・・
「ドロア」の艦橋では、恐ろしい報告が届いた
「ニマスト」が敵艦の集中砲火を受け、破片すら残さずに沈没したとのことである
ソンム中将「・・・やむを得ん。全艦後退せよ」
熱田を失った今、連合軍を壊滅させる手段はない。ソンムは確信した
艦長「・・・了解」
通信長「各艦艇に通達、全艦後退せよ」
その言葉を最後に、皆が沈黙した
艦橋内部では、皆が歓喜の声を上げていた
ほんの数両を、除いて
松井元帥「バッカヤロー!」
皆が唖然とした
灰田大佐「司令?」
松井元帥「これじゃ帝国の奴らと変わらないじゃないか!一隻の敵艦を集団リンチして、破片すら残さずに沈めて!高威力噴進兵器の無駄遣いじゃないか!」
伊原少佐「・・・・・・・・」
松井元帥「・・・・・言っても、仕方ないか。裏側軍港に寄港する」
凄まじい言葉を叫んだ末に、松井元帥はその命令を発し、沈黙した
伊原少佐「・・・・司令の言うことも、分かりますよ」
大嵐少佐「・・・何しろ、司令にとっては大事な部下だった奴だからな・・・」
松井元帥「伊原、大嵐。これからベータに寄港する。諸君らも上陸準備を整えておけ」
伊原・大嵐両少佐「了解!」
松井元帥「・・・灰田」
灰田大佐「はっ!」
松井元帥「・・・よくやった。見事な指揮だった」
灰田大佐「・・・ありがとうございます!」
第一特務艦隊は、無事ベータ裏側軍港へ寄港した
日戦軍団の損害は、かなりの物だった
場所は、理解できなかった
戦艦の艦橋ではない
何もない、宇宙であった
一隻の赤い大型艦が近づくのが見える
僚艦ではない
その船から、何両かのタンクが下りてくる
そのまま、そのタンクたちに搬送された
そのチョロQ・・・熱田中将がいたのは、アマティス沖であった
ズィーモスLの影響で、この宙域にまで転移したようだ
収容されたのは、アマティス軍の大型航空戦艦であった
艦長「カルオス軍士官と思しき五式中戦車を収容。意識はほとんどない模様。これより本星に帰還する」
そして、大型航空戦艦は、その宙域から消失した
ライトウォーター司令部では、作戦報告が入っていた
敵艦隊を撃破、作戦は成功したとのことである
コピック中佐「デュミナスの支援があったから、まあ作戦成功は当然だろうな」
マグス中佐「何か複雑な問題があったらしいですが、仕方ない話でしょう」
コピック中佐「これで、陸戦が有利になってくれればいいんだがな・・・」
陸戦は、しばらく互角な状態が続きそうだ
第六十五話 終わり