第六十話 決死の輸送隊
ベータ基地第一次空襲こそ耐えたものの、次のベータ沖戦で敗北、上陸戦に関しては善戦するも、地底戦車が破壊されたことにより再び形勢逆転、不利になり、司令部が破壊された今、もはや指揮系統など無いに等しかった
パレンバン司令部
勝山上等兵「・・・それで、藤田さんは?」
ディール二等兵「ライトウォーターからの通信によれば、損傷率は98%らしいです」
勝山上等兵「・・・ベータ司令部要員は、全滅ですか・・・」
ボルナソス大佐「いや、生きているよ」
勝山上等兵「え?」
ボルナソス大佐「藤田は生きている。なんとなく、そう思えるんだ」
ディール二等兵「・・・どういう・・・ことですか?」
ボルナソス大佐「あいつは、ここにいた頃から丈夫な奴だったからな」
常に松井元帥の行くところに派遣されてきた藤田上等兵は、やはりパレンバン基地に所属していた時期があった
ボルナソス大佐「司令部に砲弾が飛び込んだときも、あいつは無事だったからな・・・」
ディール二等兵「そういえば、前にそんな話があったような・・・」
パレンバン沖、「紀伊」が奮戦していた時、司令部に一発の流れ弾が飛び込んできた
ほとんどの通信員が負傷したが、藤田だけが無傷だった
ボルナソス大佐「何かと、あいつは運がいい奴だったからな。ここで死ぬとは思わない」
ボルナソス大佐は、遥か遠くにある、ベータの方角を見つめていた・・・
ベータ基地
西田大佐「司令部がやられた?!」
大塚中尉(通信)「はい、ドニゲッテル少将によると、爆弾一発、ロケット弾二十発前後、マーヴェリックと思しき艦対地ミサイル二発の直撃により、司令部は全壊、藤田上等兵以下、通信隊はおそらく全滅とのことです」
大島二等兵「藤田さんが?!」
大塚中尉(通信)「・・・大島、どうやら、そのようだ」
大島二等兵「平岡さんは、どうなんですか!?」
大塚中尉(通信)「・・・・・・分からない」
大島は、ベータ第一次空襲時に、平岡と共に、重傷を負った勝山を搬送したのである
西田大佐「藤田が行方不明なんだ。平岡も助からんだろう」
大島二等兵「そ、そんな!」
西田大佐「・・・これが、戦争だ。我々は戦場に赴くからに、こういうことを覚悟せねばならない」
大島二等兵「・・・・・」
すると、先ほど到着した第58連隊左方戦力の司令、サーナイト少佐がやってきた
サーナイト少佐「西田大佐!」
西田大佐「君は、確か第58連隊の・・・」
サーナイト少佐「司令部が壊滅した今、各部隊ごとに独自で行動をとらなければならないようです。しかし、我々も軽戦車部隊ゆえ・・・」
西田大佐「どうやら、君の部隊と共同で戦うことになるようだな」
サーナイト少佐「階級と経験から、西田大佐に指示願います」
西田大佐「了解。これより本隊は、ベータ基地守備のため行動に移る」
「行動に移る」とは言ったが、行動自体が不可能であろう
司令部が壊滅した今、外部からの情報が全く入って来ない
従って、いつ援軍がやってくるのかが全く分からなかった
最後に伝わった情報は、輸送機の手配が進んでいるということ、援軍の指揮官は大西准将であることであった
方や、要塞内部の第501中隊である
真上で物凄い爆発音を聞き、隊員たちは本隊壊滅を覚悟した
音は、司令部の方角であった
Qシュタイン連邦、第501中隊に所属する、フェルデ曹長は、他の隊員たちが騒ぎ出すのを聞いた
フェルデ曹長(車種:W号戦車F2型)「そう騒ぐな!基地が陥落したわけじゃない!」
ローレル大佐(第501中隊司令。車種:パンターG型)「先ほど、西条中佐に、設営隊員を連れて第一飛行場に集合するように打電しておいた。地下格納庫なら大丈夫だ!」
第一設営隊の指揮は西条中佐が担当している。彼なら要領よく第一飛行場地下格納庫に全員を収容するだろう
第一飛行場 地下格納庫
西条中佐「急げ!早くしないと貴様らの身が危ないぞ!」
斎藤中佐「一体何なんですか?」
西条中佐「司令部がやられたってのは分かるな?」
斎藤中佐「はい、あれでは全壊は確実・・・まさか!」
西条中佐「地下格納庫は、基地で一番防御が堅い場所だったな?」
斎藤中佐「了解しました!」
そして、全員の収容が確認された
ローレル大佐「ビューシンク大尉、格納庫防衛隊の指揮を頼む」
ビューシンク大尉(車種:V号戦車H型)「了解しました!」
フンケ中佐「我々も、防衛を担当するが、何分陸戦はあまりやったことが無いのでな。諸君に任せるよ」
第875航空隊の航空兵も、ここの防衛を担当することになった
弾薬類は所持していなかったため、武器庫にあったものが支給された
ビューシンク大尉「しっかり、頼みますよ」
フンケ中佐「一応タンクだからな。ある程度の陸戦はできる」
ビューシンク大尉「まあ、お互い頑張りましょう」
フンケ中佐「そうだな」
後は、富岡大尉以下救護班だ。医務室に残っているらしい
ローレル大佐以下100両で、迎えに行くことになっている
ローレル大佐「よし、出発だ。地図はあるな?」
ケーベ上等兵(車種:W号戦車F2型)「はっ!」
ローレル大佐「・・・・結構遠いんだな。まあ、まだ敵はいないが、いつ現れるか分からん。早めに行くぞ」
と、医務室に向かい進み始めた。そのとき、ふとあることを思い出した
ローレル大佐「・・・司令部の状況が分からないままだったな。全壊は確実と見られているが、生存車がいるかも知れん。フェルデ曹長、ケーベ、タトラ両上等兵、司令部の調査を頼む」
フェルデ曹長「了解!」
三両のW号戦車F2型に、司令部での捜索活動を頼んだ
一方、第231特科分隊、第253小隊、そして第58連隊のフェラーリ中将以下十両は、ドニゲッテル少将たちを救出した大塚中尉たちと合流した
村山大尉「大塚、どうだった?」
大塚中尉「ドニゲッテル少将と、ユゴス少佐を救出しました!」
ドニゲッテル少将「村山大尉、ご苦労だった」
村山大尉「はい。しかし、地底戦車がやられてしまいましたね」
ドニゲッテル少将「ライトウォーターから予備が来ると聞いたが?」
大塚中尉「この猛砲撃では無理でしょう」
ユゴス少佐「援軍は来るみたいですが、司令部が全壊した今・・・」
フェラーリ中将「全壊?!」
ドニゲッテル少将「藤田達も助からんだろう・・・」
大塚中尉「藤田上等兵が?!」
フェラーリ中将「通りで本部からの連絡が途絶えたかと思いました」
ドニゲッテル少将「一旦、要塞側面部に後退、援軍到着まで待機せよ」
村山大尉「了解!」
ドニゲッテル少将の指揮下に入った第231特科分隊、第253小隊、第58連隊一個分隊は、要塞側面部へと後退した
一方、ウルタンク帝国軍である
ウルタンク将校「くそっ、全く貫通しない!」
戦艦の砲撃にも耐えるとされる防弾シャッターに、通常の砲撃など通用するはずも無い
ライト中将(第455大隊司令。車種:ティーガーU)「まだ出来んのか?」
ハリス准将(第352大隊司令。車種:P40重戦車)「これでは無理ですね」
ライト中将「貫通できん、ということか」
ハリス准将「そうなりますね」
ウルタンク将校「通常砲撃では通用しません」
ライト中将「・・・・・・」
ハットン少将「手を貸しましょうか?」
ライト中将「ハットン少将、すまん」
ハットン少将「例の特殊砲弾ですな。了解」
カルオス軍の特殊砲弾攻撃で、ようやく効果が出始めたようであった
それでも、貫通には時間がかかりそうだ
松井元帥からの通信が途絶えたのは、そのときだった
多分、ライトウォーターの皆は、自分が死んだと思っているだろう
何しろ、あんな感じで途絶したのだから
藤田上等兵「・・・ライト・・・ウォーター・・・司令部・・・松井総帥、応答・・・してください・・・」
松井元帥からの応答は、無い
藤田上等兵「・・・司令部・・・応答を・・・」
確かライトウォーターには、教官だった川島兵長がいたはずだ
藤田上等兵「・・・川島・・・兵長・・・・」
何度か呼びかけて、通信機の電子機器郡を眺めた
通信機の電源が点いている事を示す、電源ランプが消えていた
藤田上等兵「・・・・遂に・・・壊れたか・・・」
そして、壁に寄りかかった
もう、自分が助かることは無いだろう
傍らに横たわった、平岡の遺体を眺めながら、そう思った
藤田上等兵「・・・平岡・・・」
日戦軍団のチョベリング基地・・・当時は総司令部だったところで、同じ通信科に転属してきた、十両の兵士
その中の一両が、平岡だった
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CQ暦235年 チョベリング司令部
川島上等兵「平岡、上達してきたな」
平岡二等兵「はい、以前からこういうのは得意だったので」
藤田二等兵「前線に行く時には、もっと上達してるだろうな」
平岡二等兵「だろうな、まあ、ここも総本部だからな」
川島上等兵「国際状況は悪化しつつある。いずれは帝国と戦わねばならん。そうなると、我々通信科が重要になるわけだ」
藤田二等兵「確かに、前線の状況をすばやく、ここに送るわけですからね」
平岡二等兵「機械の整備をしておかないと、情報が伝わらずに、まともな司令が出せず、間接的に我々が友軍を痛めつける結果になりますな」
川島上等兵「整備も、我々が担当するわけだから、当然だな」
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藤田上等兵(職務時も・・・なかなか、上手いことを・・・言っていたものだ・・・)
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CQ暦244年 ドガスデン基地
平岡一等兵「藤田、聞いたか!?」
藤田一等兵「ああ、ストマニカで、QQQQの将校が荷電粒子砲を放ったんだろ?」
平岡一等兵「今グリシネの本部で、松井総帥と参謀達が話してるらしい」
藤田一等兵「橋本だっけ?あの政治家が、圧力をかけてたって噂だ」
平岡一等兵「国家元首の高柳ってタンクも大変だろうな。上層部は皆『高』の字がついていたから、『国内に異変は無いだろう』と多寡をくくっていたに違いない」
藤田一等兵「全く、お前は洒落が上手いな」
平岡一等兵「たまたまだ、たまたま」
溝口中尉「通信科!冗談を言ってる場合じゃないぞ!」
藤田・平岡両一等兵「はっ!」
溝口中尉「うむ、よろしい。さすが本部の回し者、返答はいいな」
平岡一等兵「本部の回し者なんて無いですよ。せめて派遣通信兵と呼んでください」
佐藤少尉「確かに、回し者は無いですな、隊長?」
溝口中尉「こら、よってかかって俺に総攻撃するな!」
平岡一等兵「溝口中尉、発言には注意したほうがいいですよ」
溝口中尉「おい!平岡!」
藤田一等兵「溝口中尉、もうやめましょうよ!」
宇野沢曹長「そうですよ!藤田が言っている通り、このダジャレ合戦している間に、最前線では凄まじい戦いが繰り広げられています。いつ我々が最前線に派遣されるか分からないんですよ!」
溝口中尉「・・・すまん、宇野沢」
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藤田上等兵「・・・溝口大尉・・・」
当時、ドガスデン基地所属だった溝口は、彼らととても仲が良かったのだ
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CQ暦340年 ブラウメーア基地
藤田上等兵「放射能?」
平岡上等兵「ああ、ここの基地が荒れてるのは、グンナの核実験の放射能がここまで流れ着いたかららしい。ようはとばっちりだ。そのせいで戦争がはじまっちまうなんてなぁ」
藤田上等兵「そうだな。今、軍令部で海軍主力艦隊の派遣も予定されているらしいぞ」
平岡上等兵「艦隊か。でもグンナの戦力が相手じゃ、勝ち目は無いかもしれんぞ」
藤田上等兵「プロトン空軍だっているんだ。それに、しばらくは攻め込んできた戦力を叩く程度だ。大して激しい戦いにはならないと思うが・・・」
平岡上等兵「攻め込んできた戦力が大きかったら、だな」
藤田上等兵「それこそ、敵味方ともに大損害が予想できるな」
平岡上等兵「まあ、俺達の任務は通信だ。迅速に通信を、グリシネの本部に通達する、それが俺達の任務だ」
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藤田上等兵(・・・・でも、時には・・・真面目だった・・・)
Qターレットのブラウメーアでも、グンナ艦隊襲来の情報を直ちに伝え、ターレットシティへ向かい撤退したものだ
数時間前まで、自分達は一緒に、司令部にいた
数時間前までは・・・
藤田上等兵「・・・俺より・・・堅い・・・奴が、俺より・・・先に・・・死んじまう・・・なんて・・・」
もう、平岡と、この司令部で、語り合うことは、出来ない
藤田上等兵(しかし総帥は、俺が死ぬことを、望んではいない)
助けは、来るのだろうか
藤田上等兵「・・・・無理だろうな・・・」
その時、話し声が聞こえた
幻聴だろうか
しかし、だんだんと大きくなる
本当に、誰かがいるのだろうか?
藤田は、近くにいたはずの、モヴァークというレーダー員を見ようとした
しかし、その方角には、瓦礫の姿があった
どうやら、通信機器が壊れたのは、瓦礫の崩落らしい
瓦礫の中では、誰も見つけることは出来ないだろう
しかし、かすかな希望を信じ、瓦礫の隙間から、通路を見た
三両のW号戦車、フェルデ曹長、ケーベ上等兵、タトラ上等兵は、司令部の姿を見て愕然とした
フェルデ曹長「道でも、間違えたか?」
ケーベ上等兵「・・・地図では、確かにここなんですが・・・」
タトラ上等兵「・・・あれは?」
見れば、通信機のようなものが、いくつか残っていた
レーダーの表示板と思しきものもあった
フェルデ曹長「・・・司令部・・・らしいな・・・」
とりあえず、周辺の瓦礫をどけることにした
瓦礫をどけていると、何両かの戦車の「残骸」があった
すると、ケーベ上等兵が、何かを叫んでいた
ケーベ上等兵「モヴァーク!」
事切れたU号戦車c型を見て、彼はそう言った
司令部付き兵士のリストを見れば、確かに「モヴァーク」の名はあった
モヴァーク二等兵、数日ほど前に重傷を負ってパレンバンへ搬送された、勝山一等兵・・・今は上等兵か。彼の代役として派遣された兵士である
通信科教習所を出て間もない、若き兵士であった
ケーベの親友だったらしい。ケーベは陸戦部隊だから、地元付き合いだろう
直立し、泣いている彼の姿を見て、フェルデは言った
フェルデ曹長「・・・タトラ、俺達だけですませよう」
タトラ上等兵「・・・了解しました」
2両は、一旦ケーベから離れたところで、作業を行うことにした
隙間から見えたのは、三両のW号戦車だ
一両は、直立して泣いている
おそらく、松井総帥も、少し前はこんな状況だっただろう
何かを言おうとしたが、上手く言うことは出来ない
もう、だめだろうか
いや、自分で「基地は諦めないで下さい」と言ったんだ。ここで諦めてはならない
力を振り絞り、言いたいことを言った
藤田上等兵「・・・助けて・・・くれ・・・」
フェルデ曹長「・・・・なんだ?」
タトラ上等兵「どうしました?」
フェルデ曹長「あのあたりで・・・何か聞こえたんだ・・・」
タトラ上等兵「生存車がいるかもしれません!行ってみましょう!」
そして、瓦礫をどけると、二両の兵士がいた
一両、特二式内火艇は、事切れていた
フェルデ曹長「・・・死んでるな・・・」
リストを見ると、特二式内火艇は平岡という上等兵らしい
日戦軍団のエリート通信兵らしい
しかし、壁に寄りかかった、九四式軽装甲車は、まだ息があった
フェルデ曹長「生存車だ!」
フェルデは、思わず、そう叫んだ
隙間が開き、二両のW号戦車が近づいたのは、そのときだった
一両、おそらくまとめ役だろう。その戦車が、生存車だ、と叫んだ
もう一両が、近づいてきて、こういった
タトラ上等兵「大丈夫ですか?!」
既に、何も言うことは出来ない
フェルデ曹長「ケーベ!その辺に救護用具入れがあったはずだ!」
ケーベ上等兵「・・・これですか?」
フェルデ曹長「担架を持って来い!」
ケーベ上等兵「・・・了解!」
司令部付きの兵士は、自分以外、全員死んでいたらしい
大勢の兵士が、死んだようだ
そして、担架に乗せられた
医務室に運ぶらしい
医務室では、ローレル大佐たちが、富岡大尉と合流したところだった
フェルデ曹長「司令!」
ローレル大佐「フェルデ曹長!生存車がいたようだな!」
フェルデ曹長「はい!しかし重傷を負っています」
富岡軍医大尉「重傷?!ローレル大佐、撤退する前に、一旦彼の手術をさせてください!」
ローレル大佐「了解!」
何しろ、大尉ではあるが名医として知られる富岡の発言である。逆らうことは、兵士を見殺しにすることになる
そして、無事手術が完了した
しかし、既に医療設備がまともにつかえない状況下だったため、未だ危険である
富岡軍医大尉「ローレル大佐、確か、援軍は輸送機でやってくるんでしたよね?」
ローレル大佐「ああ、はい。確かにそうですが・・・」
富岡軍医大尉「着陸するのはどこの滑走路ですか?」
そのとき、ローレル大佐は確信した。藤田を別の基地の軍事病院に搬送しようとしているのを
無茶な作戦だとは思ったが、松井元帥の大事な部下、いや、それ以前に1両の「重傷車」だ。見殺すことは出来ない
ローレル大佐「第五滑走路です」
富岡軍医大尉「了解しました。成田、一緒に来てくれ」
成田衛生兵「了解!」
成田以下数名ほどの兵士が、担架を持って、富岡軍医大尉と共に第五滑走路へと向かっていった
上空から見た基地の景色は、焼け野原だった
本当に、ここが軍事施設なのだろうか
辺り一体に広がったタンクの残骸のようなものが、そこが「戦場」であることを示している
第345大隊直轄特務飛行隊のノイン上等兵は、危険な飛行であることを悟っていた
ルドルフ曹長は二番機のJu−52に搭乗しており、パレンバンで学んだ操縦技術を早速披露している
あの時発進した、第五滑走路が近づく
その時、航空電探に、新たな反応を見た
ノイン上等兵「敵機か!?」
既に、戦闘隊の航空電探も探知したようだ
自分の搭乗する、Bv238Cを、複数のF4FUが追い抜いていく
第135航空隊、隊長は鳴神少尉だ
初の実戦である。僚機を連れて、敵機の迎撃に向かった
鳴神少尉(車種:61式戦車)「各機、目標は敵戦闘機だ。それぞれ、二機一組で行動せよ!」
確か、Qシュタインのパイロットが開発した戦法だったはずだ
さて、敵機はMig−3が五十機程度だ。たやすい相手であろう
前方、接近する敵機に対し、射撃を開始した
鳴神少尉「射撃開始!」
銃弾は見事、敵Migに直撃し、火を噴いた
続いて、別の機体を狙う
敵機は上昇していた
前方を狙い射撃開始、撃墜した
続いて、輸送機を狙い降下する敵機を狙い、降下した
見事後ろに付く
後は、射撃を開始するのみ
敵機、瞬時に火を噴き、撃墜
さすがに、合衆国で幾度か鍛えただけのことはある
続き、編隊飛行で飛来する敵機
編隊を解除し、各個でそれぞれの機体を狙うようだ
僚機が一機との空中戦を開始した
その時、もう一機が僚機の後ろを取ろうとした
いつぞやかに、日戦軍団のエリートパイロット、新竹大尉を撃墜したサッチウェーブ戦法だ
しかし、そもそも、僚機が空中戦を先に始めたのがサッチウェーブであった
後ろを取った敵機を、こちらが更に後ろに回りこむ
鳴神少尉「裏をかいた戦法、といったところか。射撃開始!」
この落ち着いた口調は、遺伝なのだろうか。妙なところは似たものだ
そして、僚機が、前方の敵機を撃墜し、続いてこちらも、敵機を撃墜した
錬度に差があるのか、こちら側が優位である
いや、錬度だけではない、第112航空隊の最新鋭機の力もあった
ナルア大尉以下、ロドリグ第112航空隊は、J−1サンポート戦闘機とJ−2サイバー戦闘機で編成されている
いずれも、日戦軍団の零戦、烈風とほぼ互角の性能を有する機体だ。無論、このF4FUも、それなりの性能は有しているのだが
質、量共に勝っていたため、敵機の殲滅は短時間で完了した
敵機が駆逐されたため、しばらくは安全だ。そう思って、機を降下させた
ゆっくりと、地下滑走路のハッチが開く
車輪を出し、高度をゆっくりと下げる
そして、高度計が0を指し、着陸する時の小さな衝撃音が鳴った
エアブレーキを展開させ、減速する
機を旋回させ、駐機場まで進めて、停止させた
管制官(通信)「2番機、着陸を許可する」
ノイン上等兵「輸送任務は、これで完了か。いつ、またここから出られるのだろうか・・・」
機内がざわめき始める。物資の揚陸が始まったのだ
これで、しばらくは、この基地も持つだろう
そして、機を降り、2番機のルドルフ曹長と合流した
ルドルフ曹長も、Ju−52から降りてきたところだった
ノイン上等兵「初の実戦飛行としては、見事でしたね」
ルドルフ曹長「パレンバンの訓練の賜物だな、こりゃ」
ノイン上等兵「まあ、しばらく帰れないでしょうけどね」
ルドルフ曹長「だろうな。基地は包囲されている。友軍航空隊は撤退したからな、こりゃ無理だな」
着陸した一式輸送機から、大西准将が降りてきた
大西准将「物資降ろせ!」
二番目を飛んでいた一式輸送機から、次々と物資が降ろされる
別の機体からも次々と兵士が降りていく
その時、富岡軍医大尉が、何両かの部下と共にやってきた
担架の上には、どこかで見たような軽装甲車の姿があった
大西准将「山田、揚陸指揮を頼む!」
山田中尉(車種:五式中戦車)「はっ、了解しました!」
部下の中尉に揚陸指揮を任せ、大西准将は富岡軍医大尉の下へ駆けつけた
大西准将「富岡大尉、どうしました?」
富岡軍医大尉「重傷車がいます!あの巨大輸送機の機長を呼んでください!」
大西准将「第345大隊のノイン上等兵ですね?了解!」
そう言うと、大西准将は、雑談をしている二両のタンクの近くへ向かった
大西准将「ノイン上等兵!」
ノイン上等兵「どうしました?」
大西准将「富岡軍医大尉が呼んでいる!すぐに来てくれ!」
ノイン上等兵「了解!」
ルドルフ曹長「おまえが指名されるなんて、一体何があったんだ?」
ノイン上等兵「富岡軍医大尉のことです、負傷車が出たに違いありません」
そう言うと、富岡軍医大尉の所まで走っていった
ルドルフ曹長「何があったんですか?」
大西准将「重傷車だ。さっき司令部がやられた時に、瓦礫の下敷きになった奴らしい」
ルドルフ曹長「司令部がやられたんですか。通りで、途中から通信が途絶したわけですね」
大西准将「ああ、川井の予想通りだった」
Bv−238C以外の、全ての輸送機が、格納庫へと収容されていった
山田中尉「司令!全物資、部隊の揚陸、完了しました!」
大西准将「分かった!すぐにそっちに行く!」
部隊の指揮官とは、忙しいものだ
ルドルフ曹長も、他の仲間に続いて、格納庫へと入っていった
あわただしく、大勢のタンクが、動き回っていた
富岡軍医大尉から知らされた話は、とんでもない内容だった
富岡軍医大尉「ノイン上等兵、すまんが、こいつをどこか別の基地の軍事病院まで運んでくれんか?!」
ノイン上等兵「えっ!?」
担架の上に乗せられていたのは、ルナツー司令部にいたはずの藤田上等兵だった
ベータ奪回後に、ここの司令部に転属したらしい
富岡軍医大尉「司令部が崩落して、その時に瓦礫の下敷きになったらしいんだ。すぐ、あの輸送機を飛ばしてくれ!」
ノイン上等兵「そりゃ、飛ばせることは飛ばせますけど、燃料補給がまだで、ライトウォーター辺りまでしか飛ばせませんし、第一、敵機が・・・」
富岡軍医大尉「ライトウォーターでいい!こいつを死なせたくないんだ!頼む、飛ばしてくれ!」
ノイン上等兵「・・・・そこまで言われましたら、断れません。了解、飛ばしてみましょう!」
そう言うと、ノイン上等兵は、他の乗員を集め、緊急輸送のことを伝えた
藤田上等兵が、担架で機内へと運ばれていく
富岡軍医大尉以下、五両ほどの軍医が、一緒に機内へと入っていった
そして、操縦士たちも、再び機内へと入った
管制官(通信)「離陸を許可する!」
管制官も、事情を分かってくれたようだ
再び、6つの発動機が回り始める
そして、滑走路に進入、ゆっくりと加速する
操縦桿を引き、離陸を開始した
その報告を聞いたのは、飛行訓練を終えた練習機が格納庫に収容された時だった
管制塔からの通信管制を行っていた二両の戦車、いや、厳密に言えば一両の戦車と一両の装甲車は、藤田上等兵が重傷を負いながらも生存しているという話を聞き、大変驚いた
勝山上等兵「藤田さんが生きてるんですか?!」
ガランタン大尉「ああ、ベータ第五飛行場管制塔から、藤田上等兵をライトウォーターの軍事病院に搬送するという報告が入った」
ディール二等兵「ボルナソス大佐の予想通りですね・・・」
勝山上等兵「それで、管制塔ということは輸送機のようですが、護衛に関しては・・・」
ガランタン大尉「護衛は無しだ。第一独立艦隊艦載機が撤退した今、護衛を付けることが出来ない」
ディール二等兵「丸腰で敵制空権の中を突き進むんですか!?」
ガランタン大尉「ノイン上等兵のことだ。やってくれるだろう」
ノイン、確か数日ほど前まで、このパレンバンにいた兵士だ
第345大隊所属でありながら、航空機の操縦ができる兵士として、ここの航空教習所で、六発大型機の免許を取得すべく勉強に励んでいた
そもそも、彼の存在が、第345大隊直轄特務飛行隊編成に至った重大な要素であった
ディール二等兵「確か、元陸軍輸送隊の兵士だったんですよね?」
ガランタン大尉「ああ、第六次キュワール大戦時のころに活躍したものだが・・・」
勝山上等兵「しかし彼ならやってくれるでしょう。免許もなしに、あの機体で飛び立ったんですから」
ガランタン大尉「じゃあ、俺は本部に戻る。通信の受信、頼むぞ」
勝山上等兵「了解!」
眼下の飛行場では、大勢のタンクたちが、格納庫を後に、兵舎へと戻ろうとしていた
Qシュタイン兵士「敵襲!」
銃手の二等兵が叫ぶ
予想通りだ。敵戦闘機が来襲した
La−7が二機。一機の輸送機が相手なら妥当であろう
こちらにも13mm機銃が十二丁と20mm機関砲が二丁あるが、まだ銃手が少ない
一機が銃撃を開始した
左旋回でなんとか回避する
しかし、二機の執拗な攻撃は続いた
機銃で対抗するが、派手な挙動を取っているため、ほとんど敵機には当たらない
斜め後方に回り込んだ一機の敵機が、射撃を開始した
その時、銃弾が胴体、左翼に立て続けに命中した
Qシュタイン兵士「左翼被弾、炎上!」
ノイン上等兵「左翼第三エンジンを停止させろ!」
エンジンへの燃料供給を停止させ、火災を止めるのだ
そして、左翼第三エンジンが停止、無事、火災は止まった
まだ、エンジンは五基残っている。特に問題は無いが、敵機を振り切ることは難しい
ノイン上等兵「副機長、例のものは出来ますね?」
副機長「燃料を大幅に消費しますが、可能ですね」
ノイン上等兵「了解、ロケットブースター起動!」
出撃前に、主翼端に、二機のロケットエンジンを搭載していたのだ
そして、そのロケットエンジンが始動した
550kmを指していた速度計は数秒後に750kmを指した
二機の敵機は、たちまち後方に過ぎ去っていき、遂に電探の索敵範囲外に消えていった
ノイン上等兵「ロケットブースター停止!」
後は、ライトウォーターへ直行するだけだ
無論、燃料は少なくなっているが、その分ライトウォーターには近づいたので充分だろう
燃料がほぼ無くなりかけたころに、ライトウォーターの飛行場が見えてきた
管制塔からも、着陸許可の通信が入る
そして、ライトウォーターの第一滑走路に着陸した。緊急輸送が完了した
司令部に報告が届いたのはそれから数秒後だ
重傷を負った藤田上等兵が、軍事病院に搬送されたとのことだ
松井元帥「何っ!?藤田が軍事病院に!?」
川島兵長「重傷を負いながらも生還したということですよね!」
松井元帥「ティーガー元帥、一旦、指揮を頼む」
ティーガー元帥「了解!」
二両は、司令室を出て、軍事病院へと向かった
山岡大佐たちによって作られた、真新しい施設だ
見張り員たちとすれ違いながら、軍事病院の、藤田が収容された病室へと駆け込む
川島兵長「藤田!」
そこには、ベッドで眠る藤田上等兵と、部屋に残った成田衛生兵の姿があった
成田衛生兵「司令、一命は、取り留めたとのことです」
松井元帥「そうか。良かった・・・」
二両は安心した
川島兵長「ところで、一体、誰がここまで・・・」
成田衛生兵「ノイン上等兵です。よくこんな任務を引き受けてくれたもんですよ」
松井元帥「・・・一両の重傷車だ。あんなに大勢のタンクが死んだんだから、一両でも多く救い出したかったんだろうな」
成田衛生兵「今、機体の整備を行っているそうですよ」
川島兵長「確かに、敵制空権下を強行突破したのでは、損傷ぐらいはありますよね」
松井元帥「まだ、色々と残っているからな、また後で来るよ」
成田衛生兵「了解しました」
そう言うと、二両は医務室を後にした
報告は、直ちにパレンバンへと伝えられた
勝山上等兵「藤田上等兵の軍事病院への搬送完了、状態は良好です」
その報告を終えた、勝山は安心して、再び通信機を眺めた
ディール二等兵「良かったですね、勝山上等兵」
勝山上等兵「一番うれしいのは、多分松井元帥でしょう」
ボルナソス大佐「・・・さすがノイン上等兵。あのロケットブースター、このために用意したのか・・・」
勝山上等兵「・・・・ボルナソス大佐?」
ボルナソス大佐「あのロケットブースター、あいつがわざわざ俺に、あの機体に積ませてくれと頼んだ奴なんだ」
ディール二等兵「ということは、初めから敵制空権下を飛ぶことを予測していた・・・ということですか?」
ボルナソス大佐「強行輸送作戦の計画は以前からあったからな」
パレンバンの軍港には、複数の艦艇が集結しつつあった
この艦艇にも、何らかの任務があるようだ
その任務に関しては、次回に語るとしよう
第六十話 終わり