第六十三話 激戦地再び
何とか占領したベータ基地だが、航空攻撃と艦隊攻撃を受け、遂には敵部隊が上陸。地底戦車による奮戦空しく、次々と進撃され、遂には司令部が全壊。ドニゲッテル、ユゴス、藤田以外、司令室の兵士は全滅。援軍を送り込むが、敵も増援あり。状況は劣勢であった
さらにライトウォーターに対する巡航ミサイル攻撃で、司令部の将兵全員が負傷、松井元帥も書斎で指揮を執ることになった
さて、その書斎では、なおも通信が続いていた
松井元帥「米沢、現状は?」
米沢大将(通信)「現在、装甲シャッターが崩壊、敵部隊約2500両が突入しています!」
松井元帥「遂に来たか・・・」
現在、第五滑走路方面で指揮を執る米沢大将は、突入部隊と直接交戦はしないこととなっている
だが、そのために貴重なパイロットを犠牲にしなければならないのだ
松井元帥「・・・発案車の顔が見てみたい物だな・・・」
陸戦はほとんど出来ないはずのパイロットを、前線に配備する、そんな作戦を立案した奴は、きっと実戦経験がほとんどないんだろう
いずれにせよ、Qシュタイン連邦第224連隊のガバナー中佐以下1550両と、プロトン合衆国第110中隊のグリフォン大佐以下600両が、第501中隊、第875航空隊共々前線部隊となるのだ
松井元帥「T−34の改良型が相手じゃ、分が悪いだろうな・・・」
敵戦力、総数2450両の主力は、T−34/85。プロトン合衆国のM4A3シャーマンや、Qシュタイン連邦のV、W号戦車にとっては強敵である
松井元帥「・・・『敷島』さえあれば・・・」
「敷島」、かつて本土で大活躍した装甲列車である
正式名「四一式重装甲列車」、155mm単装砲一門、120mm戦車砲一門、90mm歩兵砲二門を装備した前方警戒車、120mm戦車砲二門、90mm歩兵砲二門を装備した砲車、90mm歩兵砲二門を装備した機関車、九二式重機関銃(口径:7.7mm)二丁を装備した貨物車、57mm歩兵砲一門を装備した指揮車、山砲一門を搭載した貨物車、探照灯一基と九二式重機関銃一丁を装備した後方警戒車で編成されており、総数13両編成。「敷島」「八島」「霧島」を筆頭に、30以上の編成が建造された
この30以上もの大編成を指揮したのが、パレンバン基地司令官、ボルナソス大佐である
ピクールガ中佐を参謀長とし、「敷島装甲列車隊(正式名:第一特務列車隊)」を結成、第五次、第六次キュワール大戦において奮戦し、現在はピクールガ中佐が指揮している
松井元帥「・・・今のご時世、装甲列車など役には立たんのだろうが・・・」
重装甲と機動性を誇り、Qトルック帝国最大の恐怖となった「敷島」
型装甲列車。基地内部の輸送線に配備し、ある程度の防衛戦力とすることはできるであろう
松井元帥「・・・だが、地下基地なら航空機の脅威はないからな。使えるだろう」
今度、ライトウォーターに持ち込んでおきたい兵器だ
海軍宇宙艦隊本部でも、情報は入っていた
サウラー中将「敵の反攻ですか・・・」
フルト大将「地下基地での戦闘となるため、艦砲射撃は無用、それに、周辺の艦隊はまだ整備中だ」
確かに、先の戦闘で、艦隊は著しく損傷している
松井元帥の話では、第二、第三、第五、第八、第九艦隊が前線へ出撃可能だが、敵艦隊の規模が大きいところから出撃は現在断念しているという
フルト大将「援軍に関しても困難だ。ベータ基地は持ちこたえられるかどうかも分からん」
サウラー中将「これほどの戦闘になるとは思いませんでしたね」
フルト大将「ああ、まさかベータでこれほどの戦闘になるとは思わなかった」
サウラー中将「・・・陸軍本部も大変でしょうな」
陸軍本部は、ボルゾル元帥やナルマルガム中将といった、現在Qシュタイン大陸内にいる士官の大半が詰めている場所だ
確かに、今回の戦闘において、一番大変なのは、二個連隊(第221連隊、第224連隊)、一個中隊(第501中隊)、一個小隊(第253小隊)も派遣している彼らであろう
そのとき、海軍第一艦隊司令、スキシーバ大将がやってきた
スキシーバ大将「フルト大将、ここでしたか」
フルト大将「ああ、しばらく艦隊本部を任せていたからな」
普段は戦艦「スキシーバ」のCICにいるので、陸にはなかなか姿を見せない
指揮官職も大変なのだ
フルト大将「・・・長期戦が予想できる。補給が難しい我が軍が不利だな」
パラオ大佐「確かに、そうですね」
フルト大将「・・・次の手を、考えなければな」
他の幹部士官を眺めながら、彼は呟いた
さて、第五滑走路に配置された臨時司令部では、米沢大将が指揮を執っていた
米沢大将「よし、報告どおりだ。第224連隊のガバナー中佐以下1550両、第110中隊のグリフォン大佐以下600両を第三弾薬庫に派遣、急げ!」
ヴァイゲル中将「ガバナー中佐ですか。奴に任せられるか、自分は心配ですが・・・」
米沢大将「彼なら、敵軍を抑えることはできるだろう」
現在、司令部には米沢、ヴァイゲル以外にも、小沢、大西、アイスナー、グリフォン、ガバナーの姿がある
他にも、複数の通信兵たちがいる
小沢中将「敵は優秀な戦力です。一部戦力を小出しにするより・・・」
米沢大将「敵軍も先発隊だ。次には本隊がやってくる。こっちの本隊は、そこまでここで待機だ」
グリフォン大佐(第110中隊司令。車種:M26パーシング)「では、我々はすぐに第三弾薬庫へ!」
米沢大将「うむ、頼むぞ!」
グリフォン大佐は、司令室を後にし、部下の下へ向かった
ヴァイゲル中将「ガバナー中佐、彼らの後に続け!」
ガバナー中佐(第224連隊所属。車種:ヘッツァー)「了解!」
大西准将「これで、派遣部隊は全部ですか」
米沢大将「そうなるわけだな。これは、大変な戦いになりそうだ」
これで、3100両の戦力が、敵と戦うことになる
一方、第501中隊と、第875航空隊は、陸戦の準備を行った
フェルデ曹長「友軍部隊が第三弾薬庫に展開しました!」
ローレル大佐「これで3100両か。敵に対し、数で勝るな」
ケーベ上等兵「しかし、質では劣りますな」
タトラ上等兵「・・・T−44が相手ですからね・・・」
フンケ中佐「いずれにせよ、敵が来たからには、俺たちが相手しなければならないわけだな」
ローレル大佐「確かにそうだが・・・」
フェルデ曹長「まあ、やるしかないでしょうな」
第一飛行場格納庫周辺に陣取る彼ら。対するのは第322大隊だ。無論、先発隊であるから、全戦力ではない
ローレル大佐「苦戦は、必至だろうな・・・」
こちら側に向かってくる、第322大隊先発隊戦力を見て、ローレル大佐は思った
ローレル大佐「応戦準備!」
全員が射撃準備を整える
遂に、戦闘が始まった
先頭を進むのはT−44。おそらく指揮官のコルサ大佐であろう
W号戦車が砲撃を始める
正面装甲に命中する
しかし、弾かれてしまった
タトラ上等兵「畜生!」
ローレル大佐「やはりダメか・・・」
ケーベ上等兵「いえ、撃たなければこちらがやられます!」
砲撃は続いているが、ほとんど倒せない
フンケ中佐「先陣さえ倒せんのか!?」
Qシュタイン兵士「かくなる上は、やるしかありません!」
そう言うと、一両のパンター戦車が、敵に向かっていった
書斎に、基地通信士官であり、ミサイル攻撃の際には司令室から出ていた笠井が入ってきた
笠井兵長「司令、第322大隊が第一飛行場に進入、戦闘状態に突入しました!」
やはり状況は劣勢らしい
先陣のT−44は、V、W号戦車では勝ち目はない。ただ、パンターが、何両かを破壊しているらしい
松井元帥「・・・突飛な作戦だが、役には立つようだな・・・」
無論、このパンターが第875航空隊の隊員だから、である
笠井兵長「では、自分は他の作業があるので」
松井元帥「ああ、分かった」
笠井は足早に書斎を後にした
松井元帥「・・・全く、無茶なことをしたものだ」
無論、危険が迫っている司令部に自ら向かっていったことである
1両のパンターA型が突如、T−44の背後に回りこみ、撃破したのだ
先陣を進んでいた、指揮官と思しきT−44が唖然とする
接近するほかのT−44にも砲撃を浴びせ、撃破する
フェルデ曹長「よし、背後に回りこみ、敵戦車を破壊する!」
友軍パンターに砲塔を向けた、1両のT−44に照準を向ける
狙うは側面装甲だ
そして、一発、75mm弾を浴びせる
砲撃は命中、沈黙するT−44
フェルデ曹長「敵T−44を撃破!」
一方、格納庫では、Qシュタイン連邦第一設営隊の兵士たちが準備を始めていた
Qシュタイン設営隊士官「迫撃砲、用意!」
迫撃砲、英語では「グレネード・ランチャー」とよばれる兵器である
日戦軍団の八九式擲弾筒を筆頭に、さまざまなタイプが存在する
放物線を描き、目標に命中、爆発する砲弾を発射するものだ
設営隊のSdkfz.250装甲トラックは、8cm迫撃砲に、弾薬を装填した
格納庫前に陣取る、多数の装甲トラック
その全てが、敵に照準を向けていた
そして、士官が叫ぶ
Qシュタイン設営隊士官「撃て!」
一斉に放たれる8cm迫撃砲弾
そして、敵部隊に降り注ぐ
戦車の弱点は複数ある
一つは砲口。ここに砲弾が命中すれば、砲撃が不可能になる
もう一つは履帯、すなわちキャタピラ。ここが破壊されれば、移動が不可能になる。履帯はそもそも、地面から離れている起動輪や誘導輪の回転を、地面に接する転輪に伝達する機構であるため、ここが切られると起動輪や誘導輪が空回りし、動かなくなるのだ
そして砲塔、車体の隙間。すなわちターレットリング。ここに砲弾が命中すれば、砲塔が吹き飛び、行動不能になるのだ。戦車の指揮機構は砲塔にあり、移動機構が車体にあるので、それがバラバラになれば動けないのだ
最後はエンジン。車体後部上面に排気口があり、ここに砲弾が命中すればエンジンが吹き飛ぶ。弾薬庫も車体後方にあるので、ここに命中すれば戦車は大爆発するのだ
ただ、排気口が車体上面なので、航空機、または曲射砲、迫撃砲でなければ、攻撃を当てることが出来ないのだ
今回使用されたのは迫撃砲、つまり、エンジンを狙えるのだ
次々と吹き飛んでいくT−34/85
Qシュタイン設営隊士官「よし、次弾装填急げ!」
無論、設営隊であるから、戦力は少ない
戦闘は、一進一退である
ローレル大佐「撃退は困難だな・・・」
T−34/85やT−44が相手では、やはり苦戦は必至であろう
第224連隊の6個分隊と、第110中隊は、第三弾薬庫に布陣する
遂に、敵第277大隊と交戦した
ガバナー中佐「各分隊ごとに分散して攻撃せよ!」
相手はJS−3。残りは第三弾薬庫周辺の守備隊と交戦しているらしい
ガバナー中佐「・・・まずいな・・・JSが相手では勝ち目はない・・・」
グリフォン大佐「前面装甲は220mmだ。これでは・・・」
そのとき、1両のパンターG型が、機動性を駆使してJS−3の後ろに回りこんだ
砲撃は見事命中、JS−3は吹き飛んだ
さらに、物陰に隠れていたヘッツァーが、JS−3の側面をめがけ砲撃、これを撃破したのだ
実は、JS−3は正面以外は、正面のほぼ半分程度の厚さしか無いのだ
背面に至っては、四式中戦車の徹甲弾ですら破壊される程度
日戦軍団の使用する新型徹甲弾ならば側面でも破壊できる
ガバナー中佐「おお!側背面が弱点だったか!」
グリフォン大佐「あらかた、予想は出来たがな・・・」
しかし、JS−3の主砲は122mm砲だ。威力は駆逐艦の艦砲射撃並、戦車でたとえるならマウス並である
一両のヘッツァーが、正面に砲弾を受け、爆発した
さらに一両、もう一両
次々と破壊されていく戦車隊
グリフォン大佐「・・・あれほどの威力だからな・・・」
ガバナー中佐「一撃か・・・」
第110中隊による、複数の戦車で囲んで砲撃する作戦でも、ほんの数両しか撃破出来ない
むしろこちらの損害が増えるばかりだ
敵部隊を約半数にまで減らしたが、こちらも半数にまで減ってしまった
グリフォン大佐「このままでは全滅は必至だ!一時後退を・・・」
ガバナー中佐「・・・仕方ないか。よし、一時退却準備だ!」
そのとき、総本部から連絡が入った
米沢大将(通信)「米沢より第三弾薬庫防衛部隊。貴軍は現地を死守せよ。後退するな!敵が引くまで、持ちこたえろ!」
グリフォン大佐「そんな無茶な!」
米沢大将(通信)「敵が引くのは時間の問題だ!それまで死守するんだ!」
米沢の命令は悲痛な物であった
日戦軍団の士官が、よりによって「死守命令」を出すとは
皇帝政時代のQシュタインなら、普通に行われていたことであったが、ガバナーは納得できなかった
ガバナー中佐「米沢大将!いったいどういうことですか!?」
米沢大将(通信)「今に分かる!それまで持ちこたえろ!」
その発言と共に、米沢は通信を切った
敵の戦力は減りつつある。第三弾薬庫制圧は時間の問題だ
先発隊の指揮を執るアレイヘム中佐は、そう思った
アレイヘム中佐(車種:JS−3)「敵を殲滅しろ!」
飛行場を抑えるコルサ大佐たち第322大隊の先発隊と比べると、数こそ多いが軽戦車の比率が多い第277大隊の先発隊。これは当初、敵の戦力がたいしたことは無いと思っていたからである
しかし、敵はこちらの弱点を見抜いていたのだ
アレイヘム中佐「くそっ、早く抑えなければ・・・」
そのとき、第322大隊のコルサ大佐から、驚くべき通信が入った
コルサ大佐(車種:T−44)(通信)「アレイヘム中佐!攻撃は中止だ!撤退しろ!」
アレイヘム中佐「どういう意味だ!」
コルサ大佐(通信)「上陸隊本部からの連絡だ!全部隊を後退させるんだ!」
アレイヘム中佐「まさか貴様、俺の隊から戦果を横取りする気だな!?」
コルサはアレイヘムのライバルである。彼の言うことは、信じられないのだ
しかし、上陸隊本部からも、通信が入った
フラスコ少将(通信)「第877大隊のフラスコだ。直ちに後退しろ!」
なんと、上陸隊本部まで、後退命令を出したのだ
上官の発言だ。従わざるを得ない
アレイヘム中佐「・・・了解、後退します!」
アレイヘムは、部下を連れて、一斉に後退を開始した
それを見て、ガバナーとグリフォンは唖然とした
ガバナー中佐「・・・敵が・・・後退した・・・」
グリフォン大佐「・・・一体、どういうことだ?」
ガバナー中佐「・・・まさか、地底戦車の予備にでも襲われたか?」
グリフォン大佐「いや、地底戦車が運び出された形跡は、本部には無かったはず・・・」
彼らもまた、状況を飲み込めなかった
いずれにせよ、ここで一旦、体勢を整える必要がありそうだ
さて、敵が突如後退したことに関してだが、これは長くなるので、次回に回そう
第六十三話 終わり