第七十話 パレンバンからの手紙
そして、ついに敵部隊が強行上陸を果たした
第一防御陣地の機銃、火砲が果敢に砲撃する
機銃はMG08が六丁、MG34が二丁、MG34対空仕様が六丁、2cmFlak38が四丁。あわせて十八丁にも及ぶ
火砲に関してもかの有名な8.8cmFlak36四門配置されているほか、7.5cmFlak四門、3.7cmPak36/37が六門、5cmPak38が四門、5cmFkが六門、7.5cmFk38が二門配備されている
ラフォールス少佐「向こうはざっと三〇〇〇両、こっちは七〇〇両だ。篭城戦で行くぞ!」
この陣地が突破されるまで、どれだけの敵を倒せるか
戦線は我が方が不利。敵も榴弾砲を運んできている
Qシュタイン兵士B「敵も榴弾砲を持っているようですね」
ラフォールス少佐「進んできたものだ。ベータでの反省か?」
ベータでは遠距離攻撃用の砲台が少なかったため、地底戦車に次々と部隊が倒されていった。おそらく、ラファリエス軍もその反省で、遠距離攻撃が出来る榴弾砲を持ってきたのだろう
もっとも、あの時は艦砲射撃があったから、似たようなものだろうが・・・
第三防御陣地も、同じ篭城戦法を取っていた
スターク少佐(車種:M4A3E8)「なんとしてでも死守しろ!それが俺たちに下された命令だ!」
第三防御陣地には、M2重機関銃十二丁、M1919重機関銃十四丁、M1918小銃十四丁といった各種機関銃が配備されている
このうちM2重機関銃はこの基地で配備されている機関銃では最も威力が高く、もっとも戦果が挙げられるであろうといわれた物であった
砲に関してはM3対戦車砲十門、M1対戦車砲十門、M3高射砲八門、M1A1高射砲四門が配備されている
このうち、M3高射砲は対空、対地ともに威力が高く、過去の戦闘においてもことごとく敵機を撃墜したとの記録が残っているほどだ
それゆえに、第二防御陣地に次いで堅い陣地であることには変わりは無い
そのとき、突如として防御陣地入り口を爆風が襲った
スターク少佐「何だっ!?」
傍らにいたライカミング曹長が返答する
ライカミング曹長(車種:M4A1)「隊長、敵の砲撃です!」
スターク少佐「艦砲射撃かっ!?」
ライカミング曹長「いえ、陸上砲台のようです!」
スターク少佐「連中はあれほどの威力を持つ陸上砲台を所有しているのか?!」
ライカミング曹長「・・・どうやら、そのようです!」
敵陣の遠方を見ると、確かに戦艦の主砲塔のような巨大な砲台が見える
そして、その敵部隊が前進を開始している
スターク少佐「機銃、砲陣地応戦始め!死守せよ!」
そう叫ぶや否や、スターク少佐は敵部隊へ突撃を開始した
一方、ラファリエス軍は、28cm砲という艦砲に匹敵する大砲を持ち込んでまでも、敵の防衛陣地を破壊できないことに苛立っていた
この攻撃部隊の指揮官、ケファルス大佐は狙撃手である
狙撃照準機を使って、2500mの遠距離から、第三防御陣地に居座る合衆国軍を狙っていた
突撃してくる部隊の中に、他の車両とは装飾の異なるイージー・エイトを見つけた
後続の車両は通常のM4A1や、M3リー・・・いや、グラントであった
おそらく、部隊の指揮官だろう。照準をその指揮官に合わせる
正射必中。敵のターレット・リングを狙い、撃った・・・
ライカミング曹長は、聞きなれない砲声を聞いた
通常の徹甲弾ではない。ニビリアの精鋭兵が使う、高速徹甲弾に似た音だ
ライカミング曹長「隊長!危険です!」
スターク少佐「なんだっ?!」
しかし、間に合わなかった。ターレット・リングに、砲弾は命中した
ライカミング曹長「隊長!」
しかも、その高速徹甲弾は、いわゆる「高速徹甲榴弾」であった・・・
後続のM4A1が、指揮官と思しきイージー・エイトへと駆け寄った。しかし、そのイージー・エイトは事切れていた
ケファルス大佐(車種:SU−85)「よし、全軍突撃!一気に陥とすぞ!」
指揮官を失い、自慢の統制力を失った合衆国軍を撃破することなど、造作も無い
あっさりと包囲網を形成し、第三防御陣地は陥落した
第二防御陣地に、数両の合衆国軍兵士が駆け込んできた
高須少佐「・・・どうした?!」
ライカミング曹長「第三防御陣地、陥落!・・・指揮官、スターク少佐は戦死されました!」
矢矧中佐「・・・そうか・・・」
溝口少佐「・・・司令、次は我々の番です。スターク少佐の仇を討ちましょう!」
矢矧中佐「・・・そうだな、溝口。よし、俺の直轄分隊と、溝口分隊は入り口近辺にて待機だ」
溝口少佐「・・・今のうちに、写真機で隊員を撮っておきますか」
全員で集合写真を撮るほか、それ以外にそれぞれが一両ずつ写った写真も撮る
溝口少佐「・・・諸君、今回我々はこのパレンバン基地を防衛する任務に当たる。ライトウォーターのときのように、退くことは出来ない。だが、無茶はしてはならない。勇気と無謀は、紙一重だ」
彼らの並んでいるところの前には長い机があり、そこには料理が乗っている
高須少佐「・・・敵襲の前に、食事を済ませて置くように」
溝口少佐「中隊各員へ、何度も言うが・・・死んではならんぞ!」
佐藤大尉 \
日戦軍団兵士 >「ハイッ!」
萬屋大尉 /
宇野沢中尉\
田辺曹長 >「了解!」
佐軒准尉 /
返答も、普段どおりだ
だが、この中で生きて帰って来れるのは、果たして何両だろうか・・・
ベイシャン級大型空母「タイシャン」。ラファリエス軍の誇る大型空母で、その火力は巡洋戦艦に匹敵するという
その空母の格納庫に、普段は入っていない航空機が入っていた
大日本帝国の飛行機のようだ
その飛行隊の隊長が言う
飛行隊長「相手はエンデルス中佐機を撃墜した強敵だ。心してかかれ!」
大日本帝国兵士「了解!」
数十秒後、飛行甲板に三機の九六式艦上戦闘機と、三機の零戦一一型が上がってきた
そして、飛行甲板から発艦。行く先は、無論パレンバンである・・・
Qシュタイン連邦、第341航空隊
指揮官はユーリス少佐。精鋭の飛行隊である
二機のBF−109Gと、二機のFw−190Dが飛んでいる
そこに、六機の戦闘機が襲い掛かった
そのうち二機が一機ずつ単独で行動し、残りの四機はそのまま二機編隊で襲い掛かった
一瞬であった。あっさりと四機の戦闘機は撃墜されてしまった
Qシュタイン航空兵(通信)「隊長!四機の応答が途絶えました!」
ユーリス少佐「なにっ!?」
Qシュタイン航空兵(通信)「六機の大日本帝国軍航空機の攻撃を受け・・・隊長!来ました!」
それから数秒後、その機体からの通信も途絶えた
ユーリス少佐「た、たった六機の敵機に対し、この損害・・・」
どうやら、京城少佐のような精鋭搭乗員が乗っているようだ
ユーリス少佐「京城少佐!燃料補給を早く!」
京城少佐(通信)「こっちも急いでるんですよ!機体整備もそれなりに済ませておかないと・・・」
若干、被弾している機体が数機ほどいるので、それらの修理が必要だったのだ
が、既に整備を完了している機体がいた
そう、プロトン合衆国第133航空隊だった
ラグラ中佐「管制官、発進許可を!」
管制官(通信)「・・・しかし、僅か十八機では・・・」
ラグラ中佐「こちらもそれなりに腕はあります!京城少佐にも勝るとも劣りません!」
彼には熱意があった。管制官もそれを理解していた
管制官(通信)「・・・分かった。離陸を許可する」
ラグラ中佐「ありがとうございます!」
そこに、京城少佐がやってきた
京城少佐「すぐ追いつくんで、持ち堪えてください」
ラグラ中佐「分かってる、そう簡単には墜とされんよ」
かくして、十八機の戦闘機は、パレンバンの飛行場を飛び立っていった
状況は劣勢だった。ラファリエスの航空機とはほぼ互角に渡り合っていたが、大日本帝国の精鋭には対処が困難だった
既に八機ほどが落とされていた
そのとき、ユーリス少佐機に通信が入った
ラグラ中佐(通信)「こちら第133航空隊、日戦軍団航空隊到着まで、援護する!」
ユーリス少佐「・・・どういうことですか?」
ラグラ中佐(通信)「管制官に無茶言って、離陸させてもらった」
ユーリス少佐「・・・さすが、ラグラ中佐。操縦の腕と、熱意はかなりの物ですね」
これで、状況は互角となった
次々と飛来する敵編隊。ラグラ中佐機は華麗に銃弾をかわし、次々と敵機を撃墜していく
数分後、日戦軍団航空隊が到着した
それと同時に、Qシュタイン連邦航空隊は撤退を開始した
京城少佐は、前方に飛来する九六式艦上戦闘機を見た
どうやら、向こうの精鋭らしい
背後を取るが、捻り込みでかわされる
直後、銃弾の雨が降り注いだ
しかし、それをかわし、再び敵の背後につく
敵機、それを捻り込みでかわす
激しい格闘戦が、続いた
援護のために飛来する友軍機も、別の機体に次々と落とされていった
直後、敵機が急降下を開始した
京城機、後を追う
しかし、零戦最大の難点は、機体強度であった
防弾性を高めるために機体強度を上げた烈風、電征とは異なり、零戦、特に一一型は軽量化のために機体強度が低く、急降下時に速度が650kmを超すと空中分解の恐れがあるのだ
だが、敵の九六式艦戦はそうではなかった。結局のところ、振り切られてしまった
日戦軍団は、いつもそうだった。大日本帝国軍の精鋭を幾度か追い詰めたりするが、いつも振り切られてしまう。そうしているうちに、こちらの精鋭は次々と撃墜されていく
皮肉な物であった
九六式艦戦に搭乗する坂井大佐は、五機の僚機を集めた
下手をすると、撃墜されるところであった
杉田大佐(副隊長。車種:五式中戦車)「危ないところだったな」
坂井大佐(車種:五式中戦車)「ああ、あれがエンデルス中佐機を撃墜した強豪だな」
杉田大佐「・・・今度は、ああやって振り切ることは難しいかもしれんぞ」
坂井大佐「ああ、そうかもしれんな・・・」
六機の戦闘機は、今作戦での母艦である「タイシャン」へと戻っていった
基本的に、僚機が撃墜される前に手を引くのが坂井大佐のやり方である。生き延びれば、再出撃は出来るし、経験も積めるのである
この日の彼らの戦果は、戦闘機十六機撃墜、火砲三門破壊であった・・・
方や、ラフォールス少佐の第一防御陣地が後退してきた。負傷車の数が多いことからである
矢矧中佐「みんな怪我だらけだな。よし、要塞の中で・・・」
しかし、若干の弾片を喰らっていたラフォールス少佐は言う
ラフォールス少佐「いえ、自分はここで戦います!」
矢矧中佐「・・・よし、志願車はここで戦え。戦力の足しにもなる」
ラフォールス少佐以下数両の部下は、第二防御陣地に残って防衛戦を展開することとした
見張り台に立っていた兵士が言う
日戦軍団兵士B「敵戦車部隊現出!数四〇〇〇両!」
矢矧中佐「よし、降りて応戦しろ!」
兵士は九二式重機関銃の近くまで降りた。九二式重機は他の機関銃とは異なり、発射釦が側面についているのだ
そして、その機銃陣地は「ベトン」と呼ばれる厚い鉄筋コンクリートで固められた土台の上に建っているのだ
敵は28cm砲まで繰り出してきた。列車砲か何かだろうか。いや、砲台そのものだった
宇野沢中尉「砲撃音から察するに、二八糎連装砲ですな」
歴戦の猛者たる宇野沢は、砲撃音だけで砲の種類を言い当てられるのだ
溝口少佐「厄介な戦力だ。だが、我が機銃陣地のベトンはそう簡単に破れる物ではないだろう」
敵戦車部隊は果敢に攻撃を仕掛けてきた。溝口分隊の配置にも、三年式機関銃が据え付けられた銃座が存在する
溝口少佐「寺島!機銃配置に付け!」
寺島曹長「了解!」
寺島曹長は機銃へ飛びつき、敵へ狙いを定め、射撃を開始した
いくら機関銃対策のために装甲を厚くしているQタンクといえども、連射されてはひとたまりも無い
正面装甲に数十発もの命中弾を受け、吹き飛ぶ敵兵
ここが落ちればパレンバンの陥落はほぼ必至。いくら詰めに「敷島」がいても、最後の抵抗にしかならないだろう
溝口少佐「伊沢!給弾は貴様に任せた!」
伊沢一等兵(車種:一式中戦車)「了解!」
三年式機関銃も、当然弾数には限りがある。弾帯は彼らのいるトーチカのすぐ下に置かれていた
接近する敵戦車。無数の銃弾が敵戦車に襲い掛かる
次々と炎上する敵戦車
日戦軍団兵士B「喰らえっ!」
銃弾、次々と敵戦車を撃破する
杉山大尉「撃てぇ!」
一門の一式機動四十七粍速射砲の指揮を執っている、杉山大尉が叫ぶ
放ったタ弾は敵戦車の側面装甲に直撃、爆発する
後続、もう一両に照準を合わせる
日戦軍団兵士C「装填完了!」
杉山大尉「撃てぇ!」
もう一両、炎上する
敵は我が方の数倍はある。しかし、精鋭部隊たる日戦軍団の奮戦により、戦線は膠着状態となった
さて、この四〇〇〇両もの敵兵は、ラファリエスの第二上陸作戦部隊であった
指揮官ケファルス大佐は自走砲、SU−85である
高射砲改装の85mm砲は、大抵の戦車を破壊できる威力を持つ。無論、それなりの徹甲弾が必要だが
彼を筆頭にSU−85が三両、SU−76が三両が、狙撃班として部隊後方に居座っている。無論、この六両以外にも司令直轄の二〇両が存在している
ある程度援護射撃を行った後、本来の狙撃任務に移る
狙うは司令室、砲座、機銃座である
照準機に榴弾砲を捉える
そして、撃つ。必中、近くに置かれていた砲弾を巻き込み、榴弾砲は爆発した
直後、果敢に奮戦していた十二糎榴弾砲が、砲弾を受け爆発したのだ
宇野沢中尉「・・・高速徹甲弾か?!」
威力と砲声から、またも弾種を特定した
溝口少佐「ひるむな、寺島!」
寺島は絶えず引き金を握っている
その傍らで、分隊員の伊沢一等兵が弾帯を込めている
直後、別の機関銃が爆発した
続いて、またも榴弾砲が爆発する
・・・今度はこっちか!?
だとしたら、寺島が危ない!
弾帯を取りに行った伊沢はいいが、引き金を握っている寺島は・・・
溝口少佐「寺島!退避だ!」
直後、砲声が響いた
爆発する機銃座
佐藤大尉「寺島ぁぁーーーー!」
しかし、寺島は銃座の後方に突き飛ばされていた
寺島曹長「・・・隊長が、隊長が身代わりになって・・・」
田辺曹長「なにっ、隊長が!?」
確かに、三年式機関銃の残骸の傍らに、溝口少佐はいた
重傷を負っていた
そこに襲い掛かる、三両のW号戦車。敵兵だ
一斉に砲撃を開始した
二発は外れる。しかし、もう一発は・・・
佐藤大尉「隊長!」
直後、一両の一式中戦車が、溝口少佐の前に立ちはだかった
田辺曹長だった
溝口少佐「・・・田辺!」
弾帯を持ってきた伊沢一等兵も、それに気づいた
田辺曹長「伊沢!俺に構うな!」
伊沢一等兵「しかし・・・」
佐藤大尉「宇野沢、寺島、隊長を運ぶぞ!」
佐藤大尉、九〇式発煙弾を放つ。敵戦車三両、射撃を中止する
その間に、三両がかりで溝口少佐を持ち上げる
佐藤大尉「・・・萬屋、田辺、佐軒、無茶はするな。死ぬなよ!」
萬屋大尉「・・・無論です!」
伊沢一等兵「自分と鳥井、及び池内も、ここに残ります!」
佐藤大尉「ああ、分かった。隊長の言ったとおり、死んではならんぞ!」
陣地の上で、徹甲榴弾を連射する萬屋大尉たち
襲い掛かる戦車の群れに対し、果敢に反抗する
だが、田辺曹長は既に重傷を追っていた
萬屋大尉「田辺、おまえも医務室に行った方がいい。隊長が言ってたじゃないか。死んではならんぞ、って」
田辺曹長「・・・自分はもう助かりません。戦場で死ねるなら、本望です!」
・・・助けられないのか
これほどの奮戦があっても、戦友を助けることは出来ない。どんなに、頑張ったとしても・・・
田辺曹長の傍らで、徹甲榴弾を乱射する萬屋大尉は、そう思っていた
一方で、帝国勢力側も、第二防御陣地の予想外の奮戦に驚いていた
ザイガン中将(上陸総指揮官。車種:T−10)「手前の陣地は楽勝だったが、さすがに後詰は手強いな・・・」
参謀「・・・前線からの報告では、日戦軍団のようです」
ザイガン中将「キュワール最強の陸戦部隊、だったか・・・よし、例の最新鋭狙撃砲を準備しろ」
司令部は、精密射撃が行える24cm砲の使用を決定した
この司令部から、第二防御陣地までは6kmある。しかし、それでも誤差数cmに押さえられるというのが、24cm砲の精度であった
照準、防壁に定まる。そこは、溝口分隊が最後の奮戦をしていたところであった・・・
防壁に備え付けられた通信機から、矢矧中佐の声が聞こえる
矢矧中佐(通信)「敵が陣地から大口径砲を用いた精密射撃を行うようだ!総員、退避しろ!」
だが、既に砲声が聞こえた
萬屋大尉「敵陣、発砲!」
間に合わないか。すまない、佐藤・・・
田辺曹長「大尉殿ぉぉ!」
直後、田辺曹長が掴み掛かり、本部の方角へと、萬屋大尉を投げ飛ばした
萬屋大尉が着地したのは、本部の近くだった
直後、爆発が防壁を襲った
九二式重機を構えていた兵士が駆け寄ってくる
日戦軍団兵士B「萬屋大尉!?」
萬屋大尉「田辺ぇぇーーーーー!」
防壁は、瓦礫と化していた・・・
砂原少佐「・・・萬屋、どうした!?」
萬屋大尉「田辺たちが、あの防壁にいたんです!」
砂原少佐「そうか・・・」
瓦礫から何とか起き上がった佐軒准尉は、他の隊員を探した
伊沢一等兵「佐軒准尉!」
背後から、伊沢一等兵の声が聞こえた
鳥井一等兵(車種:一式中戦車)「我々は無事ですが・・・」
佐軒准尉「田辺と池内はどうした!?」
瓦礫の間から砲身が見える
伊沢一等兵「おそらく・・・」
瓦礫をどけてみると、田辺曹長の姿があった
佐軒准尉「田辺!田辺!応答しろ!死んではならん!田辺ぇぇーーー!」
田辺曹長の応答は、無かった・・・
直後、佐軒准尉は、言葉にならない濁音の叫びを上げながら、敵部隊へと突っ込んでいった
伊沢一等兵「佐軒さん!?」
鳥井一等兵「そ、そんな、無茶ですよ!」
二両が止めたが、遅かった
既に叫び声は、砲声へと変わっていた・・・
一方、もう一両の行方不明車、池内一等兵はというと、敵の一個小隊が迫る地面へと落下していた
ここで捕まるわけにはいかない。全速力で退避する
途中、叫び声を上げつつ全速力で走る戦車のような物とすれ違い、崩落地点へとたどり着いた
そこにいたのは、伊沢一等兵と鳥井一等兵であった
池内一等兵(車種:三式中戦車)「・・・今のは、一体?」
伊沢一等兵「・・・佐軒准尉です」
鳥井一等兵「我々が止めましたが、もう遅かったです・・・」
佐軒准尉は、通信機を持たずに敵部隊に突っ込んでいったのだ・・・
ついに艦砲射撃も始まった
矢矧中佐「・・・これ以上の損害は避けるべきだな、高須君」
高須少佐「そうですな。残念ですが、第二防御陣地は放棄しましょう。列車隊と共同で、残る敵を撃退しましょう」
第一一五中隊の後退も、砂原少佐の手によって始まっていた
溝口少佐も医務室へと運ばれていた
そのとき、伊沢一等兵が駆け込んできた
伊沢一等兵「・・・矢矧司令!」
矢矧中佐「どうした?!」
伊沢一等兵「防壁の爆発に巻き込まれて、田辺曹長は戦死、佐軒准尉は敵部隊に特攻し行方不明です!」
田辺曹長の遺体は、伊沢たちによって運ばれたが、通信機さえ持たずに特攻した佐軒准尉は依然行方不明である
いや、厳密には隊員携行の小型通信機は持っていたのだが、あいにく電源が切れていたのだ
持ち運べるだけの火器と弾薬を持ち運んで、第二防御陣地は放棄された
一方、消息を絶った佐軒准尉である
彼は一五〇両の敵一個小隊に奇襲をかけたのである
佐軒准尉「・・・貴様らぁ・・・よくも、田辺を・・・!」
半ば、発狂していた
砲撃を受け、一両の敵戦車が吹き飛ぶ
さらにもう一両、もう一両。次々と破壊されていく
敵兵はそれを見て、驚いて逃げ出していった
しかし、それを追跡する佐軒准尉、一両たりとも、残さなかった・・・
そして、たった一両で、一五〇両もの小隊を壊滅させてしまったのだ
気づけば、そこは放棄された第一防御陣地近辺であった
佐軒准尉「ここは・・・第一防御陣地か・・・」
何とか戻ろうとするが、車体がうまく動かない
どうやら、疲れてきたようだ
しかし、倒れるわけにはいかない。既にここは敵陣だ
そのとき、再び砲声が響く
さっきの小隊の残党のようだ
ラファリエス将校「これだけやって、ただで済むと思うな!」
敵兵は、一斉に攻撃を仕掛けた
しかし、佐軒は砲弾をかわし、次々と敵兵を倒していった
そのとき、一発の砲弾を履帯に受けた
そして、行動不能となった
敵兵、止めを刺そうとする
しかし、その敵兵も破壊された
敵兵を撃破したのは、高速で走ってくる、連合軍の戦車隊であった
残存する敵兵は、撤退した
分隊長(車種:パンターD型)「・・・大丈夫か?」
応答は、無い
隊員A「・・・生きてるんでしょうかね?」
隊員B「・・・気を失ってるだけだと思いますが・・・」
分隊長「よし、本隊まで運ぶぞ!」
隊員たちは、佐軒准尉を担ぎ上げ、本隊へと運んでいった・・・
沖合いには、増援を運んでいる敵の揚陸艦の姿があった・・・
報告は、逐次松井元帥の下に届けられていた
松井元帥「・・・そうか、田辺が・・・」
佐藤大尉(通信)「立派な最期でした・・・」
松井元帥「・・・これ以上の犠牲は、防がなければならない。もっとも、奇麗事が通じる世の中ではないことは、分かっているな?」
佐藤大尉(通信)「無論です。列車隊の応戦準備は完了しております」
松井元帥「あれで、一矢報いてくれたまえ」
そのとき、大島二等兵が駆け込んできた
大島二等兵「司令!なにやら怪事件が発生したとの事ですが・・・」
松井元帥「怪事件?また帝国勢力か、連中のスパイか?」
大島二等兵「いえ、そういうわけではないようです・・・」
なんでも、遺体の護送を行っていた平岡二等兵が叫び声を上げたという
まさか、基地内に怪物でも現れたか?
松井元帥「・・・わかった。少将、後は頼んだ」
ドニゲッテル少将「了解!・・・空軍どもに、気をつけてください」
松井元帥「・・・言われんでもわかってる。少将も気をつけろよ」
ドニゲッテル少将「了解しました」
松井元帥は大島二等兵と共に、通路を走っていった・・・
さて、ベータ基地において起こった「怪事件」。つまり、半透明で空中浮遊する特二式内火艇である
平岡二等兵「お・・・おまえは・・・まさか・・・幽霊という奴かっ!?」
半透明の特二式内火艇・・・つまりは、平岡上等兵は、返答する
平岡上等兵「・・・どうやら、そういうことのようだ・・・」
周りの兵士たちは、どうも不可解な目で平岡二等兵を見ている。平岡上等兵が見えていないようだ
だが、「奴には普通のチョロQには見えないものが見えるのだろう」と解釈したのか、普通に作業を行っていた
結局のところ、二両(?)は兵舎へと向かった
そして、二両はいろいろなことを話した
無論、さっきのように不可解な目で見られると困るので、近距離通信機を使っている
平岡上等兵「陸戦科から通信科に転属したんだが、結構うまいこといってな、通信隊で戦友が三〜四両出来たよ。藤田とは特に馬が合ってな、松井司令もそれが分かってたみたいで、いつも俺と藤田は同じとこに配属されてたんだ」
平岡二等兵「・・・その、藤田ってのは・・・」
平岡上等兵「・・・俺が死ぬ前まで、一緒にいた通信兵だ。まだ昇進してないなら、階級は上等兵。風の便りじゃ、今はライトウォーターにいるそうだ・・・」
平岡二等兵「藤田上等兵・・・ああ、確か『奇跡の直属通信兵』と言われていた・・・」
平岡上等兵「ああ、そいつだ。それでよ、ベータ基地に外惑星連合とかいう連中の大部隊が押し寄せてきて、何とか持ち堪えてたんだけど、頼りになってた地底戦車が破壊されちまって、ベータはあわや陥落といったところだった・・・」
―――――――――――――――――
平岡上等兵「司令!敵襲です!」
司令室の上空には、敵機が大量に飛来していた・・・
ドニゲッテル少将「第875航空隊は?!」
Qシュタイン兵士C「燃料補給で着陸中です!」
ドニゲッテル少将「畜生、肝心な時に使えん奴らだ!」
精鋭の飛行隊も、燃料補給中。空の守りがいなくなったベータ司令室は、無防備に等しかった・・・
ユゴス少佐「これはまずいですね・・・」
さらに、レーダーを監視していたモヴァーク二等兵が、とんでもねぇ話を持ち込んできた・・・
モヴァーク二等兵「ベータ沖に艦影!」
藤田上等兵「・・・260・・・270・・・280・・・290・・・300隻以上、輸送船級は内60隻程度!」
沖合いに、友軍艦はただの一隻もいなかった・・・
平岡上等兵「奴ら、占領に時間食ってるから、援軍呼んできたのか・・・」
モヴァーク二等兵「何ですか?!」
藤田上等兵「敵襲だ!シュトルモビクが来た!」
Qシュタイン兵士C「敵機、急降下!」
平岡上等兵「避けろ!」
俺が叫んだが、間に合わなかった・・・
藤田上等兵「少将!」
煙の後に、少将たちの姿は無かった・・・
平岡上等兵「一気に指揮官がやられちまったか・・・」
藤田上等兵「だが、俺たちの任務は終わっちゃいない!」
そのとき、電探に光点が見えた。高速で進んでいた
モヴァーク二等兵「ミサイルだ!」
平岡上等兵「そんなこと叫んでる場合か!」
俺はとっさに叫んだ
平岡上等兵「退避!」
そして、最大の戦友へと近づいた
平岡上等兵「藤田!」
藤田上等兵「平岡!」
平岡上等兵「藤田!俺は間に合わない!お前だけでも・・・」
言い終わる前に、凄まじい爆風が、俺たちを引き離した・・・
藤田上等兵「平岡!平岡!平岡ぁぁーーーーー!」
―――――――――――――――――
平岡上等兵「それで、俺はこんな風になって、ベータ基地をうろついてるわけだ。どうせ普通のチョロQには見えないわけだし・・・」
そのとき、二両のQタンクとすれ違った
松井元帥と大島二等兵であった
二両の「平岡」はとっさに敬礼した
松井元帥「搬送、ご苦労・・・」
平岡二等兵の後ろに、見覚えのある特二式内火艇がいた
松井元帥「それと、後ろにいるのは、通信科の平岡上等兵だな?」
平岡上等兵「自分が、見えるのですか!?」
松井元帥「当たり前だ。そうでなけりゃ、話し掛けるわけ無かろう」
全く、思わぬ再会である
松井元帥「もし、これで実体があれば、最高だったのだがな・・・」
平岡上等兵「全く、皮肉な物です」
この間、平岡二等兵は取り残されていた
平岡上等兵「まあ、自分以外にも、似たようなのが大勢いるんですがね。自分は、存在感と、未練がありますから・・・」
松井元帥「・・・俺のそばで死ねなかったことか?」
冗談交じりで、言った
平岡上等兵「・・・それだけじゃ、ありません・・・」
松井元帥「だろうな。藤田や勝山のことだろ・・・」
大島二等兵「・・・すいません、そろそろ隊に戻る時間なので・・・」
平岡二等兵ともども忘れ去られていた大島二等兵が言う
松井元帥「ああ、すまんな、大島」
大島二等兵は、先に基地へと戻った・・・
その後、兵舎の前へとたどり着いた
平岡上等兵「・・・どうやら自分は、この同じ苗字の二等兵からあまり離れることが出来ないみたいなんで、兵舎のほうにいないといけないようです」
松井元帥「ああ、分かった」
二両の「平岡」は、松井元帥と別れて、兵舎へと入っていった
そして、その夜・・・
平岡二等兵「・・・俺って、なんか大変なことに巻き込まれてる?」
兵舎の二段ベットに横たわりながら、平岡二等兵は呟いた
「紀伊」の艦橋に戻った松井元帥は、司令室の机に置かれていた写真を見た
松井元帥「・・・田辺・・・佐軒・・・」
溝口分隊の写真である。もう、彼らと並んで、写真を撮る事さえかなわないのか
別の分隊の写真もある。速射砲の指揮を執っていた杉山分隊だ
杉山分隊もかなりの損害を受けたそうだ
松井元帥「・・・すまない・・・俺が援軍を送ってやらなかったばっかりに・・・」
そのとき、扉を叩く音がした
松井元帥「入れ」
入ってきたのは、伊原航海長であった
伊原少佐「司令、補給が完了したのはいいんですが、みんなパレンバンに出たがるんです・・・」
あれほどの損害があったのだ。これ以上の損害を避けるために出撃したがるのも無理も無い
松井元帥「だろうな。俺も、パレンバンへの出撃を考えていたところだ」
・・・これで、もし列車隊でさえも敵の進撃を止められず、パレンバンが陥落するとなれば、犠牲車はスターク少佐や佐軒たちだけでは済まないだろう・・・
松井元帥「通信長へ、ティーガー元帥と藤田をベータ基地まで呼んできてくれるよう、頼む」
伊原少佐「・・・藤田上等兵もですか?」
松井元帥「・・・ああ。ライトウォーター基地はまだ暫定配置だったからな。ティーガー元帥もそろそろ、怪我が治る頃だし・・・」
通信長「司令、輸送船団より通信です」
天城大尉(通信)「こちら天城。現在船団の状況は良好。諜報員もいないようなので、ひとまずは安心です」
松井元帥「ああ。だが、デヴォリアが攻撃を受けんとは限らん。既にセイロン近辺において艦隊戦が発生しているからな・・・」
天城大尉(通信)「まあ、そうなったら今度は我々の番です。覚悟は出来ています」
松井元帥「・・・分かった。だが、一つだけ言っておく・・・死んではならんぞ!」
天城大尉(通信)「ハイッ!」
友軍の輸送機が飛来する
次の便で、残りの増員が向かってくるだろう
そのときが、我々の出撃のときである・・・
第七十話 終わり