第四十二話 爆撃と銃弾との間で
ライトウォーターに揚陸艦隊が接近していた
日本戦車軍団第一揚陸艦隊 揚陸艦「大隈」
九龍少佐「今回はライトウォーターを攻略する。要塞ゆえに防備は堅いであろうが、今回はプロトン合衆国陸軍第134中隊が支援に来てくれることとなった。彼らの物量があれば、ライトウォーターは制圧できるであろう。以上、健闘を祈る!」
溝口大尉(車種:三式中戦車)「司令、大日本帝国の第十中隊に関してはどうなんですか?」
九龍少佐「溝口、いい質問だ。現時点で、彼らの戦力は、わが日本戦車軍団の誇る第二十五中隊とほぼ同等の戦力である」
溝口大尉「第二十五中隊!?」
九龍少佐「そうだ、中隊長の近藤大佐も、凄まじい武装を搭載していると思われる。何せ90式だからな」
佐藤中尉(車種:三式中戦車)「きゅ、90式ですか!?」
九龍少佐「ああ、ほか、61式戦車および三式から五式までの精鋭戦車群を確認している。どうやら、ほとんどの兵士が銃座の担当で、やられたらしいな」
第十中隊、本来の戦力は数百両にも及ぶ大戦車部隊だが、前回の爆撃により戦力の大半を失ったのである
九龍少佐「さて、突入までの間、しばらく休んでくれ。以上、解散!」
九龍少佐は司令室へと戻っていった
第115中隊所属のエリート兵士、溝口は戦友の佐藤に語る
溝口大尉「・・・佐藤、これはまずいぞ」
佐藤中尉「どういうことですか?」
溝口大尉「支援の砲撃部隊だが、60式自走無反動砲を初めとするかなりの戦力を配備している」
それに割り込むように佐藤の相棒、萬屋中尉と、溝口のかつてからの戦友である宇野沢少尉たちがやってきた
萬屋中尉(車種:三式中戦車)「ということは・・・」
溝口大尉「対戦車火力は凄まじく高い。60式無反動砲ですら、T−34を一撃で破壊できる威力だからな」
宇野沢少尉(車種:一式中戦車)「お、おい、俺達の部隊には61式はおろか五式すらいないんだぞ!そんな相手に勝てるのか!?」
寺島曹長(車種:一式中戦車)「勝てなければ俺達は全滅だ。あの帝国の兵士のようにな」
寺島は他の隊員と比べると戦闘には不慣れである。だが、それでも戦場は幾度か見ているため、戦場での悲劇は分かっているのだ
溝口大尉「・・・宇野沢、60式無反動砲の弱点はわかっているな?」
宇野沢少尉「そ、そういえば!発射時の反動を抑えるために発射炎が凄まじいため、居場所が気づかれやすく、装甲も薄いため場所がわかれば撃破が容易!」
溝口大尉「他の戦車に関しても当たり所がよければ撃破は容易。一番厄介なのは90式だが、まさか司令官が突撃してくることは少ないだろう。俺達は突っ込んで来る敵たちを倒せばいいんだから」
田辺曹長(車種:一式中戦車)「航空支援もありますからね。こちらは優勢でしょう」
佐軒准尉(車種:一式中戦車)「しかし油断は禁物ですよ。前回の空襲が成功したのは敵に真空がいなかったからであって・・・」
直後、サイレンが響いた
九龍少佐「総員、戦闘配置!行くぞ!」
溝口大尉「来たぞ、諸君。なんとしてでもライトウォーターを占領する。死んではならんぞ!」
そういうと、溝口達は揚陸艇に飛び乗った
約十両ほどが乗れる揚陸艇は溢れかえっていた
支援の戦闘機、爆撃機部隊が現れる
佐軒准尉「空母『秋津丸』より入電『これより支援攻撃を開始する』、以上!」
揚陸空母「秋津丸」。日本戦車陸軍機動艦隊の保有する小型空母である
フィーゼラーFi156シュトルヒに酷似した三式指揮連絡機や艦上型に改装した陸軍機を搭載し、ここまでやってきたのだ
僚艦として「熊野丸」「山汐丸」「千種丸」などを引き連れ、「大隈」「下北」と共に対地支援を行うのだ
日戦軍団兵士A「よし、もうすぐ陸地だ!」
砲陣地からの攻撃をかわし、上陸に成功した
隣の揚陸艇からは九龍少佐が降りてきた
九龍少佐「戦闘開始!行くぞ!」
前方にはBT戦車の大群の姿があった
BT−2、BT−5、BT−7の姿があった
ルナツー司令部
日戦軍団通信兵A「司令!敵戦車隊、友軍部隊と交戦!BT−2、BT−5、BT−7などで編成されています!」
松井元帥「BT−7か。そういえば昔、ウルトラセブンだかのパロディーで『BT−7』って無かったか?」
ティーガー元帥「ああ、ありましたね。必殺技はキャタピラ外し高速走行。場合によってはキャタピラをアイスラッガー代わりに投げたりとか」
松井元帥「主題歌もパロディーだったからなぁ。ところで他のパロディー物でも色々あったよなぁ」
ティーガー元帥「『ウルトラマンマイルドセブン』という煙草ネタがありましたね。『果たしてメトロン星人はどっちの味方につくのか!』ってね」
松井元帥「話を戻すぞ。相手は高速戦車だ。機動戦法に注意して欲しいな。何しろ我が軍の戦車のほとんどを超える速力を持っているからな」
ティーガー元帥「そうですね。比較的に機動力のほうが重視されていますからね」
松井元帥「砲台等に関しては?」
日戦軍団通信兵B「75mm砲台数門を確認とのこと!」
松井元帥「そうか。75mmならばあまり問題にはならんが・・・」
日戦軍団通信兵A「・・・司令?」
松井元帥「前の戦闘、真空がいなかったよな・・・」
日戦軍団通信兵B「・・・真空、ですか?」
松井元帥「ああ、あの大日本帝国の新型機の・・・」
ティーガー元帥「まさか、まだあの基地に残っているとか・・・」
松井元帥「その可能性は、否定できんぞ」
ライトウォーター基地
溝口大尉「かかれ!」
その掛け声と共に、溝口分隊の隊員は一斉に突撃を開始した
相手は機動力を生かした戦法で、友軍の砲弾を次々と避けていく
だが、快速では我々も負けない
機関砲を乱射しつつ迫るBT−2に、75mm弾を浴びせる
ようやく撃破に成功した
やはり他の部隊も苦戦しているようだ
だが、もともと数で勝る。次々と押していった
フレイ中佐「突撃!」
第215中隊が次々と進撃していった
ニビリア兵士A「突撃!」
ニビリア兵士B「よし、BTをやった!」
連合軍は優勢であった
グラウス少佐(第134中隊司令。車種:M4A3E8)「グラウスより各員、このまま要塞表面を制圧する!」
プロトン合衆国第134中隊。もともとロドスシルト少佐指揮下の第一師団所属の中隊であり、幾度か実戦を経験している
数ヶ月前の叛乱事件でも鎮圧に活躍したそうだ
プロトン兵士A「行くぞ!各員突撃!」
プロトン兵士B「突撃ーーーー!」
明らかに連合軍が優位であった
BTは次々と倒されていく
九龍少佐「・・・表面制圧は、容易だろうな・・・」
だが、直後、ものすごいプロペラ音が九龍を襲った
それに続き、凄まじい銃声が響いたのだ
九龍少佐「退避!」
と叫んだが、もう遅かった
近くの瓦礫に隠れた九龍以外のほとんどの兵士は、既に破壊されていたのだ・・・
九龍少佐「そ・・・そんな馬鹿な!友軍機は一体どこへ・・・」
九龍は上空の戦闘機隊を眺めた
だが、ほとんどの機体は二重反転式プロペラの戦闘機三機と、四式戦闘機「疾風」に良く似た機体九機により撃墜されていたのだ
そしてグンナのLa−7、Mig−3。旧式でありながらなかなかの猛者が乗っているらしく、友軍を追い込んでいた
九龍少佐「・・・ランチェスターの法則に当てはまらない戦闘だ・・・」
溝口大尉(通信)「溝口より九龍少佐!」
九龍少佐「溝口!生きていたのか!」
溝口大尉(通信)「ほとんどの友軍がやられた!俺達十両とわずかな兵士だけだ!」
溝口は部下9両と共にニビリア軍と共同で戦っていた
そこを襲われたのだ
溝口分隊の十両を除く大半の兵士が、九九式襲撃機らしき機体によってやられてしまったのだ
九龍少佐「・・・あの双発機・・・まさか・・・」
試作番号キ−93。大日本帝国軍正式愛称「怒龍」。最高速度680kmを誇り、57mm機関砲二丁、20mm機関砲四丁、12.7mm機銃六丁、ロケット弾40発を搭載する戦闘爆撃機である
空戦を眺めていると、不意にダイブブレーキの音が聞こえた
九九式襲撃機改である
九龍少佐「退避!」
四発の爆弾を避けきった
だが、五発目は避けきれなかった
爆発音が響く
溝口大尉(通信)「司令!司令!九龍少佐殿!」
溝口だ。彼の分隊は無事だったはずだ
どうやら周辺部隊で損害が出たようだ
一方、溝口分隊は衛生兵の成田を呼び、負傷車を集めていた
佐藤中尉「大尉殿!また損害が増えました!」
溝口大尉「今はいい!本隊がやられたぞ!」
佐藤中尉「何っ!?九龍少佐は?!」
溝口大尉「応答が無い・・・」
寺島曹長「そんな・・・馬鹿な・・・」
溝口大尉「寺島!田辺!急げ!負傷車をここに集めるんだ!」
田辺曹長「了解!」
萬屋中尉「佐藤、一体これは・・・」
佐藤中尉「萬屋、生きてたのか!」
萬屋中尉「俺がそう簡単に死ぬと思ったか!」
佐藤中尉「それはともかく、九龍少佐がやられたぞ!」
萬屋中尉「えっ!?九龍少佐が!?」
佐藤中尉「ああ、さっきから応答が無いそうだ」
萬屋中尉「まさか、司令がやられるわけ無いでしょう!」
佐軒准尉「しかし、先ほどから全く応答がありません。やられた可能性も・・・」
宇野沢少尉「佐軒!少佐殿がそう簡単に撃破されるわけが無いだろう!」
佐軒准尉「しかし・・・」
宇野沢少尉「分隊長!ここは矢矧さんに連絡を取って、応援よこしてもらいましょうや!」
溝口大尉「そのほうがよさそうだな。佐軒、ルナツーへ通信だ」
佐軒准尉「了解!」
矢矧とは第113中隊隊長、矢矧少佐のことだ。援軍としてルナツーで待機していたのだ
先ほど一式陸上輸送機で到着し、揚陸艦「国東」に乗り込んだところだという
成田衛生兵(車種:一式中戦車)「しかし数が多いですな。上陸本部から軍医の富岡大尉殿でも呼びますかね?」
佐軒准尉「その件も含めて伝えておきます」
第215中隊のソミュール伍長は、入隊から間もない兵士である
今までの戦闘の功績で伍長になってはいるが、未だ戦場には不慣れである
そんな彼が、ライトウォーターで見たものは恐るべき機銃掃射であった
ソミュール伍長(車種:ソミュアS35)「・・・ソミュールより司令部、状況は劣勢、退却に関しても考慮・・・」
すると、遠くに日本戦車軍団の部隊の姿があった
ほとんどが火を噴いていた
ソミュール伍長「・・・まさか、軍団も全滅したのか?」
フレイ中佐「・・・先ほどから九龍少佐から連絡が取れん。やられたかもしれんな・・・」
ソミュール伍長「自分が、あの現場の状況を確認してきます!」
フレイ中佐「分かった、無理はするなよ」
一方、九龍は孤立していた
履帯をやられ、行動不能になっていたのだ
どこかからエンジン音が聞こえる
敵だろうか
いや、敵ではなかった
ソミュール伍長であった
ソミュール伍長「九龍少佐殿!」
ソミュール伍長は九龍少佐の元へ駆け寄った
ソミュール伍長「少佐殿、大丈夫ですか!?しっかりしてください!」
フレイ中佐(通信)「どうだ?!」
ソミュール伍長「九龍少佐殿の生存を確認、履帯破損で行動不能。至急牽引台車願います」
フレイ中佐(通信)「分かった。すぐに用意する」
しばらくして、フレイ中佐たちが駆けつけた
フレイ中佐「よし、全員で九龍少佐を乗せる!」
かくして、九龍少佐はニビリア軍第215中隊と共に前線を後にした
一方、溝口分隊の通信により、日本戦車軍団の揚陸艦「国東」と、プロトン軍の揚陸艦「イオー・ジマ」が接近、航空隊がいないのを見て接舷した
矢矧少佐「溝口大尉!」
溝口大尉「矢矧さん!」
矢矧少佐「簡単に陥ちるとされていたライトウォーターでここまで苦戦するとは・・・」
溝口大尉「敵の新型機です。双発の戦闘爆撃機が襲い掛かってきたんです」
矢矧少佐「・・・それで、九龍少佐は?」
フレイ中佐「ああ、医務室へ運ばれた。富岡軍医大尉と成田衛生兵が診ているが・・・」
矢矧少佐「医務室?!」
溝口大尉「敵の爆撃機の攻撃を受けて重傷を負っているんだそうですよ」
矢矧少佐「重傷!?」
田辺曹長「少佐殿!まだ手当てが・・・」
田辺がそう言ったときには、すでに矢矧は医務室へと向かっていた
溝口大尉「矢矧さん・・・」
佐藤中尉「隊長、無理ないでしょう。矢矧さんは九龍少佐の親友なんですから」
萬屋中尉「しかし、ソミュール伍長から聞いた話では、周りで無数のタンクが死んでいたというのに、九龍少佐だけ生き延びていたそうですが・・・」
宇野沢少尉「そりゃそうでしょう。九龍さんは増加装甲つけてますからね。一般的に我々日本戦車は、防御装甲が他の追随を許さぬ薄さを誇りますから」
溝口大尉「宇野沢・・・それは誇るべきところか?」
寺島曹長「多分そこは誇るべきところではないかと思うんですが・・・」
宇野沢少尉「そうでしたね。しかし九龍さんも、よく帰還できましたね。そりゃニビリア軍第215中隊に曳航されて帰還したそうですが」
一方、矢矧少佐は、医務室のドアを勢い良く開けた
変わり果てた九龍少佐がそこにいた
矢矧少佐「九龍少佐!」
すると、富岡軍医大尉がやってきた
富岡軍医大尉(車種:軽装甲機動車)「矢矧さん、まだ手当てが終わってませんよ」
矢矧少佐「九龍少佐は、一体どうなんですか?!」
富岡軍医大尉「大丈夫ですよ。損傷率八割五分。確かに重傷ですが、命に別状はありません」
成田衛生兵「大尉殿!そこの方は一体どなたですか?」
富岡軍医大尉「第113中隊の矢矧少佐だ。どうやらフレイ中佐に九龍少佐の現状を聞いて、驚いて飛んできたらしいな」
矢矧少佐「しかし、一体何故こんなことに・・・」
富岡軍医大尉「どうやら、機銃掃射でやられたらしいですな。矢矧さん、まだ治療中ですから、しばらく外で待っていてください」
矢矧少佐「・・・確かに、そのほうがよさそうですな。了解しました」
そういうと、矢矧少佐は医務室を後にした
上陸部隊本部(大型レイドルキャリアーで輸送したプレハブ小屋数棟で構成)
溝口大尉「しかし負傷車の数が多い。富岡さんも九龍少佐の手当てで忙しいからな」
田辺曹長「九龍少佐はどうやらパレンバンの軍事病院で手当てを行ったほうがよさそうですね」
宇野沢少尉「そのためには、なんとしてでもここを抑えねばならん」
溝口大尉「矢矧さんがいるとはいえ、苦戦を強いられそうだな・・・」
ルナツー司令部
松井元帥「致命的だな・・・九龍少佐がやられるとは・・・」
ティーガー元帥「二個中隊が増援として到着しましたが、こちらに関しては?」
松井元帥「確かに矢矧少佐は強力だ。だが、当初は九龍との共同作戦で行く予定だったんだ。まあ、守備隊の数が減ったのは事実だ。敵さんが引いてくれればいいが・・・」
ティーガー元帥「そう簡単に、撤退しますかねぇ?」
松井元帥「それが疑問な所だが・・・」
ドニゲッテル少将「彼らだって、無益な戦いは好まないでしょう。だとすれば、損害が出れば引いてくれると思いますよ」
松井元帥「少将にしては、消極的な案だな」
ドニゲッテル少将「だって、九龍少佐をも倒す勢いの部隊ですよ!」
松井元帥「確かに強力な相手だが、途中までは戦わなければならん。航空隊が厄介だな。第117航空隊は出せないし・・・」
ユゴス少佐「しかし内部に入ってしまえばこちらのものです。内部へ突入させましょう」
松井元帥「・・・よし、内部へ突入させる。すぐに出撃準備を整えさせる」
矢矧中隊を初めとする援軍とともに、残存部隊は出撃準備を行うこととなった
反撃の準備は整いつつあった・・・
第四十二話 終わり